魔法界
未知溢れるこの世界にたどり着いた俺は、希望で心が洗われるようだった。
腐った家庭と離れて、これからは自由に生きられるのが嬉しくて堪らなかった。
「なんて言えばいいか分からないっすよ、マーリンさん」
「おっと、感動するのはまだ早いぞ。今日の午前中は僕と、この世界を軽く見て回る。その後はお楽しみの入学だ。期待してくれたまえ。」
「うん!」俺も年相応の子どもなんだな。遊園地に来たみたいに、目を輝かせてしまってる。
「スゲエ、車が空を飛んでますよ、マーリンさん!」
「あれはエーテルを燃料にしてる車だね。浮いてるのは重力魔術の恩恵だ。我々が箒で飛んでたのは、中世の話さ。」
「マーリンさん、怪物を連れてる人が居るけど、あれは何?」
「あれは悪魔族のゴーストだね。勇くんは悪魔は初めて見るよね。ちなみに天使と悪魔には区階があって、低級、中級、上級、最上級まで居る。先程の悪魔は中級程度だね。それと、君のアズちゃんは上級天使だよ。」
「じゃあ俺はかなりゴーストには恵まれた方なんですね。」
「それは君の、過去の縁が関係してるのかもしれないね。召喚するときはその人の縁がゴーストと召喚者を結ぶものなんだ。もうひとつの理由として、或いは、召喚者の波長が近いと、それに合わせたゴーストが召喚される。君もアズちゃんと似ている所があるからね。」
「こいつと俺は似てるのか。ちょっと光栄ですね。」
「そう思ってくれるなら、僕も君を魔法使いにした甲斐があったよ。ところで、今日は魔法で創った人工太陽も活発に動いてる。アイスクリームでもどうかな?」
「御言葉に甘えて!」
「おっ、マーリンさんいらっしゃい!その少年は新人かな?」
「うん、一般人から魔法使いになった子だ。将来有望だよ。」
「うっし、じゃあサービスで三段アイスにしてあげよう。」
「ありがとうございます。」「サモン。コキュートス、アイスを二つ作ってくれ。」
店主がそう唱えると、何もなかったコーンにアイスクリームが出現した。これが魔法か。
初めてみる自分以外の魔法使いに感動を俺は覚えた。これからは楽しい世界で生きるんだ。だから、後悔は無い筈だ。そう想いながらも、シロウの顔が脳裏に浮かぶ。ああ、あいつとここに来て、この綺麗な景色を見せてやりたかったなぁ。
「ではそろそろ、学校へ行こうか。車を呼ぼう。」
空飛ぶ車に乗るのは初めてだ。期待を胸にしながら、俺は座席に着いた。おお、凄く速い。揺れも無いし、後ろの景色がどんどん小さくなっていく。学校も見えてきた。
まるで遊園地の乗り物に乗ったときのような気分だった。
「ではここら辺で。着いたよ」
「...でっけえ!」目の前には古代ギリシャの神殿のような校舎が広がっていた。
早速中に入る。早速度肝を抜かれた。校舎に貼ってあるポスターや新聞の登場人物が動いてるのだ。
奇妙ながらも、シュールで面白い光景に目を奪われた。「では学長室に行こうか。」廊下を歩く。「サリエンス学長、例の少年を連れて来ました。」俺は軽く会釈する。「こんにちはです。」
「こんにちは、少年よ。私はここで学長をやっているサリエンス。」妙齢の女性だ。でも魔力による恩恵か、とても若々しい。
「君は何故ここに入り、ここで何を得たいのかな?」
思わず言葉に詰まった。俺はシロウが死んだあの日から、自分に嘘を付いて本音すら言えず、ずっと苦しい想いで日々の生活を耐え続けていた。でも、もうその必要は無いんだ。シロウ、どうか俺に、生きても良いんだという願望をくれ。
「複雑な家庭環境に耐えられず、家を飛び出してきました。俺は自分を縛り付けて苦しめる偽の家族なんかじゃなく、自分はここに居ても良いんだ、生きてても良いんだと思わせてくれるような本当の家族が欲しい。その為にここに来ました。」
「ふむふむ、迷いが無く、澄んだ目だ。心を見せてもらったが、君は沢山傷付いてきた割には、心の純粋さを失ってない。でも、家族とは自分の責任と義務を丸投げ出来るような、君にとって都合の良いだけの存在ではない。相互に助けあって、家族が危機に瀕したときは、己の力で守らなければならない。君にはそれが出来るか?」
また言葉に詰まった。でもここで自分を変えなきゃ、俺はクズのままだ。どうか勇気を。「絶対に守ります!」「良い面構えだ。では、クラスを決めようか。」
俺の冒険は、今始まった。
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