第五話 悪魔との再会


「ロミア……だよな? ハハハッ……! 血塗れで見間違いかと思ったが間違いねぇ! こんなとこで会うなんてなっ!」


 金のソフトモヒカン、服装はベストのような物に半ズボン。

 真夜中だと言うのに上着も着ず、軽装で防寒性に乏しそうな印象を受けるが、動き易さを重視したのだろうか。

 露出する筋肉の厚みが彼の身体を守る鎧となっているかもしれない。

 なぜか手には騎士が付けるような漆黒のヘルムを持っている。


「……ロミ、アくん」


 緑のおさげは以前より長く伸びて髪だけでも大人びた印象を受けた。

 顔つきは幼さは消えて立派な女性の顔に、服装は丈夫そうな碧と青の彩りがなされたローブに身を纏って革のブーツを履いている。

 手に持つ三日月型の装飾がされている杖は、魔術を強化する魔術杖というやつだろう。

 幽霊でも見るような眼をした後に、視線を逸らしている。


 テルキと、シナヒ。

 僕の幼馴染がそこにいた。


「誰だ、こいつらは。ロミア、お前の知り合いか?」


「え、あ、あの。彼らは僕の幼馴染なんです! う、うわぁ奇遇だなぁ。っていうかこんなとこで会うなんて……」


 本当に偶然だ。

 彼らが嘘を吐いていなければᛚᛁᛒᚱᚨライブラでいつかは出会えるとタカを括っていたが、まさか一層で出会えるなんて考えてもいない。


 アマンダは訝しげに目を細めて彼らを見ているが、とりあえず再会を喜びたい。


「ご、ごめん。こんな姿で。タイミング悪いね、それにこんな夜中に二人はどうして……?」


「あぁ……その話ならな。まぁ、色々あってな、二人でずっと降りて来たんだ。────五層から」


「え? 五層から……だって?」


 二人は僕よりも約八年も先にダンジョンに潜り込んでいるのだ。

 一層で立ち往生している事は無いと思っていたが、まさか五層とは。

 しかもそこから降りてきたとは一体……?


「少し用事があってな。態々降りて来たんだけどよ……どうにも反応しやがらねぇ」


 腰にある見覚えのある小鐘を叩いてテルキは忌々しげに言った。

 見覚えのある可愛らしげなピンクのリボンが付いた金の小鐘。


「それは商人を呼ぶベルだね……? 来ないの? エニグマ」


「あぁ、これを鳴らせば何がすぐに来るだ、鳴らしても鳴らしても来やしねぇ。だから、初めて貰った一層まで降りて来たんだがな。それでも反応しねぇのさ」


 頭をボリボリ掻くテルキの姿はどうにも疲れが見て取れる。

 この塔の構造が不鮮明な上、迷宮既定ダンジョンギミックが塔から出られないという事項しか情報を知り得ていない僕らにとって、五層から一層まで降りて来るという行為がどれほど身体に負担をかけるか想像も出来ない。

 テルキだけでなく、シナヒも心なしか顔色が優れない。

 杖をぐっと力強く持っていて、倒れないようになんとか立っているとそんなイメージだ。


 亡者のようにやつれる二人を前にして、しかし

 僕の主人は口を押さえて喜びを表す。


「クックック……」


「……アマンダさん?」


「手間が省けるじゃないか。私達は元々集落に情報収集に向かうところだったのだ。お前の幼馴染が、こんなにも都合よく目の前に現れてくれた。しかも相手は五層まで突破した先輩と来ている。色々とご教授願いたいところだ──それにな」


 アマンダは止まらない笑みを二人に見せつけるようにして視線を交錯させる。

 初対面の堕神族ダークエルフに不気味な笑みを見せつけられて動じない人間などいるわけもなく、二人はあからさまに引いていた。

 というか知り合いである僕も少し引いている。

 何をそんなに笑っているのか。


「どうして何重にも付与魔術エンチャントしている? まるで今から戦闘・・でも起こそうと言う姿だが」


 アマンダの言葉にドキッとしたようにテルキは表情を強張らせた。

 シナヒは変わらずげんなりとしている。

 反応をする元気すらないらしい。


「私はな、眼がいいんだ。勿論視力的な意味ではない。魔力の流れ、普通の人が見えない物が見えるんだがな。お前らには四重……いや、五重か? それくらいの魔術をかけられているのが見える。こんな夜中に、何もない草原に、何しに来たんだ? 洗いざらい教えてもらおうじゃないか」


