門出

俺が魔法を使えるようになってから、数日が経った。


影を具現化するのにも慣れ、影で物質を形成することが出来るようになった。


「とりあえず剣術の補助になるクナイや手裏剣を影で生成してみたが、中々いい感じだ。強度は本物の鉄と変わらない。とりあえずマーリンさんの連絡を待つか。」


連絡が来るまで一週間程、テレビを見て暇を潰してた。テレビの中の人達は、何故いつも笑えるのだろう?


それは多分、家族や友達が居て孤独じゃないから。俺は家族のことを血の繋がった人間とは思えないし、寧ろ邪魔に思ってる。


中学生の頃から高校生の今に至るまで、引きこもってたから友達も居ない。


なんなら小学生の時は何も喋れないのを理由に毎日いじめられてた。もうこの世界ごと壊れてしまえばいい。


そして、このクソみたいな人生をリセットするんだ。そんなことを思って一週間が経った。携帯が鳴った。マーリンさんだった。


「やあ、勇くん。元気にしてたかな?」


「最悪でしたよ。何してもつまらない。」


「そんな君に朗報だ。魔法学校に入る許可が出来た。ただ、この前の会話中、勝手に読心術で君のことを調べさせてもらった。」


「それは別に構いませんよ。俺の過去や経歴に、隠しごとなんてありません。」


「ならいい、本題に戻ろうか。君は家族との関係は余り良くない、だから別の環境に移りたいと思ってる。そして残念ながら、君は魔術師の家系ではなく、一般人の生まれだ。だから親にそのことを説明しても、理解してくれるワケないし、門前払いを食らうだろうね。」


「其処で、だ。君は今まで自分を育ててくれた肉親を捨て、自分の居場所を新しい環境で見出だせるか?」


一瞬、俺がチビだったとき、家族で行った遊園地の映像が目に映った。あのときは幸せだったな。弟のシロウもあの時は居た。でも、その幸せは長続きしなかった。俺が七歳の時、シロウはひき逃げにあって死んだ。酔っぱらいが歩道に突っ込んできた。俺は兄弟が死んでも、泣かなかった。でも、自分の心の中の、綺麗なものがそこから抜け落ちるのを感じた。それから、家では夫婦喧嘩が絶えなくなり、俺は親父から暴言を吐かれたり、殴られるようになった。そこで俺はこう言われた。


「お前がシロウの代わりに死ねば良かったのに」と。


そう言われてから、俺は自分の心を閉ざして、耳と、口と、目を塞ぎ、何も考えない人間になった。


「ええ、今の環境は自分を腐らせるだけだし、自分の親にも未練なんてありません。いつだって入学しますよ。」


「分かった。では、その手続きを済ませておく。また連絡するよ」


「はい、ではまた後日。」


そう言って俺は電話を切った。そして眠る前、俺は呟いた。「ごめんな、シロウ。こうなるなら、俺が死ねば良かったよ。」


次の日になった。電話にはメッセージが来てた。


「やあ、勇くん。今日はこの駅前にあるカフェで待ち合わせ出来るかい?」


「可能です。」「分かった!では先に待ってるよ!」


俺は準備を済ませ、家の扉を開いた。この家を見るのも、これが最後だ。


せいせいしたぜ。でも何故か、心の中から、大事なものが抜け落ちる感覚がした。


カフェに着いた。「やあ、勇くん!」マーリンさんはいつも通り奇妙な帽子を被ってる。


少し愉快な気持ちになった。「では行きますか、マーリンさん」


そう言って、俺はマーリンさんと歩き出した。大通りを過ぎ、路地に入った。何故かマーリンさんは、マンホールの前で立ち止まって、その蓋を開けている「少し臭くなるよ。はい、マスク。」「あざす。」


マスクを付けて、俺とマーリンさんは地下に入った。本当にこんな所に学校なんてあるのか?そう疑問に思った。


少し歩いて、急に壁の前でマーリンさんが立ち止まった。奇妙な呪文を呟いたと思ったら、トンネルが現れた。


「...!今のはなんて?」「天使や悪魔が使う言語、エノク語さ。いまのは開けゴマという意味。さあ、学校はそろそろだよ。」


そう言われ、トンネルを歩む。急に光が見えてきた。俺はその光が、まるで新しい生活を象徴する、救済の合図に見えて居てもたっても居られず走った。


「...!すげぇ...!」眼前には、古い昔、空想科学本の表紙で見たような、近未来都市が広がっていた。そして、太陽があるかのように、都市には煌々とした光が降り注いでいた。「ようこそ、魔法界へ。」

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