第22話 想いの再確認
【8/30 午後7時 @学生街のある居酒屋】
9月の末くらいに沙羅との約束通り遊園地へいく打診でもしてみようかとやきもきしていた夕方頃、丁度に湊から電話が掛かってきた時は俺の悩みか下心でも見透かしたのかと思い電話に出るのも緊張してしまった。うわずって緊張した声で対応する俺に対して彼女は冷ややかな声で大丈夫かと聞いてきた。大丈夫ではないかもしれない。
「今日は珍しいな。どうかしたのか?」
「まあ、あせらないで。偶にはいいじゃないの。」
何かをごまかすように俺に店のメニュー表を手渡してくる。真綿で首を締められるというのはこの感覚なのだろうか。ちょっと居心地が悪い。
「そうだけど……。」
「私と食事は嫌?」
どこか余裕な表情を見せているのに、まるで下手に出て俺の機嫌を伺うようなことを聞いてくる。
「嫌なわけないだろう。でもここ居酒屋だぜ?」
大学の飲み会やバイト先の飲み会で来たことは何度もある。ただ、公にはまだ俺は19歳なのだから酒は飲めない。まるで夏祭りの中にいるような賑やかさに囲まれている。
「私は20だからお酒を飲むわ。
「え?飲むのか?」
湊が自分から酒を飲んでいる光景は一度も見たことがない。先輩との付き合いで1杯飲むのか飲まないのか、その程度なのできっと嫌いなのだと思い込んでいた。
「ええ、飲むわ。でも、何が良いのかしら。御波選んで?男の人はこっそり飲んでいるから分かるでしょう?」
質問の答えは沈黙。今日の湊はやっぱり雰囲気が違う。どこか上機嫌とも取れるし浮ついているとも取れる。もしかすると何かあったのかもしれないと下手に勘ぐってしまう。
「じゃあ、まあ。カクテルでも。さっぱりしたのが良いか?」
「そうね、夏らしいのがいいわ。」
ページに書かれたポップな文字を目で追っていく。夏らしい――。ならまあこれかな。
「モヒートサングリアで、どうだろう。」
「じゃあそれで。」
何も考えるまもなく、メニュー表の写真を見るわけでもなく、彼女は即決で決めてしまった。もうこうなればどうにでもなれの気持ちしかない。
手を大きく振り上げて店員を呼び注文する。賑やかな店内にしっかりと響き渡る低音で呼びかけに応えてくれる。
「あの、このモヒートサングリアとジンジャーエール、それと……」
適当なツマミになりそうなメニューを選んでいく。あまり揚げ物ばかりにはならないように。その俺の様子をどこか見守るように湊は何も言わなかった。
「以上でよろしいですか?」
「はい、お願いします。」
まったく慣れないことをしたけれども、この先成人同士のデートにでもなるとリードしないとならないのだろう。まさか湊みたいな女性を連れてくるとは思っていなかったけれども。
「やっぱりちゃんとできるのね。」
「今日はテストの日なのか、ふふ。」
やっぱり彼女の様子がおかしいので俺もつられてテンションがおかしくなる。お酒も飲んでいないのにどこか楽しい。
「そういうわけじゃないけど、御波と一度くらいこういうこともしてみたいでしょう。」
どこか勘違いしてしまいそうな態度は雰囲気や言い方は違えど、沙羅と同じような態度だ。もっとも大人の彼女にはそれ以上に掌で転がされている感覚が強い。
「湊にそんなこと言われたら、大抵の男は勘違いするぞ。」
「御波も単純だものね。」
「そりゃそうだよ。しかたない。」
「あはは。」
今日は普段は滅多に見せない笑顔で彼女はよく笑う。このときはまだ今日は良い夜になるかなと思っていた――。
⁂
1杯目のお酒を飲み切るまでは良かった。彼女のテンションは高いけれども、頬に薄いチークのように朱が差して血色が良くなっているだけだった。
2杯目に梅酒をオレンジジュースで割ったお酒を飲み始めてから本格的に酔い初めた。
「でー。サラちゃんとキスはしたのー?」
「おい?湊、大丈夫か……?」
顔はもう朱が差しているなんて表現ではなくて一面が桜色に染まっている。いつもの凛とした態度でもなく語気や語尾もおかしい。
「また私に秘密にしてー。したのー?」
