日陰者

気が付くと俺は、殺風景なあの部屋に居た。「呪具を手にしている所を見るに、契約は成功したようだね」


「マーリンさん。」


「それで、どんなゴーストと契約したんだい?」


俺は一瞬間を置き、答えた。


「アズと名乗る髑髏の甲冑を着た死神でした。でも声や口調が少し女っぽいような感じもしましたね。」


「ふむ、"アズ"、そして女性のような雰囲気か...なら、あの存在だろう...」


マーリンさんはそう呟くと、嬉しそうに語った。「やったじゃないか、左門くん。君が引き当てたそのゴーストは少なくとも七大天使の一柱に数えられる存在だよ。属性は水と陰。君と相性はぴったりだ。」


俺は疑問が浮かび、マーリンさんに質問した。「すいません、マーリンさん。無知を承知の上で聞きますが、七大天使ってなんですか?」「いい質問だ、左門くん。説明しよう。


「これは原初と呼ばれる時代のことだ。世界にはまだ、炎と氷しか存在しなかった。その裂け目から、"原人"と呼ばれる存在が産まれ落ちた。その名をプルシャ、またはオフルミズドという。その原人は、自分の身体を裂いて、七つの分身を作った。日、月、火星、水星、木星、金星、土星。」


「これが天体の成り立ちであり、七大天使を示している。現代に住む一般人の君には信じられない話かもしれないが、魔術師の間では実際にあったことだと信じられている。そして、その中でも特に木星は、最も原人に近しい存在だと位置付けられ、多くの崇拝を集めたんだ。」


「じゃあ、アズはその中でもリーダー的存在ってことですかね?」


「最初の頃はね。別の場所で木星は"ゼウス"と呼ばれそこでも多くの信仰を集めたが、例の馬小屋の救世主が流行り始めてからは太陽崇拝に切り替わって、お株を奪われてしまったんだ。悪く言えば、今は日陰者のような存在だね。」


「なんだか不憫な奴ですね、アズって。俺も陰のように生きてるからなんか共感しちゃうな。」


「優しいんだね、君は。」少し照れるな。


「では、座学もここまでにして本題に移ろう。こっちに来てくれ。」殺風景な部屋から出て、しばらく廊下を歩くと到着した。


「さあ、着いたよ。ここが君を魔術師にしてくれる場所だ。」


広い部屋の中には巨大な六芒星が描かれていた。


「魔術とは本来、誰でも使えるモノでね。意図的に我々によってその存在は秘匿され、魔術を使う時に使う神経回路はOFFにされている。何でOFFにしてるかは企業秘密だ。少し失礼するよ。」


そう言って彼は俺の背中に手を当て、力を入れた。その瞬間、俺の内側から力が沸き上がるのを感じた。


「これで準備は完了だ。次はここの中心に座ってこう唱えるんだ。「火、水、風、地、エーテル、陰、陽、全ての幽精ジンよ、我が呼び声に応えよ。汝ら、我に力を授けよ。さすればマナを与えよう。」


俺は座り、唱えた。すると、自分の周りに黒いもやのようなものと、白い霧のようなものが漂い、自分の内に入っていった。「よし、成功したようだね。」


でも、魔術師になったという実感が湧かない。「まだ自分が魔術師になったと信じられないみたいだね。では、意識を集中して影で何かを作ってくれ。大丈夫、君なら出来るさ。」


何を作ろうか。そう思った矢先、手にしていた刀が目に映った。よし、これを作ってみるか。「意識を集中、意識を集中...」


しばらく念じてみる。すると、真っ黒な刀が出来ていた。が、直ぐに消えてしまった。


「すいません、消えちゃいました」


「いやいや、魔術師に成り立てでありながら、一瞬だけでも影を物質化出来るのであれば十分だよ!やはり君には才能がある。また後日要件がある為、連絡する。 今日は大分精神と魔力を消耗しただろう、エーテル魔術の鍛練はまた今度だ。ゆっくり帰って休むといい。」


「そうします...」俺は疲労困憊になりながら、疲れた身体を引きずって、帰路に足を踏み出した。



ーーーーーPLLLLLL ガチャ。「もしもし、マーリンだ。」「どうも、マーリンさん。ご無沙汰ですね。例の青年はどうですか?」


「私達の期待した通りだよ。見込みアリ、そして君のゴーストに匹敵する存在を引き当てた。もしかしたら好敵手になるかもね。」


「それは楽しみですね。また何かあったら連絡します。では。」


「ユウくんかぁ。面白い人だといいなぁ。」

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