第5話ー2 惑星ドルマーニでの攻防
惑星ドルマーニ。
停船場に
「お待ちしておりました。ゾルググ殿」
「お久しぶりです、ジーマ元帥」
ジーマと呼ばれたその者は全身を紫のローブに包まれ、その内側は黒い闇しか見えない。そのどこを探しても表情というものが窺えないことに、ゾルググは改めて気味の悪い印象を覚えた。後ろに群がる妖術師と呼ばれる者の存在もそのただならぬ雰囲気をより一層強めていた。
「例のものは」
「その前に、条件を」
ジーマはしばし止まっていたが、やがて手で合図をすると、後ろの妖術師の一人が丸い球を手のひらに浮かせて持ってきた。それをジーマの手の上に渡す。
「これがあなたたちの新たな星となります。特等星とまではいきませんが、固形度57%、大気率89%、上級星です。以前あなたたちの住んでいた星よりは若干狭いようですが、中身は申し分無いでしょう」
とはいっても、今のあなたたちの生命体数では、広すぎるかもしれませんがね、という皮肉にもゾルググは動じなかった。
ゾルググが手で合図をした。
すると、宇宙船から後ろに枷をつけたウモユカクが連れてこられた。そしてゾルググの横に立たせる。
「お見事、ゾルググ殿。では契約成立ということで……」
「その前に確認しなければならないことがございます」
ジーマは表情こそ見えなかったが、明らかにその声色が変わった。
「確認? 何か契約に不具合でも?」
「いえ、そうではありません。その確認事項もここでは言えません。その確認にはおよそ一週間程度かかります、受け渡しはその後に変更していただきたい」
ジーマはしばし止まっていた。それからどこから喋っているかもわからない場所から声が漏れた。
「一週間……そなた自分の立場をお分かりか。我ら大国がそなたらのちっぽけな民族に貴重な星をやるといっておるのに。黙っていれば図に乗りおって。よろしい、この契約はたった今破棄された、我々は力づくで奪うことにしよう」
ゾルググはその言葉の途中で左手を大きく挙げた、その合図を皮切りにダガンブルグ兵がウモユカクに詰め寄り、再び
負けじとジーマの部下が気味の悪い言葉を詠唱する。ただちにダガンブルグ兵たちが苦しみ始めるのと同時に、ドルマーニの港に構えてあった砲台が火を吹いた。
一瞬にして、
苦しむダガンブルグ兵の手を離れたウモユカクが、黒い妖術師たちの詠唱で宙に浮く、そしてそのままジーマの元へ惹きつけられ始めた。
「ウモユカク様、これを!」
ゾルググが青い塊を投げた。枷を元から外されていたウモユカクがそれをキャッチ、すぐさま渡されたベルトネア銃の銃口を天へ向けた、そして引き金を引く。
パシューン、という音とともに一筋の光が紫の雲に吸い込まれた。
(どうする、イメージは……?)
すると光弾から三つの光が現れた。そのうちの一つが宙に飛ばされていたウモユカクの股に入り込んだ。その物体を確かめてみると、なんとそれは三輪バイクだった。そして人の言葉を喋り始めたのである。
「いやあ、こんにちは。僕はいつも元気なバイクのマイク。よろしくね、ここはどこもかしこもパープルがブームみたいだね。ちなみにタピオカブームのあとは紫米入りヨーグルトってほんと? まあ僕は嫌いじゃないけどね、この色」
三輪バイクに跨りながらも、バイクごとウモユカクの体はジーマの元へと引き寄せられていた。ジーマが大きく手を広げ、その体を今まさにつかもうとしていた。
「おっと、そこのパープル兄さん。まだまだつかまるわけにはいかないってことよ、UターンUターン、Iターン。おっとこれはKACのお題だったかな? ちなみにUターンを偶数回すると意味ないって、これ知ってた?」
声を出しながらも、バイクは向きを変え、一気にジーマから遠ざかる、あと一歩で捕まるところで、その手をひらりと避けた。ジーマ含め、妖術師達の詠唱が強まる。それに合わせ、引き寄せられる力も強くなる。それはまるで空中での綱引きのようだった。
「ちなみにKACで思い出したんだけど、カクヨムコンの発表っていつなんだい? 5月頃ってことになってるけどさ、まあまだまだ時間はあるから気長に待つけどね、あ、ちなみにちょっと揺れるよ〜」
突然激しい振動と稲光がバイクから走った。その直後、巨大な爆発音とともに、バイクごと爆風に飛ばされるように飛び去った。そのまま一気に詠唱の力を振り切っていった。港がみるみるうちに小さくなっていく。
港のかけらすら見えなくなっても、そのまま空中バイクは飛び続けた。
「あの、マイク……だっけ、ちょっと聞いていい?」
「あぁもちろんいいよ。僕はいつだって聞き上手、みんなのお悩みを聞くのが好きなんだ、こんな性格だから毎晩毎晩みんな僕に電話をかけてくる、そのせいで僕は……」