「していないよ。してない。」
この様子だと3杯目は止めないとダメだ。というか飲ませたらダメなタイプの子だ。
「じゃあ、目と目が合ったのはいつ?」
また不思議なことを聞いてくる。
「そりゃ…あー。最初に大学案内したときだから5月かな?」
「サラちゃんの手を握ったのはー?」
テーブルに両手の肘を付いて首をかしげてくる。
「えー。6月かな。」
たしかに水族館で繋いだ記憶はある。夏祭りでは必ず握っていた。
「じゃあ肩を触ったことある?こう、抱き寄せるみたいに。」
身振り手振りで肩を組む様子を見せてくる。海外の人みたいなオーバーなりアクションみたいだ。
「6月かな、同じ日、写真撮るときに。」
「御波って意外と大胆だねー。あ、すいませんー。モヒートもう1杯下さい。」
通りがかった店員を呼び止めて俺が止めるまもなく3杯目を注文する。
「おいおい湊、飲みすぎじゃあ……?」
「えー大丈夫よ。」
どこか目が座っている。これはダメかもしれない。はどうしようかな、女性で呼んだら来てくれる人……白波先輩くらいか……。
一応連絡を取ってバイト明けに来てもらえないか交渉していた。
「あ、湊、携帯みてる。サラちゃんから連絡きたの?」
「違う違うよ。白波先輩。」
「藍沙といい、女の子ばっかり周りにいるわねー。」
湊の普段あまりみられない笑顔のバーゲンセール。絶対にコンパとか行ったらダメなタイプの人間だ。
「確かにな……。それより湊、水も飲んでおけよ。」
「はーい。みーくん。分かりましたー。」
湊が沙羅の真似をしてみーくん呼びまでし初めてしまった。この様子の湊を一人じゃあ支えきれない。頼む、先輩来てくれ。
湊は俺の助言のとおり、ゴクゴクと一気に水を飲み干す。焼け石に水かもしれないけどもこれでマシになってほしい。
「じゃあ、みーくんはサラちゃんの腰に手を回したことはありますかー?」
マシになってくれなかったなあ。もうアルコール回っているのだから仕方ないけれど。
「うーん。ない……いや、この前にサラが倒れそうになったのを支えたことはあるよ。」
最初記憶から見つけられなかったけれども、風邪を引いたあの日に寝起きの沙羅をとっさに支えたことを思い出した。
「ふーん。優しいねー。」
「はい、モヒートサングリアです。」
「あ、ありがとーございますー。」
丁度のタイミングで3杯目が運ばれてきてしまう。取り上げた方が良いか。
「湊、もう飲まないほうがいいよ。」
「え、じゃあ御波が飲むの?もう口つけちゃったけど?」
まるで試すかのようにグラスを手渡そうとしてくる。
「俺は飲まないよ!飲めないよ!」
「あはは。御波可愛いー。」
「湊はやべーよ。」
酔っぱらいだなあ。まったく。あんなしっかりした湊がこんな性格だなんて知らなかった。お酒は人を変えるというよりも本当の内面を出すって聞いた事がある。もしかすると彼女はこんな性格も持っているのだろうか。
「女の子の腰まで触ったら次は口と口だね、みーくん。」
まるで予言のように断定的な口調で彼女はつぶやいた。
⁂
「何この惨状は……。」
「
「あ、宮下さんと
「こんばんは……。おい、
詰問してくる先輩を止めるように彼女の目の前に俺は3本の指を立てる。
「なに、3?」
「カクテル3杯でこうなりました。すいません……監督不行き届きです。」
「そんあアホな……。」
先輩は絶句して固まってしまった。
「先輩何飲みますかー?店長はビール?」
「あ、私は生ビール。」
店長は俺の横にそっと座りワイシャツのボタンを緩め始める。
「店長!しれっとこの空気になじまないで下さいよー。湊、おーい。」
先輩のツッコミも無視して
「あ、店員さん注文お願いしまーす。」
湊の掛け声を合図に飲み会の第2部の始まり。もうどこまでも転がって行けばいいさ。
⁂
あの後、もう少しマシになるかと少しだけ期待していたけれども、やはりどうにもならなかった。湊は沙羅のことを相変わらず聞いてくるし、先輩も吹っ切れて悪ノリして店長の最近振られた彼女の話を聞きはじめてしまうし、それに店長の後悔というか未練話も止まらないし。きっと俺達は夏の魔物にやられてしまったのだろう。
