第3話 銃は何の為に?

 私は肩の力を抜いた、そして銃を構える。

 銃口を向ける先、それは私の口——ではなくあのブルドーザーだ。


(一か八か、やるしかない)


 標準を定め、力強く引き金を引く。


 パシューン、という音と共にまばゆい弾丸がブルドーザー目がけて放たれた。その光は巨大なブルドーザーの前ではあまりにもか弱く、まるで大火事の家に水鉄砲でも放っているように小さな光だった。


(あのブルドーザーも所詮は機械、せめてコントロールさえ奪えれば……)


 巨大な鉄の塊は、もう目と鼻の先まで来ていた。

 私は強く願った、あの獰猛な振動が消えるようにと。


 次の瞬間、ぴたっ、と音が止んだ。

 

 先ほどの喧騒が嘘のように、あたりには風が通り過ぎる音が聞こえ始めた。

 そのまま私はイメージをした、この大きな塊が少しずつ後退するその姿を。

 すると現実のブルドーザーもそのままゆっくりと後退していった。先ほどまで荒れ狂っていた獅子が、まるで何かとてつもない恐ろしさにたじろぐように。


(そうか、これでイメージ通り操れるということか)


 私は空をめがけて光弾を放ってみた。太陽がギラギラと輝くその青い空に、光弾が吸い込まれた。その直後、光弾の周囲に灰色の雲が現れた。


(雨よ降れ、こいつを溶かしてしまえ)


 突如降り始めた夕立のような雨は、ブルドーザーの周りにだけ黒い影を落とす。

 そしてその鉄の塊が徐々に溶け始めた。


 やがてブルドーザーが原型を留めないほど溶け出したころ、その鉄の塊が辿ってきた跡が見えるようになってきた。

 その軌跡は全て空間が歪んでいて、元々そこに何があったかわからないほど混沌としていた。

 「無」に返す、という言葉は決して大げさではなかったようだ、あと少しであの空間に吸い込まれていたのか、と思うとぞっとした。


(これで終わりにしよう)


 私は腰の赤いバングル、通称アカバンを投げつけた。するとその塊は一瞬にして消えてしまった。これでいい、張り詰めていた緊張の糸がぷつん、と切れると私はその場にうなだれた。


(もういいだろう。それにしてもこの銃はすごい、イメージを具現化できるのか)


 ようやく心拍数も下がり、生暖かい風の感触を思い出していた頃、身体中の傷が呻きだした。

 そうだ、私は全身傷だらけだった。さあて、これからどうするか。ぼんやりとそんなことを考えていたそんな時だった。

 だだっ広い草原に縦長の楕円形が現れたのだ。そしてそこから、人がぴょん、と飛び降りて着地する。それは一つではない、様々な方向からいくつもいくつも楕円形が出現し、人が飛び降りては消えた。気づけば多くの人が私を囲んでいた。そして皆、無駄のない動きで銃口を私に向ける。私は一瞬にして、多数の銃口に囲まれた。


 状況がつかめないまま後ずさりする私の前に、一人の男が立ちはだかった。みなが迷彩服を身にまとう中、その者だけは他の者と明らかに違っていた。赤い衣服に黄色いバンダナ、そして浅黒い肌に鋭い顎。鍛え抜かれた腕にある深い傷跡は、この男が百戦錬磨の将であることが嫌でも伺えた。

 男がじっと私をにらむ、おそらくこれからの行動ひとつひとつが私の命運を左右することになるのは間違いない。 


「単刀直入に申し上げる、あなたはウモユカク様か」


 数十名の兵士が息を飲んでいた。一人としてぴくりとも動かない。


「ウモユカク? それが私の名なのか? 申し訳ない、私は自分の名前が思い出せない」

「ならば質問を変えよう、ロレアナ姫がお亡くなりになったこともお忘れか?」


 私は姫と名のつく人物と何らかの交流があったというのか、それとも……。私の釈然としない表情を見て、兵士はお互いにひそひそと耳打ちをした、それから小さく頷く。

 紅色の兵士が手を挙げた。それを合図に全ての兵が一斉に銃を降ろした。それを確認してから、私の前にかがみ、片膝をつく。


「ウモユカク様、今までのご無礼をお許しください。この生物さえ入ることの許されない不毛の大地、デザルトニアで爆発音があったとのことで調査に参りました。申し遅れました、私たちはこの地域を治めるダガンブルク国の血命防衛隊です」


 気づけば数十名の兵士が皆ひざまづき、頭を垂れていた。


「ご安心ください、お探しの物の場所は分かっております。このゲートムーバーを用いれば碧色の翼までさほど時間はかかりません」


 兵士が手をかざすと、一瞬にして縦長の楕円形が現れた。その楕円の内側が虹色に揺れている。

「私たちが先に入ります、さあ一緒にどうぞ」


 兵士が、ぴょん、と虹色の中をくぐり抜けると、そのまま見えなくなってしまった。

 私は後を追って、そのまま楕円の内側にある虹色をくぐり抜けた。

 それはまるで水の中に顔をつけるのに似た、不思議な感触だった。やがて体全部が楕円形を抜けた頃だろうか。突如現れた世界に私は息を飲んだ。

 なぜならそこは……。


(ゲートムーバーという瞬間移動装置を抜けて見えた景色はどんなものをイメージしますか? またはそこにいる人、物、動物、なんでも構いません、自由にコメントをどうぞ!)

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