閉幕
マナの大爆破が起こり、煙が晴れる。勝者は。
「ぐっ...武装が解けたか...」
「そのようだな。惜しかったな、ユウ。勝利は儂達グリーンクロウが貰う。だが、今までで
最も心躍る戦いだったぞ。」
「俺もだ、アーロイ。世の中にはこんな強え剣士が居ると知れて良かった。ナイスファイト。」
「ああ。」
そう二人は言い交わし、拳を合わせると、ユウは介錯され、戦いは終わった。
「勝者、グリーンクロウ!やはり無敗の王者は今年も最強でしたぁ!皆様、競技者の皆様に盛大なる拍手を!」
稲妻のような多大な拍手が鳴り響く。
「みんな最高にカッコよかったぞ〜!」
「ミーシャくんこっち向いて〜!」
観客達の黄色い声援が起こる。
「へへっ、今まで良いとこ無しだったから照れるね、ユウ。」
「漸くミーシャも報われたって感じするな。お前とカインがこのチームのMVPだよ。」
「ユウだって初出場だったのに大活躍だったじゃない。エルくんを落として、アーロイと互角に戦うなんて凄いよ。」
「いや、あれは殆どアズラエルやブルーシリウスの皆が居たからだ。俺自身の力では誰一人倒せなかった。本当にありがとうな。」
「ケッ、これだから坊っちゃん育ちは。おいユウ、ちょっと裏まで来い。」
エルが苛立ちながらユウに声を掛ける。
「悪い、ミーシャ。行ってくる。」
「またエルくんが意地悪しないか心配だけど、行ってらっしゃい、ユウ。」
「ここなら大丈夫だな。おい。」
「な、何でしょうか、エルさん。」
「さっきはすまなかったな。ミーシャのことも。」
「気にしてないよ。エルもやっぱり事情があって荒れてる、というのは俺も分かってたから。ただ、俺にしたことでお前の評判が下がらないか心配だ。」
「それは大丈夫だ。電子妨害魔術を使ってたから。後、試合中、実はお前の心を覗かせて貰ってた。読心魔術でな。」
「え?」
「そこで俺の内に湧き上がったのは、憎しみと嫉妬だった。なんでお前はそんな辛い目に遭ってるのに、そうやって人を信じられて、自分の信念を曲げずに誰かと関われるのか、と。俺は表面だけ取り繕って、全てを見下してるのに、なんでお前は、って思ってた。俺はクズだからさ。」
「エル、それは違う。人間は大小それぞれ、違う地獄というのを生きてる。それは俺やエルだってそうだ。」
「そして、その中で傷が出来て、例えその人が誰かを傷付けても、当時者でもない奴等が傷付いた人を裁く権利は無い。」
「何故なら、この世が因果応報という理不尽を押し付けてくる世界だからだ。」
「俺は弟を無くし、宗教に縋った親に殴られながらこう言われた。"お前が俺に殴られるのはお前の業のせい だから自業自得であり因果応報"ってな。」
「だから、こんな腐った世界だからこそ、傷付いた人は、誰かを傷付けた分も、皆に赦される権利があると思うんだ。俺はだから、この魔法の世界で、傷付き傷付けられても、お互いの落ち度を認め合い、皆が赦し逢える世界にしたい。」
「そしていずれ、俺の親さえも赦せるようになって、立派になった姿を見せたいんだ。何故なら、親父も弟を喪って傷付いた人だから。」
「フッ、なんだそりゃ。お前の親父は宗教狂いだが、お前もお前で抹香臭いぜ。だが、甘さも極めればそれは正しさだ。気に入った。お前のことをよ。」
「...!ありがとう、エル。今度は、お前の話を聞かせて貰えるか。」
「ああ、いいぜ。ただ、僕達だけの秘密だぞ。」
________
「エル...お前、そんな痛みを抱えて、一人で戦ってたんだな...」
「ああ。でも、これからは二人で、いずれは全員で、似た痛みを抱えて生きていこう。お前のおかげで、少しは人を信用する気持ちになれた。ありがとよ、相棒。」
「エヘヘ、そう言われると照れるな。あ、そろそろ閉会式だ。行こうぜ。」
「応。」
「も〜二人共何処行ってたのよ〜!まさか、ボーイズラブ的な展開?」
まさかの発言にユウとエルは顔を真っ赤にする。
「おいおい、アリス。まさか君にそんな趣味があったとは。まあ、近からず遠からずだが...」
エルが苦虫を噛み潰したように言う。
「エッ、まさか本当に...♡」
