第4話 移動先の世界は?
楕円の輪をくぐり抜けた先、そこにあったものに私は思わず目を見張った。
そこは薄暗い、油と汗のにおいが充満した、まるでどこかの地下施設のような場所だった。
ゆらゆら揺れる光の下、頬に泥をつけた男たちが荷物を運び、あるものは必死に食を貪り、またあるものは疲れ果てて椅子の上で眠りこけていた。
「ようこそ、我が
そう告げると、左手を胸に当て、深々とおじぎをした。
——色々騒がしくてすみません、とそう付け加えてからゾルググは狭い廊下を淡々と進んでいった。途中にある窓から外を見ると、どうやら今私たちは凄まじいスピードで宇宙空間を突き進んでいることが見てとれた。
どれほど進んだだろうか、とある扉の前でゾルググは立ち止まった。
「ここがウモユカク様のお部屋です」
そい言って開け放たれた扉の先から見えた部屋は、今まで見てきた光景とはかけ離れたものだった。整えられた四角い空間に、テーブル、椅子、そして奥にはシワ一つ無いベッドが置かれていた。机の花瓶には花が活けられている。中に入ってみると今までしつこく聞こえていた、カンカン、という金属音は全く聞こえない。
「……ここを私一人で使ってよいと?」
ゾルググはにこりとして頷いた。
「色々とお疲れでしょう、碧色の翼まではまだ時間がかかります。どうぞごゆっくりされてください。今使いの者に飲み物を淹れさせます」
そう言い残して、ゾルググは部屋を出た。
静かになった部屋で、私はもう一度部屋をゆっくりと見回してみた。壁にはいくつもスクリーンがあって、それぞれファンタジー、SF、現代ドラマなどの文字が下に添えてある。これが何を意味するのか、今ひとつ私には理解できなかった。
このまま私は碧色の翼へと辿り着けるのだろうか。私が何かを言う前に彼は私の目的を知っていた。であれば、少なくとも私よりはよく状況を知る者なのだろう、今はそれを信じるしかない。私は疲れた体を癒すため、ふかふかのクッションのある椅子に体を預け、気づけば少しうとうとしてきていた。
*
ゆっくりと扉を閉めるとゾルググは、音を立てないように外から固く施錠をした。それが壊れていない事を念入りに確認する。
それが終わってから振り返ると、そこには不安げな兵士が数名臨戦態勢のまま立っていた。
「どうした、お前たち」
「ゾルググ様、一つよろしいでしょうか?」
ゾルググは黙っていた。それは質問を受ける、という暗黙のサインだった。
「私は反対です、あのような化け物を
ゾルググは再度施錠を確認した。それからゆっくりと歩き出す。
「大丈夫だ、心配は無用」
「ゾルググ様、あなたもご存知でしょう、あやつがどれほど脅威であるかを」
後ろにいた兵士が、ゾルググの前へ飛び出し、その行く手を遮った。
「私は見ました。あやつの術『
ゾルググはその言葉にうなずきもせず、遮る兵士をどけるように再び歩き始めた。
「ゾルググ様、あやつの
「だったら尚の事、ではないのか」
ゾルググが歩みを止めた。そしてふう、とため息をつく。
「そんなモノが我々に敵意を持って攻撃してみろ、我々は一瞬で煙と化す、いや煙にすらなれないかもしれない。だからこそ不審がられてはいけないのだ」
「ですが隊長」
ゾルググはそう口を開く兵士の前に、その顔面を近づけた。
兵士は思わず、ひい、と口から漏れるのをこらえるので必死だった。
「安心しろ、あいつは本当に何も覚えちゃいない。お前たちも聞いただろう、私の質問を」
遠くから、カン、カン、と武器を叩く音が聞こえる。あたりは相変わらず蒸気のシュー、という音やガタガタという機械音で騒がしい。顔を覗き込まれた兵士は思わず唾をごくりと飲み込んだ。
「私があの時、ロレアナ姫が死んだ、と嘘の情報を告げてもあやつは全く反応もしなかった。もし記憶を取り戻していたら、あぁはなるまい。なぜならロレアナ姫は……」
言いかけてゾルググは口を閉じた。
「ちと喋りすぎた。とにかくお前たちには私の方針に従ってもらう。惑星ドルマーニに着くまでお前たちはあやつに不穏な行動が無いか見張っていろ」
兵士の一人が首をかしげた。
「ドルマーニ……ですか? 碧色の翼に向かうのでは——」
「碧色の翼? そんなものには興味はない。何なのかもわからん、王からの命令はただひとつ、あやつを碧色の翼は導くとそそのかしてあのお方に差し出す、それだけだ。我々の命あるうちにな」
一番前にいた兵士が口を開け後ずさり始めた。
「そ、そんな。王はそんな人を騙すような命令をされたのでしょうか?」
と言い終える前に、気づけばゾルググが兵士の胸ぐらをつかんでいた。そしていとも簡単に持ち上げる。足が宙に浮いてぶらぶらし始めた。
「何を寝ぼけたことを……」
それから手を離すと、ドン、と兵士の体が床に叩きつけられた。
「お前らよく聞け。お前たちも知ってるだろう、今の我々の置かれているこの状況を! この100年続く宇宙戦争で、あらゆる資源はほぼ枯渇している。全ての人口を賄うのにあと5年ももたないと言われているんだ。そんな中で我々少数民族が生き残るためには手段を選んでいる場合ではない、違うか?」
ゾルググの目が鋭く光った。その凄みのある声に、兵士たちの背筋が一気にまっすぐになった。
「この中で忘れた者はまさかいないだろう、先代のアルス王を。それはそれは愛のある優しいお方だった。だがそれだけだった、それが故に我々は戦に負け、故郷の星を失った。だからこそ我々は今、この
ダガンブルグの残された民を乗せた
(主人公はこの後どうなるでしょうか。気づかずに惑星ドルマーニまで行ってしまうのか、途中で気づくのか、何者かの密使がやってくるのか。もしくは惑星ドルマーニでどんぱちやるのか。思い付いた展開などをご自由にどうぞ!)
作者より
GWはもうすぐ終わりますが、ある程度話の決着がつくまでは続けたいと思います。そんな長くはなりませんので、よろしくお願い致します!
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