 転機きたりとばかりに昂然と胸を張ってアマンダはそう言った。


 まぁ、この後自分がパジャマ姿で自信満々に知らない人の前で会話を交わすという、赤っ恥をしていた事に気付いて塞ぎ込んでしまうのは、見えていた未来だった。



 食器洗いにも利用した水湧玉すいゆうだまなる、魔力を込める事で作動する水が永遠に出る魔術道具マジックアイテム

 アマンダに魔力を込めてもらい、血を十全に洗い流した僕は、焚火玉の周りに集まる三人の元に戻る。

 未だ元気は無い、が少し休んだ事で二人の顔色は少しだけ良くなったような気がした。

 一方でアマンダはいつものフード付きのポンチョに身を纏ってそっぽを向いている。

 パジャマ姿だったのが相当ショックだったのだろう。

 寝起きだから仕方ないと言ったが、彼女のプライドは許さないようだった。


 服装は小人族コボルト用に用意していた上下合わせて一万ギルもする柔羊蚕カシミアモスの糸によって作られた、上等な服に着替えて参加した。

 本当に金の使い所がおかしい。

 それに……、


「なんていうか……ピッチピチだな」


「うん……僕も着たくないけどこれしかないんだ……」


 全部が全部小人族コボルト用だから、サイズが小さくて仕方ない。

 収縮自在の服装だったから着ることが出来たが、子供服を着るような物だ。

 素材がありふれた物なら着た瞬間に弾け飛んでいただろう。

 いや……まず着る事も難しいか。


「さて……何から話せばいいんだろうな……」


「…………」


 テルキは気まずそうに言う。

 シナヒも先ほどからずっと黙ったままだ。


 だがそれもそのはず。僕ら幼馴染の別れはお世辞にも感動的だったとは言い難く、寧ろ最悪な部類に入る。

 僕という無刻印ノン・マーカーの所為で、五人の中に入ったヒビは相当に深い物だ。

 きっと僕が刻印者マーカーならば、こんな事にはならなかった。

 フェイザー達が先に行く事は無かったし、テルキ達が愛想を尽かして置いていくこともなかった。


 全ては僕の責任。

 だから二人はそんな顔をしなくていいんだ。

 して欲しくない。

 じゃないと、二人がそんな罪悪感に満ちた顔をしていると、まるで僕が悪くないみたいに思えてしまうから──。


「うん、事の発端まで軽く説明してくれたら、嬉しいな。どうして五階層から降りてくる必要があったのか……。僕らが一番知りたいのはそれだよ」


 横から睨みつけられる脅迫の視線。

 まるで代わりに言えと言わんばかりの涙ぐんだ視線により指示を受け、僕は言葉を付け足した。


「……と、加えて迷宮ダンジョン初心者では知り得ない情報とかも入れてくれたら助かる」


「ああ……分かった」


 僕の言葉に少しホッとして、少し考えた後に彼らがここに至った経緯を語り出す。


「ロミアと別れた後、オレらは迷宮ダンジョンに入ってコンビで攻略を続けていた。順調に四階層までオレらは行く事が出来たんだが、そこら辺で限界を感じ始めてな。五階層からは魔物のレベルが段違いに跳ね上がりやがった。少なくとも五人以上のパーティが無ければ突破する事が不可能と思える程度には、な」


「なるほど、じゃあ君達はパーティメンバーを勧誘しに下に降りて来たって事だね。……いや、でもそうしたら五階層で同じ力量の冒険者を捜せば良いのか……、どうして一階層まで?」


「簡単な話だ。さっきから言うように、オレらはパーティメンバーを探しにきたんじゃ無くて、商人に会いにきたんだ」


 あぁ、そう言えばそうだった。

 確かにテルキはさっき商人の小鐘が幾ら鳴らしても来ないから降りてきたと言っていた。


「そして、ついでに言うなら、五階層まで来ると冒険者はほとんど見かけねぇ」


「……? ほとんど見かけないって、どういうこと? まさか三十年も経って未だに五階層までしか攻略が出来てないなんてこと……」


「それが、そのまさかなんだよ」


 場が凍りつくような真剣な言葉。

 僕はテルキの元々の性格を知っているから、彼が今どれほど本気で今の言葉を言ったのか、その価値が分かる。

 そして、それは今日初めて会ったアマンダにさえ伝わる恐怖の言葉だった。


「バカを言うな。今世界に英雄ブレイブの称号を持つ冒険者はそれなりに増えた。最高の魔術を扱える冒険者がな。勿論、多少の差異はあるかもしれんが、それにしたって五階層は冗談がキツい。お前達が行けていないだけで、上の階層には集落を作っているのではないか?」