そうして気がついたら湊は壁に持たれたまま寝てしまった。さすがにそこまで来たら今日はお開きになった。
「おい、湊―。」
「んー?」
湊を送るのを先輩に手伝って貰う予定だったけれども、先輩も酔っ払っていたので頼めなかった。なにより落ち込んだ店長を励ます仕事がまだ先輩にはあった。そんな事を聞き出し始めたのは先輩なので自分で責任は取って貰いたい。
湊の肩を支えながら家までの道を歩く。背は俺とそこまで変わらないけれども、女の子らしく華奢な身体だった。
「鍵、出して良いのか?歩けるか?」
「鍵、うーん。はい。」
俺の心配に対して何事もないように、彼女はポケットからマンションの入り口鍵を取り出す。
「4階だよな?ていうか俺入って良いのか?」
「いいんじゃないー。男連れ込んでる子なんていくらでもいるわよ。」
眠そうな声のまま投げやりに彼女は言う。入り口からエレベータに乗り込んで上に上がる。肩を貸して廊下をふらふらとしながら彼女の家の前まで歩いていく。
「ほら、湊。開いたよ。」
解錠して扉を開ける。さすがにここまでくれば大丈夫だろう。
「んー。ありがとう。」
暑い夜の中ようやくここまでたどり着いた。もう彼女には次からは1杯しか飲ませないと固く決めた。凝り固まったぐっと肩を伸ばす。
「またな。」
「湊―。頑張ってね。普通よりもいっぱい養えるようにいっぱい稼ぐんだよ。」
別れ際に何故か彼女は不思議なことを言ってくる。まだ酔が覚めきっていないのだろうか?
「ああ?まあ、そりゃ稼げるといいな。ちゃんと水まだ飲んでおけよ。」
「分かってる。またね。」
彼女は最後にはしっかりとした口調に戻って家の中へ消えていった。今日は本当に良くわからない日だな……。
⁂
「はぁ……。飲みすぎたー。」
ベッドに身を放り投げて天井を見つめる。自分があそこまでアルコールに弱いなんて思ってもみなかった。御波にも白波先輩にも店長にもまた謝らないと。
「まあ、最後の方はちゃんと覚えているけどね。」
御波をあそこまで振り回したのは始めてだ。きっとサラちゃん達と付き合う彼と二人だけでお酒を飲むのはもうあまり出来ないだろう。
だから、ちょっとだけワガママするだけのつもりだったけれど、思ったよりも迷惑を掛けてしまった。
「あー楽しかったな。ふふ。」
でも、いい思い出になったと思う。この歳で服を着替えもしないで、カバンを投げ捨てて、ベッドに身を任せるなんて久しぶりだ。
何事も経験だなと、月並みな事を思いながら眠りに落ちていった。
【8/31 午後8時 @三崎家】
昨晩の沙羅とデート計画立案は頓挫してしまったけれども、今日の朝から公式サイトの情報、個人ブログ、長期天気予報など多方面からの情報収集を経て整理した結果固まりつつあった。今日、沙羅に草案を打診してみて感触を伺って修正を加えたらひとまず一段落だ。
話しかけるときは3ヶ月前からずっと進歩はなくて、ぐっと胸が握られたように緊張してしまう。
“サラ、今日通話できる?”
文字にすると10文字もないくらい。たったこれだけを送るだけでいつまで緊張しているんだろうか。今どきの少女漫画でてくるような乙女でもここまで分かりやすく胸を高鳴らせないだろう。
送ってから何分か既読が付かないか気になって意味もなく立ち上がってみたり、トイレに行ってみたり。まったく何をしているのだろうか。
「次は口と口だね、みーくん。」
急に頭の中で昨晩の湊の声が蘇る。キスというか……告白ちゃんとしないと。でも、その後のことは何も分からない。第一まだ彼女が付き合ってくれるのか不安になる気持ちがまだ残っている。あれだけアプローチされているの、自信がない自分がそろそろ嫌になる。
いくら考えたって堂々巡りの繰り返し。多分送ってから5分も経っていないくらいに沙羅から返事が帰ってきた。通知がポップアップした瞬間にスマホを手に取る。
“うん、何時でもいいよ!”
