第16話「幸せ過ぎるってこわい」


それから、お風呂から上がった後も、甲斐甲斐しく面倒を見てくれて。

服までしっかり着せてもらいました。

移動はもちろん、お姫様抱っこ。

ソファで向き合って、髪まで拭いてくれる。

小さい子供に戻った気分。


「パパーお腹空いたねー。」

「どうした?突然、うやまって。」


い、いかん。

軽はずみに言っちゃならんな。


「あ、ノリで。」

「のり?」

「ご飯食べて準備しなきゃだね。」

「そうだな。アカネは休みだと伝えておく。」

「え?何で?」

「歩けないだろう?」


…んな馬鹿な。

今の所、ちょっと腰に違和感あるくらいだぞ。

ダニーの拭く手を止めて、立ち上がってみる。

…特に問題ないんじゃない?

どやぁ。

ダニーは心配そうに、私を支えようと立ち上がるけど。

そこまで、子供じゃないわよ。


「…ったぁ!」

「ほら。無理はするな。」


ぐぬぬっ!

歩くと、びっくりするくらい、腰が痛い。

やりすぎると腰が痛くなるって、都市伝説じゃないの?

……そっか、都市伝説じゃない存在が、目の前にいたわ。


「俺が、運んでも良いんだが。」

「さすがにそれは、無理。」

「…だろう?」


わかりやすくガッカリしてるな。

でも、さすがにお姫様抱っこで出勤は、ない。


「今日は、ゆっくりすると良い。昨日の祭りで、疲れただろうし。」


スリスリと、頬を撫でてくれる。

出来た旦那ですな。


「ありがとう。今日は、そうする。」

「あぁ。」



お互いの髪を乾かし終えたと同時に、ノックの音が。


「………。」

「(失礼しても、よろしいですか?)」


扉で声がくぐもってるけど、多分、セブスさん。

ノックが初めて、ちゃんと使われた瞬間だなぁ。

ダニーも目を見開いている。おい。


「………。」

「…ダニー、答えなくて良いの?」

「あ、あぁ。そうだな。入れ。」


動揺してる。

可愛いけれども。


「ご朝食をお持ちしました。」

「あ、あぁ。助かる…。」

「ありがとうございますー。」


お腹空いてたのよー。

セブスさんを先頭に、メイドさん達が次々と運んでくる。

いつもより、豪勢な気がするけど、気のせいよね。

洋食メニューに合わない、赤飯らしきものが、中央を陣取ってるけど。

…日本の赤飯と、同じ意味じゃなかろうな。


「まずは、祝飯しゅくはんを、ぜひ。」

「しゅくはん?」

「はい。ご夫婦になられたお二人で食べさせあう、お祝いの料理です。」

「へぇ。そんなものが。」

「はい。ご夫婦が、ずっと一緒に過ごせるよう健康を願う、縁起物でもあります。」

「ほう。」


もう周知の仲ってことで、お祝いモードですな。


…………?

なぜか、運んできた人達全員が、じっとこっちを見て動かない。


「……ありがとうございました?」


笑顔で頷くだけで、去る様子はない。

いつも、こんなガン見されることないのに。


「あ、皆さんも?」

「私共は、終えております。」


違うか。


「えっと、その、」

「多分、俺達が祝飯を食べないと、出て行かないだろうな…。」


正解です!

って顔で皆が頷いてる。

もう、言えば良いのに。


「えっと、じゃあ、」

「ほら、アカネ。」


ダニーがさっと、スプーンに米を乗せた。

心の準備がっ。

…て、さすがに一口大きくない?


「ん、ぐあぅ。」


手で押し込んで、どうにか収める。

嫌がらせか…?