 アマンダは下を俯き続けるテルキに対して、怒り混じりに行った。

 確かに通常、英雄ブレイブ刻印者マーカーが到達出来る最高の称号だ。

 このᛚᛁᛒᚱᚨライブラにだって名高い冒険者が何人も攻略をする為に入り口をくぐって行ったのを僕は知っている。

 毎日、見ていたから。

 それだというのに、五階層。

 塔の半分までしか攻略が出来ていないなんて、信じられる話じゃない。


 だがアマンダの言葉にテルキは堪え切れなくなったように掠れた笑い声を上げて言う。


「ハッ……ハハ。確かに、そうかもな。だがな、あそこは本当に地獄だったぜ。オレとシナヒが八年かけて攻略してきた四階層までその全てがお遊びだったかのような、まるで子供の遊び場で戯れてた気持ちだった。迷宮ダンジョン? 笑わせる、あそこは本当の地獄だ。目につく全てが敵。少なくとも一年間五階層で過ごしたオレらが言えるのは、チラホラと今までの階層にはいた冒険者が一人も居なくなったって事だ」


 重い言葉だった。

 あまりにも目にして来た物が絶望的過ぎて、笑いが込み上げて来てしまう程に信じ難い光景と経験。

 テルキはそれを噛み締めた。

 咀嚼して飲み込んだ。

 そして、耐性がないテルキは迷宮ダンジョンという毒に侵されてしまったのだ。

 だからこそ、シナヒも横で黙り続けているのだろう。

 会話をする事すら億劫。誰かにぶちまけて楽になろうとすら出来ない迷宮ダンジョンという毒。

 そもそも迷宮ダンジョンは入り込んだ人間を楽しませる為にあるわけじゃあない。

 だがそれを知りながら冒険者達は迷宮ダンジョンへと足を踏み入れる。

 苦難の先にある輝かしい栄光、溢れる程の富、魔物との激闘。

 それらに夢見て、冒険者になる。

 僕ら五人もそうだった。

 その二人が、今あまりにも強い夢の輝きに眼を潰されている。

 もしくは求めていた輝きとは違ったのか。

 二人の目は冒険者のソレでは無く、町の路地裏に座った酒に溺れる大人達と似ていた。


「だからオレらは、一階層に降りて来たんだ。商人が売ってる“塔の外に出る”方法を買う為に」


「え……! 塔の外に出る方法があるの!?」


「あぁ……。知らなかったか? まぁ集落に辿り付いてないんじゃあ、知らねぇか。よく考えてもみろ。この誰も出る事が出来ない塔の中でどうやってあいつは商品を仕入れてるんだ? 戦闘が出来そうな面にも見えなかっただろ? そう、その答えはあいつらが外に出て商品を中に持って来てるからなんだ」


 その迷宮既定ダンジョンギミックに反した、一見荒唐無稽な話は説得力があった。どんなに多くの商品を持っていたとしてもいつかは尽きる。

 そうしてしまえばどれだけお金儲けしたところで迷宮ダンジョン内で死んで終わりだ。

 元々商人になる人間はトラブル回避用に多少の武術魔術の心得があるものはいても、戦闘特化した人はまずいない。

 訓練をする暇があるなら商法について勉強しなければならないし、商売が軌道に乗ったらそれはそれで忙しいからだ。

 その彼らが、ᛚᛁᛒᚱᚨライブラで稼ぐ方法。それは自分一人だけが外に出て商品を安く貯め込み、中で高く売りつける。

 これほど効率の良い商売はない。


「なるほど……それで、外に出るっていくらくらいなんだ? さすがに安すぎたら今まででポンポン人は帰って来てるだろうし……、情報も充分出回っちゃうはずだけど」


「一億ギルだ」


「い、一億……それは簡単には外に出られない、ね」


 一億もあれば最高級魔術道具マジックアイテムが余裕で購入出来てしまう額だ。

 そもそも一億以上の物となると対城戦を行う時に使うような巨大魔術道具マジックアイテムくらいしかないので、それこそ比較する指標がない額だ。

 まぁ、贅沢しないなら一生とは言わなくても向こう五十年くらいなら生きていける額じゃないか?


