交流会

ピピピピ、ピピピピ。勢いよくアラームが鳴り、目が覚めた。今日は文化祭当日の日だ。どんな1日になるのだろう、と心を踊らせながら、俺は急いで寝癖で滅茶苦茶になった髪をセットし、顔を洗い、歯を磨く。部屋を出た。部屋の前には、ミーシャが居た。


「よう、ミーシャ。」


「おはよう、ユウ。二人はまだ寝てるみたいだね。先に食堂に行こう。」


「おう。」


今日の朝飯は、たらこと梅のおにぎり二種、味噌汁、きゅうりの浅漬け、焼き鮭と、健康に良さそうな和食メニューだ。俺はたらこおにぎりを選び、座席に着く。


「おはよー、ユウ。」


「おはよう、ユウくん。」


カインとアリスもやってきた。「おはよう、二人とも。」


「今日は文化祭の日だぜ、文化祭!屋台も出るし、模擬戦の後は、バンドのライブもある!楽しみだぜ!」


「カインはいつも元気だなぁ。」


「下を向いてても良いことなんて無いからな!俺はいつもポジティブ思考だ!」


「それもそうだな。前向きに生きるのは良いことだ。これ食ったら行こうぜ。」


俺達は食事を済ませ、文化祭のエリアへ向かった。


「お、ブルーシリウスの面々も来たな。今日はよろしく!」


「ユウくん達も来たね。今日は気軽に戦おう。」


レッドオウルの班長である啓太と、グリーンクロウの班長であるエルも来ていた。


「やあ、ケイ、エル。模擬戦までは一緒に回ろうぜ。」


「それもいいな!では行こう!」


「ああ。」


学院の野外スペースは、様々な屋台が出ており、魔術と科学を融合させたホログラム技術と、学院長サリエンスの植えた華で、美しく輝いて見えた。ホログラムでは、模擬戦に出場する選手が写っており、その近くの屋台では、ファンメイドのフィギュアが売られていた。そこの生徒達はどの選手を応援するかで賑わっていた。


「お前は誰応援するよ?俺は勿論、学院内での剣術最強のシン先輩かな!男子のロマンと言える扱いの難しい野太刀を担いで悪魔や怪物をバッタバッタと薙ぎ倒す、その姿に憧れを覚えない男は居ねぇだろ!この前の遠征ではS級悪魔を討伐してたし、本当にカッコいいぜ!」


「私はケイくんかな。シン先輩も渋くてカッコいいんだけど、ケイくんはあのモデルみたいなルックスとクールな性格で、パワーファイトするのがギャップ萌え!」


「分かる!ケイくんもカッコいいよな!あ、店員さん、シン先輩のフィギュアとケイくんのフィギュア一つずつ!」


「ごめんなさい、その二つは人気が高くて売り切れなのよ~」


「マジか~ それは残念...」


その生徒にシンが声を掛けた。


「よお、俺のフィギュアが欲しいとは嬉しいじゃないの。」


「うわ、マジか!リアルシン先輩だ!しかもケイくんまで!」


「キャー!ケイくーん!笑ってー!」


「はい、これでどう?」


「推しがこっち見て笑った...卒倒しちゃいそう...」


「フィギュアの代わりといったらなんだが、俺達と写真でも取らないか?それぐらいのことならば俺とシンはいいぜ。だろ?シン。」


「無論。ファンの気持ちに答えるのは強者として当然だ。」


「是非お願いします!」


パシャリ。ファンの生徒二人の姿に笑顔で笑うケイと、野太刀を背負って腕を組むシンのツーショットが撮れた。


「ありがとうございます!この写真は一生家宝にします!」


「そいつは嬉しいな。大事にしてくれ。」


そんなこともありつつ、シンとケイと一緒に俺は喋り始めた。


「ケイもシンも、凄い人気なんだな。」


「まあ、人気過ぎても少し疲れる。偶像化され過ぎても、英雄扱いされて人間的に弱い部分を隠しながら生きなければならないからな。それだけ期待されてるってことなんだし、重圧もある。でも、その仲間達の声援があるからこそ俺とケイはこの魔術学院の英雄として頑張れるんだ。」


「凄いな、二人は。」


「本当、グリーンクロウの誇りだよ、シンは。僕は司令頭としては優秀だけど、シンみたいに前線を張って戦えるわけじゃないから、みんなを鼓舞する班の花形としてシンは必要不可欠なんだ。」