「あ、すまん。こういうのは、多い方が良いかと、思ってだな。」


もぐもぐ。

ダニーが言い訳してるけど、話したくても話せないわ。

…まぁ、良いわ。お返ししなければ。


「…アカネ。俺を窒息させる気か?」


い~え。

ダニーには、元気でいて欲しいから。

いたずら心とかでは、決してない。

ほら、あ~ん。


「ぐっ。ぐぅ。」


必死に手で押さえながら、食べてる。

うふふ。可愛いなぁ。


皆、嬉しそうにガン見してくれたわ。

ジェシーさんは、こっちを見ながら必死に何か書いてる。

狂気じみてて怖いな。


「おめでとうございます!旦那様!奥様!」

「おめでとうございます!」


こんなに祝われると、ものすごく嬉しいね。

皆が、この結婚を望んでくれてたみたいで。

昨日の、私の痴態とか、筒抜けだろうけど。

そこさえ、目をつぶれば、素直に嬉しいもんね。


いつの間にか全員が、喜びからか、歌い踊り始めた。

ダニーは、そっと目をそらして、見なかったことにしたみたい。

私と目が合って、ニコっとしてくれた。

幸せ過ぎて怖いって、本当なのねぇ。

歌い踊ったらスッキリしたのか、全員さっさとはけて行った。

そういう行動は早いな。



ご飯を食べ終えると、準備をして、私をベッドに運んでくれた。


「行ってくる。ゆっくり休めよ。」


ちゅっと頬にキスをして、名残惜しそうに出勤していく。

最初の頃からは想像できないくらい、柔らかい笑顔だったわぁ。

スマホがあればなぁ。連写したのに。




それから、ひと眠りして。

昼食の時間になったのか、イザベラさんが食事を運んでくれた。

まだ大事を取って動かないでほしいとの事で、お行儀が悪いけど、ベッドで食べることに。


「ありがとうございます。」

「いいえ。体調はいかがですか?」

「だいぶ、スッキリしました。」


寝たら、もう気持ちはピンピンですわ。


「そうですか。安心しました。これからは、体力をつけないとですね。」


………なぜ?

まさか、ダニーの元気さに、一晩中付き合えと?

それはもう、超人の域でっせ。


「あの、ちょっと、質問なんですが。」

「何でしょう?」

「ダニーの嫁って、何か特別なお仕事とか、あるんですかね?」


このお屋敷の管理とかさ。

お屋敷を管理するのが、嫁に来た女の仕事になるのでは?

…物語からの知恵ですが。


「いえ。特には。」

「へ?えっと、このお屋敷の、管理を任される、とか。」

「セブスがおりますので。お屋敷の管理は、使用人一同の仕事です。」


そっか。


「じゃあ、私がやらなきゃいけない仕事って、特にないって事ですかね?」

「そうですね。…あ。」

「ん?何かあるんですか?」

「旦那様のお相手を。」


ニンマリ。


………お屋敷内では、特に仕事はない、と。

そうなると、今日はどうしよう。

アロマ関係も、ベッドの上じゃやりづらいしなぁ。

今日は暇かぁ。それはそれで、つらいなぁ。


「何か、ベッドの上で、やれることをお探しですか?」

「イエス!」


よくお分かりで。


「では、お裁縫は、いかがですか?」

「おさいほう…。」


確かに、出来るな。

だったら、香り袋作ろうかな。

あ、布使い切ったんだった…。


「布が…。」

「香り袋ではなく、手ぬぐいをお作りになられてはいかがでしょう?」

「手ぬぐい?」

「えぇ。ご夫婦向けの、おまじないがあるんです。」


好きだなぁ、おまじない。


「どんなのですか?」

「奥様が着ていた服を、手ぬぐいにするんです。願いを込めて刺繍をして、旦那様に身に着けてもらう。そうすると、願いが叶うと言われています。」

「へぇ。願いって、何でも良いんですか?」


金儲けでも?


「お二人に関係のあることでしたら。」


私のビジネス成功って願いは、難しいかしら。


「一般的には、夫が怪我をしないように、無事に帰るように、という夫への願いが多いですね。」

「あ、そうですか。」


いかん、いやしいぞ、私。


「…着てた服かぁ。…あ!」


ジャージ!

