第14話「そーれそれそれ。」
『ママー!朝だよ!』
「………。」
ダニーに優しく起こされることを、期待してたんだけどな。
ぴーちゃんに伸し掛かられて、悪夢にうなされながら起きた。
昨夜の余韻を味わわせてくれよぅ。我が子よ。
「起きたか?」
『パパ!ぼくが、ママをおこしたんだよ?』
「そうか、偉いな。」
頭を撫でられてご機嫌だな、ぴーちゃん。
本当に、親子のようだわ。
「朝食を持ってきた。ここで食べよう。」
「わぁ、ありがとう。」
至れり尽くせりだなぁ。
ごそごそとベッドから
サンドイッチだ、美味しそう。
「今日は、私は、仕事なんだが。」
「はい。知ってます。」
今日は感覚で言えば土曜日。
私はお休みだけれど、ダニーはお仕事って言ってた。
「アカネは、どうする?」
「ん?…商品の制作に
「…そうだな。」
なんだ、歯切れが悪いな。
…浮気か?
「何か疑っているようだが、違うと思う。」
わーい、サイコメトラー。
あ、触れてないから、違うか。えっと。
「私としては、今週も、家で仕事を出来ればと思ったのだが。今日は、祭りの警備についての会議があるので、王城に行かねばならない。」
「はぁ。」
目と鼻の先ですけど。
「アカネも、一緒に。」
「わかりました。」
まぁ、そうですよね。
ダニーは護衛って言うし。
離れない方が良いんだろうな。
あ、荷物を詰める袋を、
「お待ちください。」
堂々と、ノックもせずに扉を開けたのは、イザベラさん。
ここ、主人の部屋だよね。
「それでは、我々がお手伝いできません。」
イザベラさんの入室と共に、2人のメイドさんが並んで入って来た。
ミュージカルが始まりそうな
「それは、」
「それに。このお屋敷内の方が安全ではありませんか。」
「だが、」
「アカネ様に無理をさせないためにも私共の協力が必要でしょう。」
「……。」
「アカネ様は我々にお任せくださいませ。たかが一日でしょうに。」
「…っ。」
「アカネ様。」
「うぇい。」
油断してた。
「働かない男性はお好きですか?」
「嫌いです。」
私の一言が決め手になったかは分からないけど。
何度も振り返りつつ出勤していくダニーを見送る。
「何も、一生の別れではありませんのに。大げさですな。」
「本当に。独占欲の塊なんですから、まったく。」
セブスさんとイザベラさんが、手をシッシッと振りながら文句を
主従関係が
「あれで、恋愛感情かわからないなんて、よく言ったものですな。」
「本当にねぇ。あれだけマーキングしといて分からないなんて、鈍感も聞いてあきれます。」
ダニー、あんた動物に成り下がったよ。
「アカネ様もそう思いませんか?」
「へ?」
「この屋敷の
そりゃあ、すごい。
「その屋敷から、わざわざ手元に置きたくて、アカネ様を連れ出そうとするのです。」
「…はぁ。」
「それが、愛する人を離したくない独占欲だと、なぜ気づかないのか。」
私に言われましても。
「
うん、セブスさん。
あなたたちのミュージカルが、ダニーに悪影響を与えているのは確かよ。
「まぁ。アカネ様への感情が、愛しさからくるものだと、気づけば良いのですが。」
そうですね。そうなればうれしいです。
あと、何で、恋愛感情うんぬんの話を、御存じなんですか?
それから、イザベラさんをはじめとした、リリーさん、ジェシーさん、のメイド三人衆のお手伝いのおかげで、午前中に袋を作り終えた。
速いのなんのって。
ダニーのダメンズぶりを熱く語らいながらも、手元は休まず。
黙々と作業してた私の半分以下の時間で、私よりもクオリティが高い。
何なら、ぴーちゃんの遊び相手をしながらだったのに。くそぅ。
悲しくなってきたわ。
お昼を挟んで、作業再開。
このメイド三人衆は、今日は私のお手伝い専門みたいだ。
「これを、袋に入れて、口を留めればよろしいのですか?」
「そうです。よろしくです。」
皆、速いし丁寧だから。思ったよりも早く納品出来そうだなぁ。
「そう言えば。アカネ様は、アトラス祭のまじないをご存じですか?」
「まじない?」
「はい。アトラス祭の日に、愛を確かめ合った恋人達は、末永く結ばれるという。」
「へぇ~。そんなのあるんですねぇ。」
やっぱ、どこの世界にもあるもんなのねぇ。
「迷信だとしても、盛り上がるのは確実です。」
「そうですね。」
「あの、恋愛に
「…はぁ。」
「明日、旦那様は日中警備のご予定です。」
…その情報、どこから?