「でもテルキ……。降りて来たって事はそれを払う算段があるって事だよな? 一体そんな大金どこから……」


「それも五階層にあったのさ。これだよこれ」


 漸く沈んだ表情に光が戻ったか、嬉しそうに手に持つ漆黒のヘルムを叩いている。


「……オリハルコン。か」


テルキが嬉しそうに叩くヘルムを一瞥し、アマンダが目を細めてそう言った。


「オリハルコン!? で、伝説の鉱物じゃないですか! もしかして……これが?」


 この世の三大希少鉱物とされるオリハルコン、ヒヒイロカネ、アンオブタイトのうちの一つだ。

 オリハルコンはその魔力に対する他の追従を許さない圧倒的な適正から、刻印者マーカーの扱う魔術兵装として使われることが多い。

 例えばシナヒの杖もそうだが、杖を用いる事で大気中の魔力と結合し、通常時よりも強い魔術が撃てる事が魔術兵装の強みだ。

 他にも魔術兵装単体で魔術を行使できる物があったり、様々な用途があるが、一番普及されているのは魔力増幅による魔術強化の魔術兵装だろう。

 その魔術兵装で使われる鉱石の中で最も効果があるとされるのがオリハルコン。

 千年以上前、邪神を倒した勇者パーティの騎士が使っていた盾の素材がオリハルコンというのは有名な話である。


「だが本当にオリハルコンなら一億じゃすまない。数十。数百はくだらない代物だ。帰ってもまた、遊んで暮らせる大金だ」


「あぁ、堕神族ダークエルフの言う通りだ。これさえあれば、オレらは無事に外に出られてしかも、外では一生遊んで暮らせる! これがあればオレ達は外に出られるんだ……。あと少しの辛抱だぞ、シナヒ」


「…………うん」


 テルキには漆黒のヘルムが何でも願いを叶える玉にでも見えているか。

 優しい手付きでヘルムを撫でる様は、横暴だったあのテルキからは想像も出来ず、少し気持ち悪ささえ感じた。

 顔に出てないと良いが。


「そういえば、お前も冒険者になれたんだな……ロミア」


「…………え?」


「ハハッ。だってよオレらの身の上話ばっかでよ。有意義かもしれねぇが、オレは久しぶりに会ったお前と話したかったんだぜ? オレはお前を置いていっちまった事に……罪悪感を感じててよ……」


 ヘルムを大事そうに抱え込みながらテルキはそう言った。


「そう……なんだ。良いんだよ。僕が無刻印ノン・マーカーなのが悪いんだからさ」


「ハハッそうか。でもお前は追いついて来た。オレらはもう出てっちまうが、フェイザー達もきっと喜ぶ。良かったな、本当に」


 そこにいたのは昔のテルキと同じ、兄貴肌のテルキだった。

 五階層で随分と酷い目にあったのだろう。

 挙動がおかしいと思ったこともあったが、テルキはテルキだ。

 彼は変わらず僕の友達でいてくれている。

 その事が、些細な事だがとても嬉しかった。


「──で、お前は何属性が使えるんだ??」


「──え?」


「えって、惚けるなよ。だってよ、迷宮ダンジョンに入って来たってことは、お前にも刻印が出たって事だろ?」


「あ……えっとそれは……」


 満面の笑みで問われたその問いは、少し胸を痛めつける物だったが、友達に嘘はつけない。

 僕は針を刺すようにズキンズキンと痛む胸を抑えながら、ズルをした罪悪感に目を逸らして言った。


「あはは、僕は結局まだ無刻印ノン・マーカーなんだ。アマンダさん……ここにいる堕神族ダークエルフの人に拾ってもらって荷物番として入って来たんだよ。だから魔術はまだ、使えないんだ」