出会った時に着てたし、もう着ないから、良いかも。



ジャージを切って、ハンカチサイズに。

刺繍は自由にって言われたけど。

うぅんぬ。悩む。

お洒落な模様なんて、縫えないし。思いつきそうもないわ。

うぅんぬぅ。

…あ、ひらめいた。

日本語にしよう。

こっちの人が読めないから、願い事書いてもバレない。

言葉の方が、願いが叶いやすそうだし。


チクチク。

意外と文字って、大変かも。

でも、楽しい。

何とか、文章になって来たな。


チクチク。


「…できた!」


我ながら、良い出来かも。

文字が綺麗に縫えてるわ。


浮気禁止。

したら苦しむ。

よそ見せずに帰宅せよ。


よし。おけ。


「おや。完成されましたか?」

「あ、セブスさん。はい。我ながら、上出来かと。」

「ほう。何をお願いされたのですか?」

「それは、…無事に、帰ってくるようにって。」

「それは、良い願い事ですな。」


うん。間違った事は、言ってない。




ダニーが夕方早くに帰宅した。

夕食中もソワソワしてて、何か、様子がおかしい。

部屋に戻ってきても、突っ立ったままだ。

…まさか。もう、浮気したか?


「アカネ。」

「うん。」

「明日から、遠征に行くことになった。」

「…は?」


どゆこと?


「ダズーニ皇国との戦況が、思わしくない。」

「それって、国境が危ないって、ことだよね?」

「…あぁ。王国騎士団も、出陣することになった。」

「ダニーも、行くって、こと?」

「あぁ。急だが、明朝、立つ。」

「え、急、だね。」

「多分、一カ月程、家を空ける。」

「え、そんなに長く?」

「国境まで遠いからな。…もしかしたら、それより、伸びるかもしれない。」

「え…。」


そんだけ、状況が悪いんだ。

そんな所に、ダニーは行くの…?


「…嫌だって、言ったら?」

「…アカネ。」

「ううん。何でもない。」


困らせるだけだ。

行かないで欲しいって泣いたって。

現に、ダニーは苦しそうな顔をした。

過酷な場所に行く人に、気を使わせちゃ、駄目だ。


「気を付けてね。…あ、これ。」


ハンカチを渡す。


「これは、まじないか?」

「うん。無事に帰って来れるようにって。」


意味はちょっと違うけど。


「ありがとう。大事にする。」


ダニーは、本当に嬉しそうに、ハンカチを眺める。

文字が読めなくて、良かった。



一緒にお風呂に入って、ベッドに入る。

正直、不安で。

ダニーに抱いて欲しいけど。

明日から旅立つ人に、疲れさせちゃ、駄目だよね…。


「アカネ。」

「…ん?」

「…抱いてもいいか?」


はい!喜んで!


「アカネの、温度を、感じたいんだ。」

「うん。私も。」


優しく、触れてくる唇。

出会った時はずっと、ムって顔してたから、こんなに柔らかいなんて知らなかった。

この、一カ月半くらいの間に、かなり変化したなぁ。

それと同じくらいの時間、離れなきゃいけないのか。

…やだな。


「ダニー。」

「ん?」

「ダニー。」

「アカネ。」

「ダニー。」

「…どうした?」


ダニーが、胸に進めていた顔を上げた。

不安で、涙が出てきちゃった。


「お願い、ぎゅってして。」

「あぁ。」


この温もりを、当分感じられないのか。


「ダニー。愛してる。」

「あぁ。俺も、愛してる。」


深いキス。

ダニー、キスうまいな。

む。過去の経験か?


