剣神

戦いの火蓋が今切られた。


カインは冷静に仲間達に指揮をする。


「ミーシャと俺はアーロイを抑え、ユウとアリスは支援役の二人を狙え!」


「「了解!」」


「おいおい、儂を無視とはツれないじゃないの。」


「「させねぇよ!」」


支援役に攻撃しようとするアリスとユウを、アーロイは止めようとするが、ミーシャとカインが止めに入る。そして、ミーシャはアーロイを羽交い締めにする。


「ミーシャ、そのまま止めてろ。」


「"あれ"だな、カイン!持って5秒程だが、やれる!」


「そんだけあれば十分だ!」


カインは深く呼吸する。その独特の呼吸は、マナを一時的に莫大に上昇させる、カインの奥の手。


「ふしゅるるるるるる、発勁!」


マナを限界まで高めた掌底。シンプルな攻撃だが、カインのそれは単純さを極めた故の極致。ミーシャごとアーロイはふっ飛ばされる。


「ガハッ、なんて威力だよ。マナを纏わせた野太刀木刀ごと折れちまった。」アーロイは吐血し、獲物も折れた。風向きは一気にカイン達に向いた。だが。


「「アーロイ!」」


「お二人さん、余所見は駄目だぜ。龍水剣!」


「危ない、エリカ!」


高水圧を纏わせた素早い斬り抜けでユウは二人を狙ったが、ヒロムの防御により失敗に終わった。


「ユウ、アリス!アーロイが獲物を失った!こっちに全戦力をぶつけるぞ!」


「「了解!」」


「おいおい、儂も舐められたもんだな。アームド。」


「え?」


アーロイがそう呟くと、高密度のマナが彼を包み込む。


「アーロイもかよ...」


「今まで模擬戦では本気になったことは無かったからな。だが、お前等は本当に強くなったよ。同じ生徒としても、一人の武人としても認めよう。さて、ここからが本当の戦いだ。」


マナが収束し、その姿が明らかになる。


「フツヌシ、行くぞ。」


それは、異形にして神聖。そう呼ぶのが相応しい姿だった。光輪を背に、周囲に刀を浮遊させ、白と黒の筋骨隆々の肉体に、右手には倶利伽羅剣を持った鬼神、いや、剣神が目の前に居た。


「全員、自分の身を護ることに専念しろ!エーテル強化!オラァ!」


カインが叫ぶ。


だが、それは仏の掌の上で足掻くのと等しく。


「剣銃、射出。」


アーロイがそう叫ぶと、展開していた刀が嵐の雨の様な勢いでカインに射出される。


「グッ、クソッ!」


カインは受け流しの要領で、エーテルを纏わした拳を使い、アーロイの刀を捌くが、それも虚しく、次々と刀が五体に突き刺さる。


「ガハッ、すまねぇ、みんな。後は任せたぜ。」


カインはそう言い残し、シュミレーション空間から離脱した。


「すまない、カイン。この雪辱は必ず果たす。ユウ、やるぞ!」


「ああ、意識下で使うのは初めてだが、やるしかないな!アームド!」


マナの乱流に、激痛が走る。魔術回路が灼け切れそうだ。だが。ここでやらねば俺達は負ける。前に進む、その意志が。強さを生むのだ。


「アズ、行くぞ。」


「ユウ、魔力切れを狙うぞ!スピードではこっちが劣る、だが、あれだけの魔力を供給されてれば、支援役の魔力も枯渇する!それに対して、こちらはカインやエリザ達の落とした回復薬がある!勝機はこちらにあるぞ!」


「ああ、やってやろうぜ!ミーシャはアリスを護りながら、弾幕を防いでくれ!俺は直接アーロイと切り合う!」


「良い連携だ。だが、グリーンクロウの結束はそれに勝るぞ。」


「「行くぞ、アーロイ!」」


「いつでもこぉい!」


「武装魔法発動、黒鉄の盾!」


武装魔法とは。アームドを行った術者が行える固有魔法。それは通常の魔術と比べ、何倍もの強度を誇る、必殺の技である。


黒い巨大な盾が、ミーシャとアリスを覆う。そこから疾風の如き速度で飛び出すユウ。


「武装魔法発動、幻影陣!」


ユウは五十体程の分身を生み出し、一気に襲い掛かる。


「物量作戦か、面白い!」


アーロイは不敵な笑みを浮かべ、暴風雨の様な剣速で次々とユウの分身を斬り刻む。だが、一人一人がアズと同等の実力を持つ剣聖故に、処理に時間が掛かる。


「ミーシャ!今だ!」


「これが狙いか!おのれぇ!」


アーロイが気付いた時には遅く、ヒロムとエリカはミーシャの一閃によって倒れた。


「これで3対1だ、アーロイ。まだやるよな?」


「勿論だ、英傑達よ!ここまで心滾る死合は初めてぞ!フツヌシ、極限強化!」


蒼いマナの乱流が、雷電のように迸る。


「不味い、ユウ、アリス、下がれ!」


「絶技 慈眼流 空将切断。」


蒼いマナを纏った倶利伽羅剣が、ユウ達に襲い掛かる。


「武装魔法発動、黒鉄の盾、最大出力!」


ミーシャの展開した盾とアーロイの倶利伽羅剣がせめぎ合う。


「「うおおおおおおお!」」


二人の全力の絶技がぶつかり合い、交差する。


勝者は。


行き場を失い、オーバーロードしたマナが大爆発を起こす。


「きゃあああああ!」


「うわああっ!」


アリスとユウは吹き飛ばされ、辺りは更地になる。立っていたのは。


なんと、両者。だが。ミーシャは絶命していた。「死して尚、立っているとは。重戦士の鑑よ。後で酒でも酌み交わそうぞ、ミーシャ。」


ミーシャは脱落し、回復薬が落ちた。


「ミーシャ!」


「ミーシャくん!」


ユウとアリスが戻ってきた。


「...!後は俺達二人だけだな。アーロイ、これをやるよ。」


ユウは回復薬の半分を渡した。


「...!なんと。この状況で敵に塩を贈るとはな。先程の恩返しか?」


「それもそうだし、このまま行けばあんたは自動的にマナ切れだ。それで勝っても意味が無い。」


「だが、それはミーシャの意思に反するのでは?」


「勝利よりも大事なものがある。それは正々堂々、お互いの死力を尽くして切磋琢磨すること。それはきっとお互いの尊敬に繋がることだ。俺は、この戦いを通じてあんたを知りたい、アーロイ。」


「カッカッカッ!面白いぞ、小僧!では、遠慮なく使わせて貰おう。」


「ああ、では俺達も。」


ぐびりと飲む三人。


「さあ、これで終わりにするぞ!」


「いつでも来い、小僧!」


「「極限強化!」」


ユウは示現流の八相の型に刀を構え、アーロイは霞の型に刀を構える。


「影流 雲燿剣!」


「絶技 慈眼流 空将切断!」


お互いの全力、死力を掛けた一刀が組み交わされ、戦いの幕は降りた。

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