終曲 ――フィナーレ

第54話

 六芒星を象った浮遊ステージでフィニッシュを飾ったのは、暗転した天幕に瞬くアイドリア・エフェクトの連発花火と、その残照のごとく散らばっていく星空だった。


「――さあさあ、色とりどり、種族とりどりの〈闘技歌姫アイドル〉たちが舞い踊る本オーディションも、いよいよ佳境に突入してまいりましたあ――!」


 曲の終わりに合わせてステージ中央まで駆け寄ってきた、司会者らしき樹海妖精エルフ族の娘が、魔法の拡声器へとがなり立てる。

 ここヴェナント中央歌劇場ホール内では、他国との間にいつ勃発するかもわからないアイドリア・クラウンに向け、ヴェナントの代表アイドル選抜戦――いわゆるオーディションが開催されていた。


「それでは、あらためて紹介するよっ! 本オーディションはね、ただ地元のアイドルたちの祭典ってだけじゃないんだ。いつか彼女たちの誰かがね、ヴェナントを背負って百戦錬磨の強豪たちと火花を散らす時代が来るよッ! これこそがアイドリア・クラウン! あつい、めちゃ熱い展開だよね~ッ!」


 魔工石の力で浮遊するステージからそう力説する司会者は、あのハイエルフ嬢――キーメロウだ。ステージを取り囲む無数のゴンドラ型観客席に向け、満面の愛想を振りまきながら本人もアイドルに負けじと大はしゃぎする。胸元や太ももを大胆に露出させた衣装に照明が当てられれば、どちらが主役なのかわかったものではない。

 そして歌い手のための魔杖が設置されたステージ中央にて睨み合っていたのは、次の出番で直接対決するアイドルたちだ。

 向かって右手側に照明が当てられる。そこに浮かび上がったのは、浅黒い肌をした赤毛の少女たち――三人編成のアイドルレギオン。


「――さて、彼女たちは、なあんと本オーディションがいきなりのデビュー戦になるっていう、西区魔術学院の現役学生アイドル! そのレギオン名は〈風切りフルーリオ〉――!!」


 観客席側の、特に一部エリアから黄色い大声援が送られる。現役学生などと紹介されたからには、学校の仲間たちが応援に駆けつけたに違いなかった。


「さあて、ここで審査員席のシャルルマキナお嬢様にコメントを頂戴したいと思いま~す」


 ラパロたち一族の特別観覧席に話題を振る。と、慌てて座席に飛び乗った小さなシャルが、


「――ちょ、こら~またまたエルフは! うちは審査員じゃないっていってんしょ!」


 キーメロウの悪ふざけに必死に抗議して返すと、


「……本日もお可愛らしいシャルお嬢様ですが、どうやらちがうそうでえす! 大変失礼しちゃいました、てへっ☆」


 自分の頭をこつんとしてみせて、観客席の笑いを誘った。


「ふ・ふ・ふ☆ それでシャルお嬢様に話を振ったのは、ちょっとした冗談じゃなくて、実は司会進行上の意味があるのですよ」


 いやらしい含み笑いを、観客席へと轟かせるキーメロウ。手慣れたもので、観客の盛り上がりを拡声器ひとつで意のままに操っているかのようだ。


「なんと今回のオーディション! みんなのチケット代やグッズなんかで得られた収益金をね、今はまだ大変なままのヴェナント復興を支援するために寄付することが急遽決定したので~す! なんと本オーディション主宰者である、辺境伯様のご意向なのですよ~」


 シャルに寄り添って席を立ち、手を掲げ民衆たちの拍手喝采に応えるのは芸術王ラパロだ。あの戦争によって暗い影を落としたかに見えたヴェナントも、少しずつだがこうして笑顔を取り戻しつつあった。


「さあさあ、そんなわけで、大切なヴェナントを盛り上げていくために学生さんたちで結成したのが、彼女たち〈風切りフルーリオ〉なんです。そして、そんな彼女たちの挑戦を受けて立つのは――」


 左手側に、新たにもう一つの照明が落とされる。

 まばゆい照明を浴びて観客らの前に姿を見せたのは、同じく三人編成のアイドルレギオン。

 途端、静まり返るホール内。一歩前に立つセンターの少女が、純金のアクセサリーを思わせる髪を照明光に泳がせると、


「――現在のヴェナント代表アイドル、〈銀妖精のアリア〉――――ッ!!」


 そんなキーメロウの紹介を待って、観客席の沈黙は瞬時に沸き立った。


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