第5話ー1 探り合い

(*で視点が変わります、お読み苦しい点、ご容赦ください!)

(一言お詫び申し上げます。読者参加型と言いながら、みなさまから頂いたキーワードのインスピレーションが良過ぎて、かなり突っ走ってしまっております。終わってみると8000字を超えていたので、前編後編に分けました。是非見捨てないでください!)




 ……カク様、気づいて、お願い……。


 無数の蜘蛛の糸が、幾重にも絡まりあう。そんな身動きの取れない世界の記憶。ぼんやりとした視界の中、そのもやがわずかに晴れる。その隙間から見えるのは何やらこちらに訴えるような悲愴の表情。高く整った鼻筋に、キリッとした目尻。その女性の強く訴えかける眼差しにも関わらず、それが誰だか全くわからない。


 ——モニターを……見て。ジャンルは……その他……ランキングで……12位。


 ぷつん。そこで映像は途切れた。

 目が覚めると、私は椅子にもたれていた。どれだけ時間が経ったのだろう、改めて部屋を見渡してみると、ここが今、高速で移動している宇宙船とは思えないほど静寂で満たされていた。その様子はまるで時が止まったかのように。

 ふとモニターに目がついた。そういえば、夢の女性がモニターを見るように、と言っていた。

 モニターの数は12個。それぞれその下に「SF」、「現代ドラマ」、「異世界ファンタジー」といった文字が書いてある。私は「歴史」のモニターに目をやった。するとそこにはダガンブルグの歴史が表示されていた。この国がどのような生活様式で、歴代の王がどのような政策をとってきたかも含めて。

 ダガンブルグは自然エネルギーの開発が進んでおり、恒星光、宇宙波などからエネルギーを抽出し、循環型の生命活動がほぼ完成されていた。ただ残念なことに武力に関する技術はほとんど持ち合わせていなかった。

 いずれ宇宙戦争が始まると、あっという間にダガンブルグは植民星となり、やがて国民は星を追われ、宇宙船ベースシップへと逃げこむことになったのだ。

 他にも今、この宇宙での起こっている戦争のこと、資源が枯渇していること、影響力を持っている惑星のことなど事細かに解説されていた。影響力を持っている惑星の一つに挙げられていたのが惑星ドルマーニ。そこは暗黒星と言われ、妖術が進んでおり、皇帝ドルマのもと宇宙征服の施策が進められていた。他には惑星ウローナ、こちらは科学技術が進んでおり、ドルマーニと対立関係にある、ということなどが表示されていた。


 一しきりその「歴史」のモニターを読み込んだあと、私は他のモニターにも目をやった。その中に「その他」というものがあった。

 そうだ、私が確認しなければならないのは「その他」だった。その画面を上から順に目を通す。中には見覚えのあるキーワードも流れてきた。


2位(→1位):あやまるねこさんの自主企画参加にゃ(=^ω^=)/ あいる様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896414537

4位:桃太郎異聞 朔(ついたち)様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896210110


 このようなものがこの世界では人気らしい。私はさらに下へとスクロールし、12位を探した。そしてそこにあった文章の中に気になる会話を見つけた。それは先ほどのゾルググが話をする場面。


『……碧色の翼、そんなものには興味はない。王からの命令はただひとつ、あやつを碧色の翼は導くとそそのかしてあのお方に差し出す、それだけだ』


「まさか」

 

 私はすぐさま窓際に駆け寄った。そしてその四角を通して、真っ暗な宇宙空間を睨む。見えたのは遠くに浮かぶ丸い星。周りに紫の帯が絡み合い、重い質感を持ちながら、ただただじっと佇むその惑星。


(確かあの星は……ドルマーニ。何故あの星へ? あの星は確か、私が拘束されていた場所ということだけはかすかに覚えている。ということはつまり……)


「お目覚めですか、ウモユカク様」


 気づけば扉の前にゾルググが立っていた。

 私は咄嗟に腰のバンドに手を当てる。


「おっと、お探し物はこれでしょうか」


 ゾルググがベルトネア銃を取り出した。


「さきほど拝借いたしました、このような物騒なものはこの宇宙船ベースシップには似合わないのでね」


 先ほどとは打って変わった冷たい態度に怒りがふつふつと込み上げた。


「最初から私を欺くつもりで?」

「何のことでしょう、私たちにとって碧色の翼とは最初からこのことです」

「今すぐ、進路変更を願いたい」

「それは無理な依頼です、もう我々は動き出しているのです」


 視線と視線がぶつかりあった。向こうも一ミリもその視線を外さない。

 私は心の奥から言葉を吐きだした。


「ダガンブルク国、銀河位で46:23:-87に位置し、およそ457リーグを統治、主な人種はコーネル族」

「よくご存知で。残念ながらその情報は10年前のものですが」

「ゾルググ隊長、私が言いたい情報はそこではありません。ダガンブルグの特徴は自然と調和して生きることに長けていた。100年、いや1000年先、それどころか永久に生命が循環し生き続ける方法を実践していた、誇り高き人種のはずです」

