死闘

カインとアリスは、仲間を二人欠けた状態で戦いをすることになってしまった。


「相手にとって不足なし!アリスはとにかく自衛最優先で戦え!支援役が居なくなったらこちらが圧倒的に不利だ!」


「分かったわ、カイン!」


「さあ、俺達も本気を出そうか。なあ、ミホ。」


「サモン。焼き尽くせ、イブリース!」


「サモン。癒やしを与えよ、アリヤマン!」


「私達はもう既に憑依させてる。いつでも行けるよ。」


「じゃあ蹂躙の始まりだァ!行くぜ、野郎共ォ!」


普段は二枚目であるケイがまるで狂戦士のような形相で、走り出す。カインは躰道の構えを取り、迎撃の準備をする。


「イフリータ・バサクパシブ・フレイム!」


「こうなっちまった俺は誰にも止められねェ...!覚悟しなァ、カインンンン!」


全身の筋肉が怒張し、鬼神のような姿をしたケイが、大斧をカインに振りかざす。だが。


「力任せの一撃なんぞ、屁でもねぇよ。ホレ。」


カインは回し受けの要領で攻撃をいなし、ケイの顎に強烈なワンインチパンチの連打を叩き込んだ。


「必殺、連環拳。いくらお前のようなタフガイでも、脳が揺れたら多少は怯むだろ。そしてぇ、オラッ!」


今度は目潰しをした後、怯んだ隙を狙い、顎に強烈な右ストレートを叩き込む。


膝、腰、肩から手首に掛けてのバネを最大限活かした一撃をケイに繰り出した。狂戦士と化したケイは奥の林まで吹っ飛ばされた。


「これで暫くは戦線復帰出来ねぇだろ。今度はエリザとカズか。」


「俺達を忘れて貰っちゃ困るぜ。イート・アースリング・クエイカ!」


カズマサは詠唱し、大槌で地面を沈め、分断用のリングを造った。


「こいつは厄介だな。来いよ、御二人さん。」


「じゃ、遠慮無くいくよ。アドマ・サンダーボルツ・モデウス!」


エリザは槍に電気を纏わせ、回し受けをしようが感電によって怯む状態を造り出した。


「これは回避に専念するか。」


「させないよ...!」


エリザは持ち前の無尽蔵なスタミナを活かした槍による乱撃を繰り出す。


だが、それを全て回避するカイン。そして、追撃として合間に入るカズマサの重たい一撃を、回し受けでいなしていく。


「オラオラァ!どうしたカイン!さっきの一撃、俺等にもやってみろよ!」


「持って後十分って所か...」


一方、地上では。


「アリーヤ・ヒーリル・フレイム。ケイちゃん、これで元通り。」


「あんがと、ミホ。さて、こちらはウサギさん狩りと行きますかね。」


アリスに獲物を向ける二人。


「させない...!ヴィナス・アームド、きゃっ...!」


詠唱の途中で容赦無く大剣による一撃を放つミホ。アリスは吹き飛ばされ、大木にぶつかり、血を流して失神した。


「うわぉ、エゲツねぇ。」


「これはシュミレーターとはいえ、真剣勝負だからね... ごめんなさい、アリスちゃん。とどめ、刺させて貰うね...」


その瞬間。盾と片手剣を構えた、鎧を纏う天使が、音速の如きスピードでアリスの眼の前に立ち、二人を吹き飛ばした。


「ミーシャ...くん?」


数十分前。


「はあ、はあ、ここまで来れば安全、かな... ねぇ起きてよ、ユウ!このままじゃ、僕達負けちゃうよ!本当に頼むって!」


虚ろな目で口を開くユウ。


「ミーシャ、追い詰められた今こそがゴーストを得られるチャンスだ...やり方は分かるな...?極限状態まで追い詰められた精神状態で、自らの命を断つ...幸い、ここはシュミレーターだから痛みもない...俺は動けない、後はお前の覚悟次第だ...!」


「でも、自殺なんでしょ!怖くてそんなこと出来ないよ!」叫びながら大粒の涙を流すミーシャ。


「ミーシャ、このチャンスを逃せば、お前は一生泣き虫のままだ...だが、殻を破れば、お前は新しい自分に生まれ変われる...より強靭な自分にな...」


「応援してる、ぞ...」そう言い残し、ユウは意識を失った。


「ユウ!ああー、もう!やるしかないや!」


ミーシャはそう叫び、武器の片手剣を心臓に突き立て、血を流し倒れた。


気が付くと、ミーシャは見たことのない鍛冶場に居た。


「ここは...」


「ようやく気付いたか、少年」


「あなたは...?」


「天界という世界で、天使長と呼ばれてる者だ。大した者ではないさ。」


「天使長...何故、あなたのような凄いお方が、僕に...?」


「それはね、ミーシャくん。君はどんなに他者に苦しめられて、泣くほど悔しい想いをしても、自分の為には涙を流さず、いつも誰かの為に涙を流し、常に自分より強い者に立ち向かう姿勢があるからだ。」


「勝手に悪いが、君の記憶を見せてもらった。自分共々いじめに合い、守り切れず失ってしまった友達が居たそうじゃないか。」


「はい、だから僕は、二度と仲間を失いたくない。その為に、今は勝たなきゃいけないんだ。力を貸して下さい、天使長さん。」


ミーシャの目には焔が灯っていた。もう誰も失わないという覚悟が。


「宜しい。私は黒鉄の騎士、天使長ミカエル!共に来い!契約者よ!」


「「サモン!」」


「へっ...やっぱお前は、デキる奴だぜ、ミーシャ。」


ユウの眼の前には、あの小さな少年ではなく、筋骨隆々、強面で歴戦の戦士の様な風格を持つ男が立っていた。


「ユウ、俺が皆を守るよ。サモン、ミカエル。霊体武装。」


巨漢の騎士は、静かにそう呟き、仲間の元に向かった。


そして現在。


「その獲物。ミーシャだな。どうやらゴーストと契約したと同時に、霊体武装を取得したようだな。流石だよ、お前の潜在能力は、この学園でもトップクラスだったと俺は見抜いてた。何故なら、誰かの為に怒れる奴が一番強え。今みたいにな。」


「称賛の言葉、感謝する。だが御託はいい、来い。」


「ああ。行くぞミホ。互いに全力を尽くそう。」


一閃。ただその瞬間で、勝負が付いた。

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