(どうやらこれに話は通じないようだ)
ウモユカクがそう心の中で思っていたその時だった。
「おっとそうはいかないよー」
突然進路が90度変更された。落ちそうになるところを必死でしがみつくウモユカク。しばらく過ぎてから振り返ってみると、岩の陰にたくさんの妖術師が隠れ、罠を張っていた。
「危ない危ない。あと少しでつかまるところだった」
「どうしてわかった?」
「どうしてって……君がやったことだろう? ほら、上見て」
空を見上げると、紫の雲の隙間にかすかに黒い影が見えた。よく見ると、それは自分たちと同じ速さで飛ぶ鷹だった。
「君が作った
それだけじゃない、意外にも彼はベジタリアンでね。鷹のくせに肉は食べないんだよ、まったく笑っちゃうよね、と饒舌ぶりを発揮しながらも、突然ブレーキをかけた。ウモユカクは危うく空中に放り投げられそうになった。
「どうした? 次は」
「どうしたって。見てよあれを、これ以上は進めないよ、さすがに」
目の前に突如巨大な石の魔物が現れた。山ほどの大きさはあるだろう、それは二本足でゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。その表情は明らかに穏やかではなく、片腕を振り上げこちらの存在を叩き潰そうとしているようだった。足元で妖術師が何やら詠唱を続けている。
「召喚、という妖術だよ。魔物を魔界から呼び出すんだ、あいつはゴーレムだね、やっかいだよあいつは」
「厄介って、簡単に言うね、君は」
「簡単だよ、だってほら。おい、そろそろ出番だよ」
辺りを見回しても、その声の対象となりそうな味方は見つからない。
「マイク、君は今誰に話しかけている?」
「誰って、ずっと一緒にいたじゃないか、彼も君が作った
空中に浮かびながら、ウモユカクが地面を見た。そこには一つの影があった。やがてその影が地面を離れ、浮かび上がり、目の前まで近づいてきた。
「影が……飛び出した?」
「彼は影じゃ無い。シャドウモンスターだよ、車道じゃないからね」
冗談を言っている場合じゃない、あんな大きな化け物にこんな小さな影が太刀打ちできるのか。一振りで粉々にされそうだ。
そんな心配をよそに、シャドウモンスターはゴーレム目掛けてひらひらと向かって行った。
ああ、あれは無理だ。大きさが違いすぎる、もっと大きなイメージをしておくべきだった、そんな後悔を心の中で念じている時だった。突如飛んで行った影が拡大した。そしてその石の魔物、ゴーレムと姿形は似ていても、真っ黒な、それでいてその大きさを上回るほどの大きさとなった。
しばらくゴーレムとシャドウモンスターは対峙した。
やがてシャドウモンスターが、ガオゥー、と威嚇すると、やがてゴーレムはゆっくりと向きを変え、そのままゆっくりと逃げていった。
「勝った……? 拍子抜けだったね、あのゴーレムは」
「まあ自分より大きいものを見たことがなかったんでしょう、結果オーライってとこかな」
そのままバイクは再び空中を走り出した。
「君たちがいれば向かうところ敵なしだね」
「そうだね、いやそうかな。口なし敵なし人でなしってね、どこまで行ってもここは敵の陣地だということをお忘れ無く……」
と最後の言葉を発した時だった。
何か空中の透明なガラスのようなものにぶつかった衝撃が走った。その衝撃で、ウモユカクは空中に放り投げられた。
「おっと危ない」
バイクのマイクがそれを先回りし、なんとかそのサドルで受け止めたが、
「あ、ベルトネア銃が!」
手元から離れたベルトネア銃が、大地の隙間へと落ちて行ってしまったのだ。そして周りを見てみると、辺りは多数の妖術師で囲まれていた。その中からジーマが顔をだす。
「フォフォフォ、どこまで行ってもお前の行動は筒抜けだ。ここは惑星の果て。これ以上は
紫の雲の下、茶色のごつごつとした岩山という景色は続いている。しかしどうやっても、とある場所から先には透明なガラスでもあるように進めなかった。これ以上は逃げられない。
(やっとここまで来たというのに……)
ジーマ達の妖術の力により、崖の手前までウモユカクとバイクのマイクは引き戻された。そして新たに身動きが取れない妖術をかけられた。
「まったくてこずらせやがって。ダガンブルグのやつらは今度皆殺しにしてやる」
(ここまでか……)
その時だった。
背後の崖下から、何やら音が聞こえた。それはブーン、という羽音にもプロペラ音にも聞こえた。そしてその音の主が崖下から、顔を出した。
小さな白い円盤。
その上にはベルトネア銃が乗っていた。
ウモユカクはその意味がわからず、ただじっと見つめていただけだったが、ジーマ始め、多くの妖術師は、恐れおののき、後ずさりを始めた。
