一日目⑩ いつも通りの日常

 「ってなわけないよな~」

と誰もいないこの部屋で独り言を放った


当たり前だ


 普通、こんな紙切れ一枚と、あるかどうかも分からないような

記憶だけで判断するわけもない


ひきこもりに変化は要らない

このまま時間を貪っていればいいだけだ


想像力豊かな中二の頃にでも書いたのだろう 


 僕もただの人間だ

ごく普通の、ちょっと人間関係が少ないだけの

ひきこもり高校生だ

言ってて悲しくなってきた


 この話はこれ以上しても無駄だ

推測でしかないような話は、これ以上何も語ることはない


でも…


としては最高だ

むしろ上出来すぎるくらい

ここまで覚えていることも初めてかもしれない


 僕は日常から『』というものを書いている

その名の通り、夢で見た内容を覚えている範囲で書く、といったものだ

 

 これは、自宅で開業医をやっている父親から聞いた話だが、

なんでも、つけていると、だんだん夢か夢じゃないのか分からなくなるとか

 

 そしてリアルな夢を見ることが、だんだんできるようになったり、

夢をコントロールすることも可能だとか


 自分の精神をコントロールするのに最適だ、

これで自分を見直したらどうだと、引きこもり初期の頃に教えてくれた


正直、夢をコントロールして、あんなことやこんなことをしたい

なんて思ったこともあったが、そんなことは一切なかった


 そもそも、現実で何も起こらない引きこもり生活は

刺激を一切与えないためか、夢自体ほとんど見ない


 だから夢日記自体、一週間に一回くらいのペースだった

見れたとしても、夢の内容は、辻褄が一切合ってなかったり

『誰かがなんか言った』というようなものしかない


最悪、キーボードのタイピング練習にでもなれば、とも思っていたが

そもそも夢自体、三行くらいで書き終わる


キーボード練習にすらならなかった


そんな中で見ることができた、ものすごくリアルではっきりしたような夢は

 そこそこのやる気を与えてくれ、そして

キーボードを加速させた

 

 メモ帳に書いているこれは、もちろん人に見せることはないけれど

というより見せる人がいないけど、一応、覚えていることを

あらかた書くことができた


 意外と長文でも書けるものだ

自己満足に浸って、ゲームして…と何も変わらない一日を送って…


夢の内容なんかとっくに忘れ…


気づけば夜になっていた

本当に時間が経つのが早い


何もしていないと本当にあっという間だ 


ベットの上の時計を見た

9時10分

少し時間がずれている気がするのは気のせいだろうか


この時、壁の時計は9時ぴったりだったと思う

あやふやな記憶だが、問題はそれではない


風呂に入るタイミングだ


食べるときや風呂に入る時間は家族全員、大体時間が決まっている

できるだけ誰とも会いたくないので、タイムスケジュールは完璧に近い


このくらいの時間なら、まだ両親はテレビを見てる頃だろう


唯一妹の時間だけが少しズレることがあり

時々鉢合わせるが、アイツは…まあ出会ったらその時だ


どうせ冷徹な声で「ちょっと死んでくれない?」とか言われるんだろう

昔はそんな奴じゃなかったと思う

もっとベタベタ甘えていたと思う

あの頃はかわいかった…気がする


もうこれ以上考えるな


もっと存在が惨めに思えてくる…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 風呂に入った後のことだ


「またかよ…」


昨日と同じく、『じんましん』が出ていた

しかも、昨日とは違い、顔や四肢と全身に広がっていた


昨日とは痒さも段違いだ

シーツ洗うの忘れてた 


 というわけで今日も二錠飲むことにした

飲んでからはいつもと同じようにラノベを周回していたが

30分もしないうちに眠気に襲われ…

 ベットの上でそのまま眠ってしまった…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


匂いが違う

いつもとは違う場所にいるような

前が真っ暗で何も見えない

 

 目を開けていないからだと今気づいた

そういや、じんましんの薬飲んだ後だ

いつの間にか眠ってしまっていたらしい


まあ一旦起きてみることにした


そうして、軽く伸びをした後、


目を開くと


天井にポスターがない!!

コレクションのポスターが!!


まさか寝ている間に親が全部捨てたのか!?


というのは冗談で…


そんなわけもなく…


それ以上にありえないことが起こっていた


 このドアの向こうから

もう一回、あのやる気のない声が、聞こえてきそうな・・・


そんな予感がした




一日目終了

二日目へ突入


認知するまであと一日…




 








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