文化祭

魔術学院へ来て、一週間が経った。そこで俺は魔法の知識を学んだり、術式強化の練習をした。術式強化の授業では、俺とカインはからっきし駄目で、カインに至ってはエーテル魔術こそ天才的な才能があるが、術式すら獲得していないという状況だった。


俺の方は、陰魔術の術式を獲得してるものの、作れる影の総量が少なく、暗具程度しか造れない。迅先生曰く、魔術を行使する回路が何らかの要因で塞がれていて、膨大な魔力が届いてないらしい。先生は、お前は物理強化の才能があるのだから、その長所を伸ばし、影魔術は補助程度に使えと言われた。


魔法を学ぶ為に学校に来たのに、術式を自在に使えないというのは、少し複雑な気持ちになった。俺達と違い、ミーシャとアリスは術式を使いこなせていた。


ミーシャは地魔術で、地割れを起こしたり、巨大な石で出来た壁を生成していた。


アリスは風魔術で、空を自由自在に飛んだり、武器を魔術の媒介とし、かまいたちを発生させたりしていた。まだまだサリエンス学長などの最高位の魔術師には及ばないと、二人は謙遜していたが、俺は十分に凄いと思った。


魔法の知識で面白いと思ったのは、シジル文字。


ある文字を紙に書き、破棄することでゴーストを呼び出す魔術。

 

これは現代に例えるとするなら、ゴースト用の氏名と電話番号が書かれている連絡先。


各々が契約したゴーストが本契約とするなら、こちらは一時的に力を借りる仮契約。


魔術師の望む一つの行程を終了すれば、契約も紙と共に破棄され、ゴーストは元居た世界、幽界へ戻る。


このシジル文字を開発し、召喚魔術を極めたのは、伝説的魔術師、ソロモンだ。


彼は召喚術式を付与した指輪を造り、制約や制限無くゴーストを使役していた。


そして、自分が亡き後、人々がゴーストを使役出来るよう、使い捨てで制約と制限があるが、誰でも使える召喚術式を発明した。


それがシジル文字だ。これのお陰で、魔術師達は自由にゴーストを使役出来るようになった。


が、肝心の呼ばれるゴースト達からは、ソロモンの評判は最悪だった。


休憩したり、食事をしている時に呼び出され、強制労働をさせられる。


そして、報酬も労いの言葉も無しだ。


この横暴に対してゴースト達が不快に感じたり、激怒するのは当たり前だ。


ゴーストと云えど、思考や感情は人間と全く変わらない。


ゴースト達の住まう世界、幽界はこちら側の世界と物理法則が全く異なるが、そこでは人間と全く同じ生活をしていると先生は語っていた。だから、ゴーストと契約した魔術師は、常に彼等に対して敬意を忘れることなく、対等な関係を築けと言っていた。俺はゴーストとは、宿主と行使される者という関係性ではなく、親や兄弟のような関係を築きたいと思った。


ピピピピ、ピピピピ。


朝の7時にセットした時計が鳴っている。魔術学院に来てから、毎日熟睡出来るようになった。常に仲間達と行動出来る、という安心感があるからだろうか。


歯を磨き、顔を洗い、寝癖でめちゃくちゃになった髪をセット。いつものモーニングルーティーンを済ませて部屋を出た。


「あっ、ユウ、おはよう!」


「ようやくお目覚めか、ユウ!早く飯食おうぜ、飯!」


「おはよう、ユウくん。よく眠れた?」ミーシャ、カイン、アリス。いつもの三人が待っていた。


「おはよう、みんな。今日もよく眠れたよ。」合流して、俺達は食堂へと向かった。


今日の朝食は、トーストとベーコンエッグ、コーンスープ、生野菜のサラダだ。シンプルながらも、一日に必要なカロリーが補給出来る。カインの方を見ると、大量のジャムや、ハチミツを気持ち悪くなりそうなぐらいパンにかけている。「おいおい、そんなかけたら胃が持たれるぞ。」


「俺様はカロリーを大量に使うからな。これぐらい糖分を取らねぇと身体が動かねぇ。ウヒョー、旨そ!」


やっぱりこいつは変わってて面白いな、と俺は思った。「では、俺も食べるか。」ベーコンの塩気と、エッグのまろやかさがマッチしていてとても旨かった。


食事が終わって、班のみんなは再び歯を磨きに自室へ戻った。それも終わり、再び四人は合流した。「アリスー、今日の授業なによ~ 俺様、朝っぱらから数学とかだったら萎えちまうな~」


「安心して。今日は文化祭の準備の日よ。他のクラスと交流する日ね。」


「へえー、魔術学院にもそんなイベントがあるのか。ノマグの学校だけだと思ってた。」


「毎日、勉強漬けだとみんなストレスで疲れちゃうからね。やっぱりリフレッシュは必要よ。」


「文化祭かぁ。また先生達から発明品や備品の開発を頼まれそうだなぁ。でも、ブルーシリウス以外のクラスと交流出来るのは楽しみだし、まあいいか。」


「文化祭と云えば模擬戦だぜ模擬戦!全力でお互いの力を出しあいバトルする日だ!血が滾るぜ!ユウも楽しみだろ?」


「模擬戦はちょいと怖いな。ボコボコにやられそう。」


「大丈夫だって!お前のエーテル魔術は天才である俺様と同じくらいの才能がある!勝てる勝てる!ちなみに三クラス同時にやるバトルロワイアルだ!妨害、協力、タイマン、何でもありのルール!熱くなるぜぇ!」