「アリス、もう良いだろ、恥ずかしいよ...」
「ごめんごめん、ちょっと妄想が過ぎました(笑)じゃあ、行こっか!」
「うん!」
「さーてお集まりの皆さん!優勝したのはグリーンクロウですが、それとは別に、サリエンス学長のご意向で、私が決めた特別個人賞を参加者に捧げたいと思います!」
「なんと、全員がブルーシリウスの生徒です!」
「おお、俺の生徒も遂に喝采を浴びる立場か。感慨深いな。」
クラス担任の迅が呟く。
「まずは三位!ミーシャ・ブラックストーン!彼は今まで戦えなかった立場から一変し、今大会で覚醒を果たし、獅子奮迅の活躍をしたことで、三位に入賞しました!えー、ではミーシャさん、コメントを一つ。」
「え、えと、あの、とにかく皆、応援してくれてありがとう!」
「重戦士の鑑だったぞ〜!」
「カッコ可愛いよ、ミーシャくん〜!」
「へへっ、ミーシャのやつ、平常時はいつもの人格に戻るのな。なんか安心したわ。」
カインがほっ、と息を付く。
「次は、第二位!カイン・アドム!レッドオウルの二人に囲まれ、それを切り抜け、更にその後もグリーンクロウを見事な連携で追い詰めた、脳筋に見せ掛けた策士!今回は彼のクレバーな一面が垣間見える大会でした!えーでは、コメント一つ。」
「うおっほん。皆、応援してくれてありがとな〜!負けたけど、ただの馬鹿じゃないってこと、証明出来て良かったぜ〜!」
「よっ、名軍師カイン!」
「技量戦士の鑑だ!」
生徒達が捲し立てる。
「えー、では皆様、お待たせしました!遂に待望の個人1位は、なんとノマグからマグスの道へやってきた新世代。左門勇くんです!」
「誰?」
「ほら、あれだよ、サリエンス学長の推薦で入った奴。」
「でもあのアーロイさんと互角以上に戦ってたぞ。」
「でもゴーストが凄いだけでしょ?本人は活躍してないじゃない。そんなやつが1位で良いの?」
会場がざわめく。
「えーっと。皆さん。新参が1位を取ることをおかしいと思うのは普通のことだし、本当に俺なんかが取っても良かったのかな、と疑問に思ってる所もあります。」
「でも、俺はもっと皆さんのことを知りたいし、この世界も俺の住んでた世界同様、闇が深いと知っています。だからこそ、この学園全体で、そんな闇を光で照らすような活動を、導くような人間に俺は成りたいのです。俺はこの世界を変える。その為に来ました。」
「新人がナマ言ってんじゃねぇぞ〜!」
「生意気だぞお前!」
「「ひっこーめ!ひっこーめ!」」
「お静かに!!」
サリエンス学長が叫ぶ。
「彼は貴方方には耐えられないような苦痛に耐えて来て、そんな絶望を知りながらも、それでも世界を変えようと抗う覚悟を持った人間です。彼を侮辱する者は私が赦しません。」
「彼は、幼い頃に兄弟を亡くし、両親に虐待を受け、それでも人を愛することを辞めない善人です。侮辱する貴方方に、それだけの人間性を持つだけの人は居ますか。」
しーんと、静まり返る生徒達。
「この学園に入った以上、誰であっても家族同然です。それだけは理解してください。では。」
「先程は、挑戦的な言動をしてしまい、失礼しました。でも俺の意思は何を言われても変わることが無いし、学園の皆さんに家族だと思われるだけのことを地道にやっていき、信頼を獲得したい、ただそれだけです。どうか、これから宜しくお願い致します。」
一瞬静まり返る生徒達。
(やっぱり駄目か)
だが、ユウの思ってる反応とは違った。
「ここまで言われてブレないのは本物だよな!」
「漢だぜ、ユウ!」
「よく見たら顔も男前ね〜!」
「サリエンス学長が認めるのも当然だな!」
「...!宜しく、みんな!」
「「「こちらこそ!」」」
「ふう、なんとかユウくんが受け入られて良かった!ね、ミホちゃん!」
「うん、アリスちゃん。良かった...!」
「えー、ではこれから、最後の催し物である、女子軽音楽部による演奏会です!」
「アリスさん、ミホさん、エリザさん、エリカさん、どうぞ!」
喝采と喧騒の中、学園祭は幕を閉じた。
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