第4話
ステージの開幕とともに、司会者らしき
「――さあさあ、当酒場〈森の木こり宿亭〉一番のお楽しみタイム、ご当地〈
司会者の進行に重ねるように、楽師たちの演奏がはじまった。
「さあさあ、まず最初の一曲目はねっ――先月に彗星のごとく現れた謎の作曲家マルーリガスによる大ヒット曲――〈声の翼〉が彼女たちの対決の曲だあ!」
最初は打楽器。妖精たちが軽快に飛び跳ねるような光景を、幾種類もの太鼓による打音で表現する。そのリズミカルさがどこか愉快な印象を醸し出しはじめたところで、ステージ脇を支配するピアノ奏者と二名の弦奏者らが、反して切なげな旋律を奏でだした。
「さあさあ、そして最初にこのステージに立つのが、当酒場でデビューしてついに一周年を迎えた我がヴェナントのトップアイドル――エルミットちゃんです!」
司会者エルフの紹介でステージに登場したのは、長い髪を色鮮やかな朱に染め上げた、大人びた雰囲気を持つ娘だった。透きとおるような薄絹の衣装を観客たちの熱気に揺らせて、沸き立つ彼らの声援にも余裕の笑みで応えるエルミット嬢。
そして、今か今かと盛り上がりをみせる演奏――それが最高潮へと達したと同時に、手にしていた魔杖に唇を添え、エルミットがステージの果てまで喉を高鳴らせた。
『――かつて あなたは手紙で 別れを告げた』
瞬間、彼女の歌がこの酒場を支配した。楽師たちの巧みな演奏すらも舞台裏に徹するほどの、確かな存在感を持つ〝アイドル〟がステージの女神を演じきっていた。
『けれども彼女は もうそこにはいない これは ひとに恋した妖精のおとぎ話――』
歌が――エルミットという少女の喉が音色を奏で、言葉を次々に紡いでいく。このステージという舞台に――否、アイドルたちにとっての戦場に。
勇者エクスと、魔王ナラクデウス――世界の命運を賭けて戦った彼らの最終決戦から、すでに三年あまりの月日が過ぎ去っていた。
最終決戦の結末は人々の元へは伝わらなかった。ただ、あの熾烈なる戦いの果てに、この世界の有り様が大きく変わることになっただけだ。
人間たちを代表とする人界と、魔物たちを代表とする魔界――あるいは、人間たち同士ですら争いがなくならなかったこの世界には、〈闘技場戦争〉と名づけられた新しい
闘技場戦争とは、民に選ばれた選手たちが舞台上で競技を行い、その戦績によって様々な政治的解決を試みるための、一種の代理戦争だ。民は権利として国から配布される〈カード〉を投票して、応援する選手を評価する。そうやって闘技場戦争にはあらゆるものたちが分け隔てなく参加し、かつての殺しあいの戦争など旧態的で野蛮なものとして淘汰されていった。
それも、人界も魔界も関係なく、ただひたすら平等に。
そしてこの闘技場戦争は、闘技場で単純に選手の強さを競い合う〈剣闘技〉や、ときに偶然性の高い賭博競技にて勝敗を決める〈天の采配〉、壇上で学者グループが論戦をぶつけ合う〈論闘〉など、政治的協議の内容に応じて多岐にわたる競技種目が生み出された。
その中でも異彩を放つ、選ばれし歌い手たちだけが舞台に立つことを許された、芸術的にして華やかなる競技。
――それが、この〈アイドリア・クラウン〉。
彼女ら
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