「それは混沌としそうだな。では、そろそろ教室に行くか。」俺達は教室へと向かった。


「今日もよく来たな、お前達!」迅先生は、今日も圧が凄いな。


「それでは一旦、ホールまで移動してもらう。大量の生徒が来るからな。」生徒達はホールへ移動した。


ホールの中には、細長いテーブルと大量の椅子、大きなシャンデリアが飾られていた。動く生きた絵画も壁に大量にある。映画で見たことがあるな、この光景。


「それでは、各担任の自己紹介からだ!俺は疾風迅!ブルーシリウスの担任をやらせてもらっている!得意とするのはエーテル魔術と刀を使った日本剣術だ!宜しくな!」


「それでは私の番ですね。私はエミリア・ヴァイスハウプト。名前で分かると思うけど、レッドオウル創設者、アダム・ヴァイスハウプトの子孫よ。得意なのは火魔術と占星術。みんな、宜しくね。」


「最後はわしかの。わしはネココ。見て分かると思うが、ここ出身ではない。獣人界という異世界からはるばるやってきた魔術師じゃ。得意とするのは陰魔術と陽魔術、そして情報収集じゃ。みんな、宜しくの。」


「よし、各クラス担任のことはこれで覚えてくれたな!次は、模擬戦で戦う各クラス四名の生徒の選別だ!」


「まず、ブルーシリウスより、アリス・フェイジア、ミーシャ・ブラックストーン、カイン・アドム、左門 勇!」


「やったぜ!去年の模擬戦では、俺様の班は人数不足で出られなかったからな!本番では暴れまくるぜ!」


カインは実力を発揮出来ることを何よりも喜んでいる。仲間たちと肩を並べて戦えるなんて、俺も嬉しいよ。


「次、レッドオウルより、焔 啓太、焔 美穂、エリザ・モデウス、青木 和正!」


「最後に、グリーンクロウより、エル・ナインズ、 佐藤ヒロム、シン・アーロイ、池田 梨花!」


「以上!模擬戦ではこの12名が戦ってもらう!なので、これから各クラスでの交流を許可する!模擬戦に出る生徒も、出ない生徒も、この機会に親睦を深めろ!以上、解散!」


ホールは大量の生徒で溢れかえっている。いつもの三人と合流するのは少し大変だった。ちょうどアリス、ミーシャ、カインの三人が、二クラスの八人の生徒に自己紹介をしている。


「おう、ユウ!来たか!こっちは三人の自己紹介が終わった所だ!」


「ユウくん、先に俺達が紹介してもいいかな?」「構わないです。」


「まず俺から。俺の名は、焔 啓太。得意属性は火魔術、使う呪具は大斧だ。契約ゴーストはイブリース。宜しくな。」赤髪の快活で気の良さそうな少年だ。


「じゃあ次は私...かな。私は焔 美穂...啓太の従姉妹...、得意属性は火魔術...使う呪具は大剣...契約したゴーストさんはアリヤマン...ごめんね、こんなおどおどした喋りかたで...」


啓太と似た系統であるピンクの髪で、ショートカットの女の子だ。おどおどして、暗い感じだけど可愛らしい。「いや、美穂は十分頑張ってるって。昔と比べたらよく喋れるようになった方だよ。」


「う、うん...」


「じゃあ次は私だな。私はエリザ・モデウス。得意属性は火魔術と陽魔術。使う呪具は槍。契約ゴーストはアドマデウス。宜しく。」ぼさぼさの短い髪を結んでる、そばかすのある姉貴肌の女の子だ。カインと気が合いそう。


「よっしゃ、次は俺だな。俺は青木 和正。得意魔術は水魔術と風魔術。使う呪具は大槌。契約したゴーストはラーフだ。よろしくぅ!」整えられた髭で、高校生らしからぬ風貌の少年だ。でも、良い奴そう。


「じゃあ次はグリーンクロウだな。紹介頼む。」


「あいあい、では僕から。名前はエル・セラフィム。得意属性は水魔術と陰魔術。使う呪具は弓と短剣。契約ゴーストはグリーンクロウらしからぬ、堕天使のシェムナエルさ。よろぴく。」細身だが、しなやかで飄々とした少年だ。一緒にいたら楽しそう。


「では次はわいの番か。わいは佐藤ヒロム、得意とするのは火魔術と陰魔術。使う呪具は苗刀。契約ゴーストはスクナヒコナ。よろしゅう。」田舎訛りで目が茶髪で隠れた少年だ。俺と暗い所が少し似てるかも。


「では次は俺だな。俺はシン・アーロイ。得意な魔術は陽魔術とエーテル魔術。使う呪具は大太刀。ユウと少し呪具は似てるな。契約したゴーストはフツヌシ。よろ。」じじくさく、寡黙そうなオールバックの少年だ。なんとなくだが、困った時は凄く頼りになりそう。


「じゃあ最後は私ね。私は池田梨花。得意とする魔術は水魔術と陽魔術。使う呪具は錫杖。契約したゴーストはベンザイテン。よろしくね。」幼いが、小柄で賢そうな、おかっぱ頭の少女だ。俺と話が合いそう。


「じゃあ、俺の番だな。」


「待ってました!」


「ひゅーひゅー!」


「はは、茶化すなよ、ミーシャ、カイン。」


「俺の名は、左門勇。この12人の中で、唯一のノマグからマグスになった生徒だ。前の環境で色々あって、逃げるようにこの学校にやってきた。目標は沢山の仲間を作ること!得意魔術はエーテル魔術と陰魔術、呪具は太刀。契約したゴーストはアズラエルだ、宜しく!」


「よろしく、ユウ!」みんなは暖かく迎え入れてくれた。この時は分からなかった、偶然にも揃った12人の生徒達が、世界を救う勇者になるとは。

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