「ですから、夜。一緒に出店巡りをして、いちゃいちゃしてから、お戻りくださいませ。」
「え?」
「アカネ様も、明日はシェラー様のところでお店番でしょう?」
私も知らない私の予定が明かされたな。
「…そうなの?」
「はい。旦那様は、自分がお仕事の間、シェラー様にアカネ様をお任せするつもりです。」
「あそこでしたら、警備面も問題なく、お祭り気分も味わえますから。」
「もちろん、私共も。陰ながらお守りいたしますので、ご安心を。」
……。
今まで、陰ながらストーキングしてたのね。
「私共は、特別な訓練を受けておりますので。」
「そこらへんの騎士なんかには、負けませんよ。」
ちょいちょい、国を見下すね。このお屋敷の人達。
「このお屋敷に勤めるには、特別な訓練を受けないといけないんですか?」
「そうです。」
即答したな。
…理由は聞かないでおこう…。
「はい。これで終わりですね。」
「わぁ。予定よりもだいぶ早く終わりました!本当にありがとうございます!」
「いいえ。お力になれて、光栄です。」
女子会楽しかったですって笑ってるけど。
ほぼ、上司の悪口だったね。主に、ダニー。
「じゃあ、納品に行こうかな。」
「少々お待ちくださいませ。」
「え?」
「あと数分で、旦那様がお戻りになりますので。」
「はぁ。」
こんな時間に、帰ってくるのかなぁ。
……。
………ん?
玄関が騒がしいな。
「戻った。変わりないか?」
「…特には。」
帰って来たダニーの後ろで、ニヤニヤしてるメイド三人衆。
あんたら一体、何者よ。
戻って来たダニーと一緒に、シェラーさんのお店に納品に。
その時に、ダニーがさり気なく、明日、私をシェラーさんに預けたいと申し出た。
シェラーさんが、自分の商品は自分で売るべきねと、私に店番を
そして、帰り路なう。
……。
未来日記読んできた気分だわ。
「…どうした?」
「いえ、お宅のメイドさんは、素晴らしいスキルをお持ちで。」
「めい…?すきる?」
「まぁ、気にしなさんな。」
「………。」
「あ、ダニーは明日、日中にお仕事でしょ?」
「…なぜ、知っている?」
情報源。あんたんとこの、メイドさんやで。
翌朝。早い時間に、ダニーに叩き起こされた。
自分は、仕事に行くから。気を付けていくように、と。
眠け
時間はあるから、もう少し寝てると良いと言われた。
なら、寝かしといてくれや。
うとつきながら、ダニーに手を振って二度寝を。
と思ったら、お祭りにはしゃぐぴーちゃんに叩き起こされた。
何やねん。まだお店開いてへんで。あんちゃん。
『ママー!ねぼけてないで、じゅんびして!もうじかんだよ!』
「…へ?…まだ、時間あるでしょ…?」
「ありません。」
ガバっと布団を取られ、何事かと思っていたら。
イザベラさんが、ニコっと立っていた。
床に転がっているのは、ぴーちゃんかな?
「今日は、決戦日です。入念な準備を。」
それから、お風呂に入って、タオルで拭いているところに入って来たと思ったら。
全身
ダニーの瞳と同じ色の、オフショルダー型のワンピースを着せられ。
もちろん。胸を、これでもかと寄せ集められた状態で。
そんでもって、顔にしっかりと化粧をされ。
髪もアップに編み込み。
頭から全身、ダニーの香水を吹きかけられた。
…何かのお
「これで、準備はよろしいかと。」
「はぁ。」
「あ、忘れるところでした。」
ふわっと、ショールを肩にかけてくれた。
これも、ダニー
「旦那様の前以外では、こちらを
「…はぁ。」
「いざ、参りましょう。」
「………。」
もう既に、やり切りました。
ぴーちゃんを抱え、メイド三人衆に囲まれて、シェラーさんのお店前に行くと。
そこには、昨日まではなかった、立派なテントが張られていた。
「わぁ。すごい!」
「あら、アカネ様。今日はよろしくお願いいたします。」
「はい!よろしくお願いします!」
何か、いつもと違う空気に、ワクワクしてきた。
通りの他のお店前にも、次々とテントが立っていく。
お祭り前の高揚感。楽しい!