「…アカネ。何が、不満だ?」

「だって、キス、うまいんだもん。」

「きす?」

「…ちゅー?」

「あぁ。昨日、アカネがこうしたから。好きなのかと思ったが、違うか?」


私か。私との経験でしたか。


「…接吻は、アカネとが初めてで。」

「なんですと?」


マジか。

ダニーの初キス奪ったのか。

記憶がうろ覚えだわ。くそぅ。


「良くなかったか?」

「ううん。かなり、良い。…過去の女に教わったのかって、嫉妬した。」

「ふっ。そうか。」


また、深いキス。

気持ちいい。


ダニーの手が、胸に辿り着いて。

それを追うように、ダニーの顔も、胸に。

温かい。気持ちいい。


「あっ。んぅ。」


声が、我慢出来ない。

恥ずかしいのに。

こっちを見ながら、胸を舐めてる。

視覚で、感じちゃうわ。


「んっんぅ!」

「我慢するな。」


ダニーが戻ってきて。

私の唇を舐める。

そのまま、口を開いたら。

ゆっくりと舌が入って来た。

気持ちいい。満たされる。


「あぁん、ふぅ。ん!」


ダニーの手が、あそこに。

キスをしながら、こっちをじっと見てる。

恥ずかしい…。


「んっあ、はぁ。」

「唇、噛むなよ。」


ゆっくりと、下がっていく。

証にキスをして。

私の股の間に。

そのまま、顔を。


「やっ。汚いっ。」

「昨日もした。汚くなかった。」


はず。

私がかぁっとなっているうちに。

ダニーの舌の感触がする。


「あっ。いぁ、はぁんっ。」


蜜を溢れさせるように、じっくりとほぐしていく。

優しすぎて。

それに、きゅんきゅんしちゃって。

何度か、小さくイってしまう。

その度に、ダニーが嬉しそうな目を、こっちに向ける。

もう。子供みたい。


「うっ。ふぅ、だにー、もうっ。」


入れて。


「あぁ。」


あたる、熱い、感触。

私を見つめながら。

確認するように、ゆっくりと入ってくる。

うそ。まって。


「っんあぁう!」


チカチカ。まっしろ。


「アカネ。」

「んぅ!」


イッたのに。

キスしながら、まだ奥へ。


「んぁっはぅん!」

「っ、アカネ。」


唇を合わせながら、私の名前を呼ぶ。

もう、奥に届いてる。

ずっと、チカチカする。


「感じ過ぎだ。」

「んぁ、だって…。」


今、感じなきゃ。

当分、ダニーを感じられないんだから。


「かわいい。」

「はぅ。あ、だにー。」

「ん。」


深いキス。

私の思ってること、本当によくわかるなぁ。


「んんっ。」


ダニーが、奥深くを小さく揺する。

あぁ。イッちゃう。


「ふぅっん!」

「かわいい。アカネ。」


びくびくが収まるのを見計らって。

動き出した。

ゆっくりと、でも、確実に。


「あ、あぅ、だ、にー。」

「アカネ。気持ちいい?」

「う、んふぅ!」

「良かった。」


嬉しそうに、キスする。

もう、その顔で、満たされる。


「あ、だにー。」

「ん?」


ダニーに掴まって、起き上がる。

そのまま、ダニーだけを倒す。


「あっ、んぅ。」

「アカネ?」

「私も、っ、ダニーを、あっ、気持ちよくする。」


ゆっくりと、動く。

感じ過ぎて、速く動けない。

ダニーを見ると。

優しい目でこっち見てた。

むぅ。余裕そうだな。

頑張る。


「んっ!んぁ!あん!」

「アカネっ。」


あっ。まっしろ。

ダニーの顔がうっすら見える。

余裕、なさそう。


「やっ。まっ!あぅん!いっ!」

「アカネが、煽ったんだろっ。」


ガツガツって、下から動かれると。

奥。ふかいっ。

またっ!


「あぁんぅ!」

「アカネっ。」


チカチカして、ビクビクする。

中、熱い。

まだ、奥にいる。


ダニーが起き上がって、キスしてくれる。

気持ちいい。

まだ、中。


「アカネ。」

「あっ、だにーっ。」


抱きしめて、向かい合って。

奥をノックする。

もう、ずっと、イってる。


「アカネを、孕ませるのは、俺だ。」

「んっんぅ?」

「だから、必ず、帰ってくる。」

「ぅ、ぅんっ。」

「待っててくれ。」

「ぁ、うんっ。まっ、てる。」


泣きそう。

もう、泣いてるのか。

ダニーがずっと、頬を撫でてくれてる。


「はやく、帰って、きてね。」

「あぁ。」

「待ちくたびれたら、何するか、分かんないから。」

「ふっ。怖いな。」

「だったら、はやく。」

「あぁ。すぐに帰ってくる。アカネも、無理はしないでくれ。」

「うん。無理、しない。」


ぎゅって抱き合う。

この体温を、忘れないうちに。

はやく帰ってきてね。


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