「そうです、そして呑気にも戦争の事を考えずに過ごしていた我々は、押し寄せる宇宙戦争に飲みこまれ、星を奪わた。生命体の数は全盛期の100分の1まで減少し、今はボロ船で生きているのかも分からない生活。その愚かな民族としての事実も史実に刻んで欲しいものですな」


 私は机を思いっきり叩いた。


「違う! 間違っているのは世界の方だ。奪い合えば必ず資源は足りなくなる、いずれこうなることは必然だった。それを知っていたアルス王こそが正しい道だった、違いますか?」


 ゾルググは鼻で笑った。


「美しいな、言葉というものは。だが戦に負ければ口は無し。美しい未来すら語る権利を奪われる」

「いいえ、違います。私にはある、戦うでも負けるでもない、第三の方法が。私を信じてほしい、そなたのような正しき心をもつ民族が胸を張って過ごせる未来を私なら実現できる、私が碧色の翼へたどり着くことさえできれば。お願いです、今すぐ進路変更を」


 ゾルググは黙って私の話を聞いていた。

 私にも碧色の翼が何なのか、まだ確信は持てない。でも賭けるしかない、このままでは確実に私は囚われる。なんとかこの流れだけは止めなければ。


 がちゃがちゃという騒がしい音とともに、扉の奥から数人の兵士がなだれ込んで来た。皆一斉に銃を構える。


「残念ながらもう遅いのです。計画はすでに最終段階を迎えました、あとは実行するのみ」


 数名がゆっくりと近寄り、私が無抵抗な事を確認すると手を後ろで縛った。

 そのままゾルググは兵士に見張りを命じ、部屋を後にした。

 バタンという音が静かな部屋に虚しく響き渡っていた。



 ゾルググは廊下を歩きながら、何かその胸の奥底にどろっとしたものがこびりついている感覚が取れないでいた。


(第三の方法だと、そんなものがあればとっくに……)


 言いかけて、ゾルググの頭に小さな閃光が走った。


(いや、ちょっと待てよ)


「おい、誰か紙とペンを」


 はっ、そんな声とともに兵士の一人がメモ用紙とペンを持って来た。

 そしてゾルググが、そこにおもむろに文字を書き始める。


(ウモユカク……モニター、碧色の翼。——そうか、そういう事だったのか。こうしてはいられない、今すぐこのことを王に伝えねば)


 ゾルググは壁に貼られた貼り紙を見た。


『他国に通ずる人狼スパイ侵入中。見つけたものには褒美を授ける』


(ただどうやって? 現状況ではあまりにも危険すぎる。だがもう時間がない)


 宇宙船ベースシップはすでに惑星ドルマーニまで目前に迫っており、到着を後数分後に控えていた。


 一方王の間ではどこからか侵入したと思われるスパイである人狼に、心中穏やかでないダガンブルグ王がいた。目の前にひれ伏す兵士にその苛立ちをぶつけていた。


「まだ見つからないのか、人狼スパイは」

「はっ、申し訳ございません。不穏な行動があればすぐにわかります、探知石を用いても何故か全く反応がありません」

「言い訳は聞き飽きた! 探知石で見つからぬ人狼スパイがいるわけなかろうが! そうこうしているうちに、やつは私の命を狙っているんだぞ、死ぬ気で探してこい」


 はっ、そういうと兵士は王の間を去った。

 横で灰色のローブを纏った男が口を開いた。


「おかしいですなあ、そこいらの人狼スパイなら簡単に見つかると思ったのですが」


 王は息を切らしながら、心臓の鼓動を必死に抑えていた。


「メラルゴ参謀、お主の妖術でなんとかならんか」


 メラルゴと呼ばれた参謀はまるでピノキオのように伸びた鼻を持ち、その下に生えるふさふさとしたひげをゆっくりとしごいた。


「そうですねえ、ただこれだけ必死に探しても見つからないということは、きっと簡単なことではないでしょう。ただ一人思い当たることがあるのですが……いや、やめておきましょう。こんなことは考えたくもない」

「なんじゃ、言ってみい」

「王、あくまでこれは仮定の話です。今から言う事はお忘れください」

「もったいぶらずに早く申さぬか」

「ええ、かしこまりました。その人物は……」


 王は固唾を飲んでその口もを見つめた。


「ゾルググ兵隊長です」

「ゾルググ? あの忠誠心の強いゾルググが人狼スパイだと? 寝返ったと申すか?」

「ええ、彼は先代のアルス王にこそ強い忠誠心を抱いておりました。もちろん現王にもですがその差は残念ながら大きいでしょう。現王への不満も漏らしていたという情報もあります。そして何より探知石による調べを受けていないのはもう彼くらいです」

「だが彼は命をかけて我の事も守ってくれた。そう簡単には裏切るような輩ではないぞ」

「ええ、申し訳ありません、こんなことは口に出すのも愚かなことでした。いかなる処罰も受ける所存でございます」


 王はため息をついて、遠くを見た。


「まあよい、それよりじきにドルマーニに着く。あそこは油断ならない暗黒星だ、そなたも準備するとよい」

「かたじけない、では」


 そういうと、メラルゴは灰色のローブをひるがえし、王の間を去った。


「…………」


 その瞳がローブの中で怪しく光っていた。


(第5話−2へ続く)

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