豪傑
ミーシャ達とは別の場所では孤立したカインと、レッドオウルの二人が死闘を繰り広げていた。
カインは魔術が使えない。使えるのは霊体憑依と魔力による強化だけだ。
その素質は天才と言っても過言ではなく、対面での戦闘ならば無類の強さを誇る。
だが、これはチーム戦。
魔術による自己強化や、仲間からの支援魔術が受け取れない状況では、どんな戦いのセンスがあったとしてもそれは宝の持ち腐れしかならない。
だが、常に例外は存在する。一人で戦況を覆す無双の豪傑は確かに居るのだ。
「やるねぇ、カイン!アタシ達の連携を前に、まだ立ってるとは驚きだよ!だけど、それもそろそろ終わりだ!行くよ、カズマサ!」
「ああ、終わらせるとすっか!」
「「極限強化!」」
極限強化とは。魔術師が自らのゴーストを使い、使用後自らのマナを枯渇させることを条件に、五感のブースト、マナと身体能力の莫大な上昇を約束する魔術師達にとっての奥の手である。
エリザ達は、眼前の強者に敬意を払い、全力を持って止めを刺すことを決めた。だが、そこに"例外"がやってきた。学園最強、無双の豪傑が。
「トドメだよ!」
朦朧とする意識の中で、カインは呟いた。
「不甲斐ないリーダーでごめんな、みんな。また勝てなかった。」
刹那。
音速、いや、光速と見紛う速度で二メートル近くはある巨漢がエリザ達の背後を取った。
「!」
気付いた時には遅く、巨漢の振るう木製の大太刀による一撃で、二人の肉体は真っ二つに分割され、離れた胴体と下半身は宙を舞った。
そして、二人は回復薬を残し、シュミレーターから脱落した。
「おいおい、学園最強がおいでなすった。」
「ちょっとシンちゃん、早すぎるって!」
「エリカの言う通りだ、シン。ワイ達はあくまでも支援役、前衛がそんな前に行っては追い付けんし、もしものことを考えてくれ。エルも脱落したんだから。」
小柄な二人がそそくさとシンに追い付いた。
「すまねぇな、二人共。エルが脱落したと聞いて、儂は冷静では居られなかった。で、偵察してた儂のゴーストから聞いたが、エルをやったのはお前のチームのユウとかいう小僧だな。」
「それがどうしたんだ。今あいつは居ないぞ。」
「なら、エルの右腕である儂が、雪辱を果たすことこそが武士としての本懐。仲間を護る為に、先程の二人相手に耐え凌いだお前に敬意を払い、小僧が来るまで儂はお前に手出しはしない。それが武士道精神だ。」
愚直かつ、時代錯誤だが一本筋の通った主張にカインは呆気を取られたが、次の瞬間にはニヒルな笑みが溢れていた。
「そっか。ありがとうな、シン。だが、ウチのユウは強えぞ。一見打たれ弱いが、奴の強さは、窮地や絶望の中で生き抜く芯の強さだ。それはきっと、学園内で一番かもな。」
「違いない。エルを倒したヤツなんだ。強さも無く、仲間を置いて逃げるだけの凡夫であったら、儂は失望する所だった。さて、ヒロム。炎魔術を発煙筒代わりに使ってくれ。それを目印にしよう。」
「分かった。イグニス・フレア・スモーキー。」
そう詠唱すると杖から赤く光る煙が青空に上がっていった。
「おい、カイン。これを使え。」
「よっ。これ、エリザ達の回復薬じゃねぇか。敵に塩を送るような真似して良いのか?」
「儂は、強者と戦うことを至上の喜びとする。だから、万全の状態で来て欲しいんだ。」
「粋だねぇ。」
「儂は武士だからな。」
「では、使わせて貰うぜ。」
15分後。
「おーい、カイーン!」
「おお、来たかユウ。ん!?そのマッシブな兄ちゃんは誰だよ!?」
「ああ、彼はミーシャだよ。ゴーストと融合したんだけど、同調率が高過ぎて精神年齢も本来より成長してしまったみたい。」
「俺達の為に奮闘してくれて、本当にありがとうな、カイン。これからの俺は、守られるだけの泣き虫ミーシャじゃない。この班の楯である、護る者ミーシャだ。」
「おお...なんか聖人のような雰囲気になっちまったけど、根っこは前のミーシャだと同じってことはソウルで理解したぜ。班のリーダーとして、俺はお前が強くなって本当に嬉しいよ。」
「ごほん、では、そろそろ準備はいいか?」
「「ああ!」」
「ヒコナ・ブーステッド・フレイム!」
「サラスヴァティ・ブーステッド・ウォーター!」
「先に言っておく。エル含め、儂を除いた班のメンバーは全員支援タイプだ。カイン、その意味が分かるな?」
「ああ。一人で戦況を維持、或いは変えられるだけの特記戦力だってことだろ。」
「正解だ。では、シン・アーロイ、参る。」
カインが発破を掛ける。
「ブルーシリウス、行くぞ!」
「「ああ!」」
「イシュタ・ゾーンブーステッド・ウィンド!」
「アズラエル・エンチャント・ウォーター!」
「アームド!」
「やってやろうぜ、バアル!」
アリスは仲間の陣形に作用する強化魔法、ユウは木刀に水圧で切断する刃を纏わせ、ミーシャは霊体武装、カインはゴーストを憑依させた。
カインが指示する。
「今のアーロイはまともにやっても無理だ!先に支援タイプの2人を狙うぞ!」
最後の戦いが、幕を開けた。
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