「──────」


 驚いたように目を見開くテルキ。

 同じようにシナヒも目を丸く開いている。

 長い長い沈黙が続いて、そして。


「そうなのか! それはすまねぇ。悪い事訊いたな」


 手のひらをパチンと合わせて深々と謝るテルキ。

 僕は両手を振って謝る必要がない事を伝える。


「良いんだ良いんだ。気にしないで。シナヒも、気にしないでね」


「……うん」


 シナヒも理解してくれたのか、頷いてくれた。


「こんな寒いんだ。積もる話もあるだろう、良いお茶があるんだ、手伝え荷物持ち」


「え、ちょっとアマンダさん……?」


 と僕は唐突に手を引かれ、アホゲ鳥の死体のところまで行くと二人から見えないように隠れた。

 意外と力が強いんだな。

 抵抗する気も別になかったけど、引かれるがまま連れてこられてしまった。


「……本当にあれは、お前の幼馴染なのか?」


 腕を組んで不愉快そうなアマンダは突然僕にそう訊いて来た。


「突然なんですか。こんなところまで連れて来て態々そんなこと訊くために隠れたんですか? 間違いなくあの二人は僕の幼馴染ですよ。大人びてますけどね」


「そうか……。悪い友達を持ったな」


「え?」


 アマンダのその言葉は嘘偽りがなく、心の底から唾棄するかのような真実を帯びていた。

 可哀想、同情、なんて感情じゃなく、まるで汚い雑巾でも見るかのような目で言った。


「アマンダさん……僕の友達を誹る事は許しませんよ。大体会ってちょっとのあなたに何が……」


「分かるさ。見えなかったか? お辞儀をした時の、あいつの目を」


「……目?」


 僕は両手を振るのが忙しくて見てなかったな。

 なんというか、彼らの中の罪悪感を取り除くのが忙しかったから気にしてなかったが。


「軽蔑の目だ。自分より劣る者を見て喜ぶ目だ。あの気持ち悪い、泥のような笑み、気分が悪い」


 それを聞いて思い出す。

 シナヒが刻印を出した時、追いかけもしなかった僕を見送るテルキの顔。

 卑しい泥沼のような笑み。

 脳裏に浮かべて僕はそれをかき消した。


「だとしてもです。誰だって人より優れてるとわかった時、少しは嬉しいでしょう? それと同じですよ。テルキは少しその傾向が強いってだけで……」


「なら話してみろ。幼馴染とどういう別れをしたのか、全部最初から」


「……気は進みませんが、簡単に言えば良いですね」


 そうして僕は話す。

 幼馴染達とのあまり思い出したくない別れ話を。

 フェイザーとミズキも忘れずに。

 テルキとシナヒの話は少し変えて。

 誰も好きな人を取られたなんて言いたくはない。


「……ふん。まぁ、それを聞いても良い友達とは私は言えん。なぜアイツらを憎まないのか私には理解不明だ」


 一通り説明しきった後、アマンダは憤懣やるかたない様子で吐き捨てるように言った。

 それどころか話している途中から、アマンダは落ち着かない様子で貧乏ゆすりをしていた。

 苛々の矛先を探すように視線を行ったり来たりさせながら。


「エルフとは元々約束を重んじる種族だ。それを踏まえなくても気分が悪い。お前が無刻印ノン・マーカーの所為だ? 関係ない。子供だからと考えればまだ酌量の余地はあったがあの様子だ。性根が腐っている」


 僕はそこまで言われても、結局悪いのは自分だとしか思えない。

 四人中四人が僕を置いていってしまったのだ。性格が嫌いなわけでも、容姿が嫌いなわけでもない。

 能力が無いから、彼らは僕を置いていった。

 ならば、僕が悪いのは当たり前なんじゃ無いのか。


「彼らの事を悪く言わないでください……。塔の迷宮ダンジョンに入れてくれた事は感謝してます。してますけど、さすがに僕でも怒りますよ」


 グッと拳を握りしめる。

 彼女が女性でなければもしかしたら殴ってしまっていたかもしれない。

 自分の力を理解しているから、私情で喧嘩をした事はない僕だがそれでもそれくらいに機嫌が悪い。

 友達を貶される事はこれほど不愉快なものなのか。


「あぁ怒りたければ怒るが良い。お前がアイツらに怒らないなら私が代わりに怒ってやる。お前は圧倒的に自尊心が足りない」


「アマンダさん!!」


 お茶を持ってくるという建前を忘れたのか、ずかずか勝手に歩いていこうとするアマンダの肩を掴んで無理矢理こっちをむかせる。

 アマンダは僕の目を睨みつける。

 紫苑色の双眸が光を持って対峙する。


「それだけじゃない……。アイツには肝心の話が抜けている。身体に幾つも付けられた付与魔術エンチャントマジックについての説明が──」


「────ひ、ひぁぁぁっ!!?」


 アマンダの言葉を遮るように草原に響き渡る叫び声。

 僕達は喧嘩をしていた事も忘れて同時に振り返る。


「し、シナヒ!? どうした────」


 アホゲ鳥の死体から飛び出せば、腰を抜かしたシナヒと大事そうにヘルムを抱えて立ち上がっているテルキ。

 そして確認するまでも無く、シナヒの叫びの原因が視界に映る。


 悠然と草原を歩く漆黒の首なし騎士の姿が、そこにはいた。

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