「まさか……そんなはずは」
ジーマが見上げると、空にはもっと大きな白い円盤が多数配備されていた。
「くそ……こんな時にウローナ船団とは。とんだお邪魔虫め、今あいつらとの全面戦争はなんとしても避けたい、全員退却! 星をクローズし、部外者を一旦
ジーマ元帥が詠唱すると、黒い大きな輪が突然現れた。人が何十人も入れそうなその輪に妖術師たちは必死に逃げ込んだ。
空の白い円盤から放たれるビームによって、複数の妖術師が跳ね飛ばされた。岩山が次々と破壊される。
ジーマがその黒い輪を抜けた直後、その輪が閉じた。入れなかった妖術師がおろおろしながら、うろたえる。その残党に向かって容赦無く白いビームが放たれた。
「ウモユカク様、こちらへ!」
白い円盤に乗ったゾルググが、手を差し出した。それに引かれウモユカクは円盤に乗っかった。そしてすぐさま離陸、再び港へ向かって飛び立った。
「取り急ぎ謝罪させていただきたい。後少しで私は取り返しのつかないことをするところでした」
凄まじい速度で空中を移動しながら、吹き抜ける風の音に負けないようゾルググは声を張り上げた。
「ゾルググ隊長、この円盤は?」
「御安心ください、ウローナ船団はダガンブルグと古くからの同盟国です。いざというときのために応援を依頼していたのです」
惑星ウローナとは科学技術が進んでおり、ドルマーニとは対立関係にある、と
「ジーマ元帥の提案も結局嘘でした。あのような星はもともと存在しなかったのです、まんまと罠にはまるところでした」
尖った岩山に何度もぶつかりそうになりながら、それをさらりと避け、そのまま高速で風を切る。
「それよりゾルググ隊長、速すぎではありませんか? これではしがみつくのがやっと……」
ウモユカク達が乗った白い円盤は高速で移動していた。しかし地上には逃げ遅れた妖術師が必死にどこかへ向かって走っていた。その様子は絶望に満ち、背後にある何かにひどく怯えているようだった。周りの空を見てみると大小様々な白い円盤が同じ方向に向かって高速移動していた。
「時間が無いのです、間も無くこの星は
「
「ええ、説明は後です。早く逃げないと我々も生きては帰れないでしょう」
ようやく港が見えてきた。
開かれた入り口で、兵士たちが大きく手を振り合図をする。
「あと少しです、一気に乗り込みますよ」
ウモユカクがふと後ろを見てみた。
「あ……壁が」
大きな青い、そして山々より遥かに高い壁が出現していた。それが凄まじい速さでこちらに迫って来ていた。
そして何よりもそのさらに背後に、その高い壁を上回る巨大な怪物がこちらを睨んでいた。
ゾルググを乗せた円盤が
「乗船完了、離陸せよ!」
ゾルググの合図とともに、宇宙船が急浮上した。
その速度が急激であったため、船員の多くに凄まじいGが生じ、地面にへばりつく形になった。そのまましばらく全く身動きが取れない時間が続いた、歯を食いしばる船員達。うわぁぁぁといううめき声と怒号が飛び交った。
どれほどの時間が過ぎただろうか、やがて浮上速度も落ち着いたのか、立ち上がることができるようになっていた。ドルマーニの影響下から抜け出したようだ。
ウモユカクが窓から外を見た。すると、もともと紫の帯で包まれていたドルマーニがまるで別の星のように真っ青な球体となっていた。
「大海嘯です」
背後からゾルググの声が聞こえた。
「大海嘯……? 一体ドルマーニに何が?」
ゾルググも窓側のウモユカクと肩を並べた。
「ドルマーニは戦況が不利になると、星をクローズするのです。一旦内部スペースに逃げ込み、とある怪物を召喚し、大海嘯を引き起こす。するとしばらく星は人の住めない状況になる。そうすることで、敵が攻め入ることができないようにする、彼らの常套手段です」
「あの怪物が……」
(大海嘯と聞いて思い浮かぶ怪物とはどんなものでしょうか? 私は2種類しかありませんが……。またこれから登場するウローナ船団の重要人物はどんなキャラクターでしょうか? また主人公は今の所男性女性どちらでも当てはまるようにしているつもりですが、どちらがいいでしょうか? 最後まで保留もありですが。その他なんでもどうぞ!)
=編集後記・ぼやき=
本当なら1話2000字くらいで、気軽な展開を予想して始めましたが、宇宙の覇権争いとなった時点で創作者意欲が刺激されてしまいました。でも作者的にはかなり楽しいので、とりあえずはこれで行きましょう! 皆様のインスピレーションをもっとください! でもいつまで続けて、どう終わりにするのか、まあ、成り行き次第ということでよいでしょうか(笑)
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