“今からでもいい?”
その質問に返事はない代わりに彼女から通話が掛かってくる。
「みーくん。こんばんはー!」
「サラ、こんばんはー。」
「みーくんから声かけてくれて嬉しいなー。」
「そんなに俺から声かけるのはなかったっけ?」
「んー。どうだろう。数えたことはないけれど、嬉しいことは確かかなー。」
優しげな声音に包まれた確信をもった返事。丁度欲しい言葉を送ってくれる。
「俺もサラから声掛けられたら嬉しいよ。」
「えへへー。じゃあどっちから声かけたら良いのかなー。困っちゃうね。」
「なら同時にできるといいね。」
「ふふ、そうだねー。同時とか一緒がいいね。」
彼女との時間をもっと共有していきたいというエゴがどうしても出てしまいそうになる。今日もその誘いをするのだけれど、上手くバランスを取っていきたい。
「高校始まるのはいつから?」
「夏期講習とかはもう始まっているけど、2学期の始業式は7日だよ―。」
「そっか、そうだよなー。」
思い返せばたしかに8月の終わりからすでに自習や講習の時間が取られていた気がする。
「みーくんは風邪、ぶり返したりしてない?」
「大丈夫だよ。サラの作ってくれたご飯のおかげで。」
「お母さんから教えてもらった秘密の隠しスパイスが入ってるからね。えへへ、よかったー。」
「秘密の隠し味?」
「そうなの、家族の秘密。みーくんにも秘密。」
「気になるなあ。また食べたいし。」
「風邪はひいちゃダメだよ。でもまたみーくんの看病するのは別にいいよ。」
「倒れたりはもうしないよ。――俺もサラの寝顔また見たいかもな。」
「あー、ダメだよ。写真撮ったりしてないよね?」
「して……ないよ?」
「えー。本当?ダメだよ?」
撮っておけばよかったと後悔したけれども、今の反応が聞けただけでも十分かもしれない。
「わかったよ。大丈夫、撮ってないから。」
「んーならいいやー。みーくんなら見るだけならいいよ?」
沙羅は天使みたいな声で悪魔みたいな囁きをしてくる。
「じゃあ、また見せてもらおうかな。」
「結構乗り気でこられちゃった……。本当はちょっと恥ずかしいからね。」
少しだけ困ったような声を出すけれども、その声の芯は笑ってくれている。まるで頭の中に直接話しかけられているようにくすぐったい。俺も恥ずかしくなってきたので話題を切り替える。
「あの、約束通り、再来週の週末とかもしも空いてたら……サラと出かけたいな。予定ある?」
「遊園地いくの?」
「ああ、そのつもり。」
「いつかなーってずっと待ってたんだよー?だからもちろん、大丈夫!」
楽しみにしてくれていたのがとても嬉しい。
「じゃあ、ちょっとだけ遠いけど、富士の方までいける?」
「うん。みーくんとなら、どこへでもいいよ。」
その言葉にいつか見た飛行機で隣に座る彼女を思い出した。俺も何処へでもいいい。
「じゃあ、車とかの方がいいかな?」
「あれ、みーくん、車持ってるの?」
「いやいや持ってないよ。親に借りるかレンタカーだけれど。」
「んー。電車とかで行けないのかな?」
「行けなくはないよ。ああ、もしかして車苦手?」
実は酔いやすい体質だったりするのかもしれない。
「ううん。みーくんとお喋りしながら行きたいし、みーくんにだけ運転してもらうのもちょっとどうかなって。」
そんなことまで気遣ってくれるとはこれぽっちも思ってもみなかった。
「そう言ってくれるのなら、じゃあ電車にしようか。」
「ドライブもいつか連れて行ってね。私も免許とらないと!」
車を走らせるのならやっぱり海辺がいいだろうか、彼女を乗せていたらきっと雨であっても楽しいに違いない。
「じゃあ、それはまた今度だね。」
「うん。それも約束ね。楽しみにしてる。」
彼女との約束が増えていく。約束が果たされると思い出が増えていく。積み重なっていくそれにしっかりとした幸せを感じる。