「アカネ様の商品は、こちらに。ここで、商売なさってくださいませ。」
『わー。すごーい。』
テントの端っこの簡易机に、昨日納品したアロマ石鹸と、香り袋が並べてあった。
「わぁ。並べてくれたんですね。ありがとうございます。」
「いいえ。何か必要なものがありましたら、お声かけください。」
「あ、ポップとか、書いても良いですか?」
「ぽっぷ?」
「あ、えっと、商品の名前とか、説明を書いた紙を、台に貼るんです。」
「へぇ。面白そうですわね。」
さっと紙といくつかの色のペンを用意してくれた。
こういうの、昔やってたバイト以来だなぁ。
楽しい。商品の絵もうまく描けてる気がする。
「あら、アカネ様。」
「はい?」
「それ、何て読みますの?」
いかん。うかつだった。
そういや、文字違うんだったわ。
近くでうろついてたメイド三人衆を集め、ポップレクチャーをする。
見やすく、読みやすく。でも、遊び心も大事に。
私の、まるく描いた文字や数字をお手本に、値段やら、商品説明を書いてもらう。
騒ぐぴーちゃんは、イザベラさんに預けた。
「あら、面白いですわね。」
「こういうのって、書かないんですか?」
「そうですわね。商品は、店員が説明するものですから。」
まぁ、そっか。
しっかりしてるお店だからこそ、接客を重視してるんだろうなぁ。
「ふふっ。良い宣伝になりますわね。」
リリーさんが書いたポップを見て、笑ってる。
おい、何を書いた。
メイド三人衆はニヤニヤするだけ。
どう頑張っても読めないので、読むのは諦めて商品の近くに飾っていく。
屋台感が出てきた!楽しい。むふふ。
「よし、頑張るぞー!」
振り返ったら、誰もいない。なんなら、ぴーちゃんも。
いつの間にか隠れたな、メイド三人衆。
そこから、ポップを目にとめた人が立ち止まって読むようになり。
そのまま、一度こっちを見て、商品を見る。
…本当に、そのポップには何が書かれているんだろう。
でも、立ち止まってくれたらこっちのもの。
匂いを嗅いでもらって、商品の使い方例をいくつか挙げる。
やっぱり、女性の食いつきは良い。
お値段も、冒険者のおっさんが安く卸してくれるお蔭で、リーズナブル。
一般向けを全力でアピールできる。
あれよ、あれよと売れていき。
お昼を過ぎた頃には、ほとんど無くなった。
『…良い匂いがするわ。』
「あら?もう店じまい?」
「あ、ルーラ!ピピン!久しぶり。」
ルーラに抱かれたピピンが、スンスンしてる。
おや、わかる口ですな。
あ、鼻か。
「思ったよりも好評で、結構売れたの。」
「…アトラス祭向けの、うまい売り方ね。」
「え?」
ルーラが見てるのは、例のポップ。
「…ねぇ、それ。何て書いてあるの?」
「え?あなたが書いたんじゃないの?」
「私、文字書けなくて。ダニーのとこの使用人の人に書いてもらったの。」
「あぁ、なるほど。」
妙に納得してる。
いや、説明してくれよ。
「あなた、遊ばれたわね。」
「は?」
どうやら、聞くところによると。
これで、彼氏が出来ました!
この香りで、彼もイチコロ。はぁと。
みたいなことが書かれているらしい。
遊び心しかないじゃないか。
「…なるほど。」
「面白いでしょ。副団長のお家。」
「…まぁね。」
個性派しかいないけど。
「じゃあ、この香り袋頂くわ。」
「え。」
「何よ、買っちゃ悪い?」
「いや、ルーラはお嬢様って感じだから。香水かと。」
「やぁね。そんな高いの買えないわよ。」
そうなのか。
話し方とか、雰囲気が。お嬢様だから、つい。
「一般家庭よ。それも、大家族のド貧乏。」
「え!意外!」
「じゃなきゃ、騎士団務めはしないわよ。」
「そうか。」
そんな背景が。意外過ぎる。
「はい。お金。」
「ありがとうございます。」
『そろそろ時間じゃない?』
「あ、行かないと。またね!」
「うん!ありがとねー!」
ルーラを見送ると、足元に黒い物体。
ビクッとしたら、ラウちゃんだった。
おぉ、同志よ。いつの間に。
その後ろで、じっとポップを眺めるダニー。
私が書いたわけではないのよ。
犯人、あんたんとこのメイドやで。
「……遊ばれたのか。」
ザッツライト!
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