エルが自嘲気味にシンを褒める。


「いやいや、俺がそうやって戦えるのは頭脳に優れたお前が居るからだ。エルが頭で、ヒロやリカ、俺は手足。俺達が倒れても、お前が指揮してくれれば俺達は何度でも戦える。だから、信頼してるぜ、リーダー。」


「そう面と向かって言われると照れるね。今日の模擬戦では期待してるよ。」


グリーンクロウの結束の固さは伊達じゃない、長年の信頼関係が生み出す連携は厄介そうだ。俺も、アリスやカイン、ミーシャとお互いを信じられる関係になりたいと思った。


屋台を巡ってたら、ミホがもの欲しそうに景品を見つめてる。


「ケイちゃんケイちゃん、私、あれ欲しいな...」


「犬のぬいぐるみか?お前は本当にそういうの好きだよな。いいぜ。」


「おっと、それなら僕の出番かな。」


エルが腕捲りして銃を手に取る。


「今回、模擬戦での僕のスタイルは弓と短剣だけど銃の扱いも得意でね。いっちょやりますかあ。」


おちゃらけた風貌から、一気に狙撃手の顔に変わるエル。


ぱん、という音が響き、見事にぬいぐるみを落とした。


「へへっ、軽いもんよ。」


ミホは目を輝かせてぬいぐるみを抱きしめてる。


「ありがとう...エルくん...!」


「これぐらいなら御安い御用さ。所で小腹が空いたな。此処等で昼飯でもどうだ?」


「おっいいね!焼きそばとたこ焼きでも買おうぜ!」


「もう、カインは食いしん坊なんだから。」


アリスが少し呆れた様子で言う。


料理の屋台の前に来た。「焼きそばとたこ焼き、12人前で!」


巨大な鉄板で、大柄な生徒が調理している。


「あいよ、カインくん。所で眼鏡のボウズはここの屋台で食べるのは初めてか?」


「うん、初めてッス。」


「この学院の屋台は、火の精霊と、エーテルの精霊の力を借りて作ってるから普通のヤツとは一味違うぜ。まあ食ってみれば分かる。」


「はいよ!焼きそばとたこ焼き、十二人前おまち!」


「ありがとう。」


俺達は自販機で飲み物を買って、テーブルスペースで食事を始めた。「じゃあ、食うとするか!ユウ、ここの料理はうめーぞ!」


「美食家のカインが言うなら期待するか。ではいただきます。...!」


上手い。具体的に説明すると、焼きそばは富士宮焼きそばのような太麺なのだが、濃厚なソースと、茶色に焼け焦げた麺の風味が合わさってとても美味しい。空気と共に啜る度に、ソースの甘辛い味が口の中に広がる。これが火の精霊とエーテルの精霊の力か。


たこ焼きも食べる。...!丹念に焼かれたソースの付いたカリカリの衣に、口の中でとろける中身、そして巨大なたこの足。ちょうど良い温度で、非常に旨い。


「どうだ、ユウ。うめーだろ!」


「ああ、滅茶苦茶旨いよ。」


「わいは、やっぱ皆で食事するのが一番心が暖まるわ。」


「そうだな、ヒロ。こういう仲間っていいもんだ。いつまでもこの12人で遊びたいよな。」


「やだ、カインくん、口にソース付いてる。はい、ティッシュ。」


「リカちゃんありがとうな!」


「アタシは結構カインの純粋で子供っぽいとこ好きだけどな。見ていて和む。」


「エリちゃんマジで!?ありがとな!」


「まだまだ俺達は学生なんだ、出来る限りバカやろうぜ。所でエリ、タバコ無い?」


「マサ、また?あんたは留年してるから法律上も道徳的にも問題無いけど、身体にも悪いし、一本までにしときなよ。」


「へいへい、ちょっくら喫煙所に行ってくるわ。」


「ふふ、なんだか熟年の夫婦みたい。ね、ユウくん。」


「アリス、何故俺!?」


「えへへ、内緒。」


そんな他愛もない会話をしながら、模擬戦まで暇を潰していた。


「14時より、模擬戦が始まります。出場選手は準備室まで向かって下さい。」


アナウンスが鳴った。


「じゃあ、お互い全力を尽くして頑張ろうぜ、皆。」


「「おー!」」


準備室に向かった。ロッカーには、それぞれが使う木製の武器が仕舞ってあった。


「二尺五寸、いつも使ってる首刈りと同じ大きさだな、よし。」


「準備出来たね!いくよ、みんな!」


波乱のバトルロワイアルが、今幕を上げた。

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