【間章 9/1 午後8時 @梅ヶ谷家】
「みーくんとお出かけするまで結構間あるよねー。」
「うんー、多分私達のこと気を使ってくれたのかなー。」
私達は一緒に課題を解きながら雑談をしている。
「再来週だとこの暑さも収まってるかなー?」
「そうなるってたしか天気予報で言ってたよ。」
ああ、きっとみーくんはそう思ってくれたんだろうな。そんなことまで気を使わなくてくれてももう大好きなのに。
「じゃあ秋服に変えないと。」
「お母さんに服買いすぎってこの前怒られたけど……。」
「お父さんにおねだりしてみる?」
「買ってくれる気がするけど、お母さんにあとでお父さんが怒られそう。」
「だよねー。まあ去年のやつで我慢我慢。」
「じゃあ、あえて制服とか!」
「制服がアトラクションで濡れたりしたらまたそれはそれで怒られそう……。」
「スカートよりもズボンとか動きやすい格好の方が良いかな?」
「あー。そうだよね。悩ましい……。」
みーくんがどんな格好が好きだろう。でも藍沙さんの格好とかをみると結構甘めな格好も好きそう。湊さんの格好をみると大人な感じが好きそう。
そんな話をしていたら一通のメッセージが来た。
「あれ、湊さんからだ。」
「んー?珍しいね。みーくん絡み?」
「なんだろう。通話したいって。」
「どうしよう、あーちゃん出る?」
「分かった。じゃあ話してみるね。」
みーくんからかなって少しだけ期待したけれども違った。でも、湊さんから電話なんて珍しい。返信をしてからしばらくして着信が来た。
「はい、もしもし?」
「サラちゃん、ごめんね邪魔して。」
「いいえ。勉強ばっかりで疲れてたので、えへへちょっと休憩です。」
「根を詰めすぎないようにね。でも、あまり休憩の邪魔しても悪いから……。」
湊さんが珍しく少しだけ歯切れが悪い気がする。
「サラちゃんは御波のこと好きよね。」
「え、うん。はい、好きです。」
いまさら隠せることでもないしちょっと恥ずかしいけれどもはっきり伝える。
「御波と付き合いたい?ごめんね変なこと聞いて。」
「はい、みーくんが良ければ、その恋人になりたい……です。」
横にいたさーちゃんがこちらの会話が気になったのか聞き耳を立てている。
「それならよかった。御波もきっとあなた達の事が好きよ。応援するわ。」
「え、そうですか?えへへ、はい。ありがとうございます。……え、あれ?」
「今私と話してくれてるのは、沙羅ちゃん?それとももう一人?」
「え……。」
あれ、バレてる。どうしてだろう。湊さんに見られたのだろうか。
「大丈夫よ。私もあなた達が大好きよ。御波を傷つけるわけじゃないのでしょう?だったら応援するわ。」
「えへへ。湊さんはやっぱりすごい――。私は愛です。」
「え、あーちゃん!?」
さーちゃんが私の発言にびっくりして大きい声を上げてしまう。
「ごめん、さーちゃん。湊さんにバレちゃった。」
イヤホンからスピーカーに切り替えてさーちゃんにも湊さんの声を聞いてもらう。
「本当に二人いたのね。すごい、マジックみたい。大丈夫、御波はまだ気がついてないから。」
「えへへ、はい……。」
さーちゃんが諦めたように声を出す。
「二人とも御波と付き合いたい?」
湊さんはさっきの質問をもう一度繰り返す。
「「私達二人ともみーくんの事が大好きで、みーくんが良ければ一緒に3人で恋人になりたいです。」」
しっかりと声に出して自分たちの想いを再確認する。
「あはは、まるで一人みたい。ほんと、御波は変わった女の子にモテるわね。」
電話越しの湊さんは前までみたいにボイスチェンジャーをつかっていないので綺麗な女性の声。ふっとついたため息のようについた感想はずっとみーくんを見てきた積み重ねを感じる。それはちょっとだけ羨ましい。
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