フルボッコバレンタイン
「俺が生徒会長に立候補したらこんな演説しようと思うんだ。
『私には夢がある。モテる者とモテざる者。リア充と非リア充。いつの日か彼が同じテーブルにつけることを。私には夢がある』
どう?」
「いやどうって言われても・・・」
まるで演説をするかのように手を大仰に振って言い放った高崎に感想を聞かれたが小野坂はあきれてなにも応える気にならない。
「清き一票を」
「つうか立候補する動機は?」
「モテたいから」
「その意気やいざきよし、だな」
「俺、中学のときに『お前は平安時代ならモテモテだな』って言われたことある」
「それ褒めてなくねえか?」
「渉はモテる秘訣知ってるか?」
「知ってたらお前と一緒に下校したりしねえよ」
「モテるためにはモテいづる出身のモテる奴から話を聞いたほうがいいらしいな。『モテはモテ屋』だ」
「そいつは誰から聞いた?」
「モテない奴から」
「・・・その話、大丈夫か?」
「あとドSクールがいいって聞いた」
「ますます大丈夫か? あ、でも待てよ。モテる奴といやあ、ウチのクラスにめっちゃモテる奴いんぞ」
「マジで?」
「ほら。あそこにいる
小野坂が指さした窓際の席に座る男子生徒の顔つきは西洋人のようで、ピンク色のセーターをYシャツの上に着用している。
その二階堂という生徒は肩より少し伸びたパーマがかった自分のロン毛をスマホの画面が手鏡になるアプリを使って髪型が崩れていないかチェックをしていた。
「あのヘアーチェックしてる奴?」
「そう」
「へえ。お~い二階堂~」
高崎は躊躇なく二階堂に声をかけに行った。
「なんだい?」
二階堂はスマホに目を落として髪の毛のチェックを続けたまま涼しげな口調で応えた。
「二階堂ってモテるんだろ?」
「そうだね。モテるね」
顔を上げてシレっと応える二階堂に目をパチクリさせる高崎朔は小野坂に目をやると小野坂は頷いてみせた。
「な?」
「いるもんなんだなあ。モテる奴って」
高崎は素直に感心してしまった。二階堂は事情が飲み込めず?という表情を浮かべ顔を傾けるとコケティッシュな様が出ていた。
「それで? なにか用かい?」
「ああそうだった。二階堂さ、俺にモテる秘訣教えてくれない?」
「モテる秘訣? なんでだい?」
「そりゃあモテたいから。モテてバレンタインのチョコ食べ過ぎて鼻血出せるくらいになりたい」
二階堂はバレンタインというキーワードを聞いて眉を少しひそめた。
「う~んバレンタインかあ。確かに僕は当然のように甘いチョコをたくさんもらってたけど1つだけ苦い経験をしたことがあるんだ。聞きたいかい?」
「へえ。聞きたいな」
◇◇◇◇
「それ義理だから」
夕日が差し込む学校の廊下でその子はそう言いながら僕にチョコを渡してきたんだ。ありがとうと受け取るが僕はその子が照れ隠しに『義理だから』と言ってると思ったんだ。当然本命だろうと。だから僕は彼女を見つめながらこう言ったんだ。
「これ、本命、だよね?」
すると彼女はすごく嫌そうな顔をして言った。
「はあ? 義理だって義理。ある意味本命的なくらいなほど義理」
そう言われたら仕方がない。勘違いしていたと僕は謝った。すると彼女はこう言った。
「あったり前じゃ~ん。アンタなんかに本命とかそれだけはないから~。本命とかほんと勘違い甚だしいから~。いっとくけどそのチョコ、迷ったけど義理としてあげることにしたやつだから」
僕はその言葉を聞いて一縷の望みを抱いた。
「それってもしかして・・・本命であげるか義理であげるかで迷ったってことかい?」
その途端彼女は僕を見下すような目つきをして言った。
「さっきなに聞いてたの? 本命だけはないからって言ったじゃん。義理としてあげるか、全くなにもあげないかで迷ったの。本命をアンタにあげる義理はこれっぱかりものない」
そこからの彼女の言葉を今でも鮮明に覚えているよ。
「ギリギリ義理なようなもんだからそれ。他の人にあげる予定の分の義理チョコをデパートで買って家に帰ってる途中で『そういやアイツもいたな』ああ、アンタのことね。ったくさあ。同じクラスで、しかも前の席に座ってるもんだから嫌でも毎日背中と後頭部が目に入るんだよね。で、まずいことにアンタを想い出しちゃったもんだから、ちょうど通りがかってたコンビニに入って、さっき予定の分のチョコを買うときに使っちゃったから、あんま金の持ち合わせがなくて『予定外の出費がかさませんなよ』って恨みつつ一番安いのを仕方なく、ほんと仕方なく『まあ3倍返しってこともあるし投資目的で今が買いどきか』ってことで買って、買ったはいいけどやっぱ渡すの面倒になって、じゃあ自分で食べるかって思ったけどダイエット中なのに気づいて、それなら仕方ないかと何度も自分に言い聞かせて、かなり迷ったあげく渋々渡すことにしようと苦渋の決断をして、本命と間違われると嫌だし困るし大迷惑だからラッピング袋にテキット~に入れといたチョコだからそれ」
なぜかそのチョコは苦い味がしたのを今でもはっきりと覚えているよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます