第9話「恋、始めました…?」


朝起きて、思う事。

めっさハズイ!!

どんな顔さらして起きれば良いのさ!

良い大人が、ガン泣きした挙句、寝落ちなんて。

うぅ…優しいのが、いけないんだ!

魔王のくせに!


「起きたなら、これで目を冷やせ。」


目にそっと当てられた、冷えたタオル。

………惚れてまうやろ!

なんで、そんなに優しいのさ!

プレイボーイ!

未だ、独身なのが、疑問。

はっ!何か、ヤバイ性癖でも…?


「何か、良からぬ事を考えているようだが。外れていると思う。」

「え?じゃあ、何で独身なのさ!」

「………すまん。なんの話だ?」


もう!これだから、鈍感男は!


「…お風呂、いただきます。」

「あ、あぁ。まだ時間はある。ゆっくり入ると良い。」


細かい気づかいも、さり気なく出来て?

なおかつ、副団長というエリート。

家も、かなりのお金持ちっぽいし。

見た目も、…冷たい目にさえ慣れれば、パーフェクト。

てか、子供みたいな性格だから、冷たい目もかわいく見える。


「…?どうした?風呂は良いのか?」

「…っ。入ります!」


何だか、恥ずかしくなって、慌ててベッドから降りる。

代わりに、ラウちゃんがベッドに上がり、ベッドと壁の隙間に顔を突っ込み始めた。


「ラウル。何を、」


口にくわえていたのは、うちの子ぴーちゃん。

…お手数おかけします。


「ありがとう、ラウちゃん…。」


まだ眠ったままのぴーちゃんを受け取ると、足早に浴室へ。

もう、何なの、どうするの、私。




「…私に何か言いたい事があるなら、言うと良い。」

「へ?何が?!」

「…その挙動不審な動きの理由は?」

「えぇ?」


ますおさんみたいな声出ちゃったよ。

朝から挙動不審なのは、自分でも、理解してる。

こうして、仕事場も、密室に二人、という状況に、ドギマギしてる。

仕事もままならない。

何で?こんなに男性意識したの、いつ以来だ?

元の職場でも、雑魚寝して、翌朝普通に過ごしたのに。

こんなに緊張しなかったのに!

優しくされたから?

私って、そんなに単純だったっけ?


「…昨夜の、」


ドキィッ!!


「事を、気にしているのなら、…すまない。軽率だった。」

「いえ!そういうのじゃなくて、ですね。」

「では、何がそんな行動を起こさせているのか。はっきりしろ。」

「だから、ですね。」

「なんだ?」

「その、ですね。」

「…わざとか?」


あなたの事が、気になり始めてます。

これって恋ですかね?

なんて、言えるわけないやろが!


「う~んと。」

「………。」


不快をあらわにされたな。


「あ、そういえば、思ったんですけど。」

「なんだ?」

「異世界からこっちに来た人って、帰る方法あるんですかね?」

「………。」


何か、考えているようだ。

こっちをじっと見てる。

照れるやろぅ。


「…今まで、私が知る限り、確かな記録は残っていない。」

「…そっか。」


まぁ、そうだよね。

こっちに来たきっかけも、謎だし。

どういう理屈で、そういう現象が起こるかも、当事者がわかってないんだもんね。

…ん?何?


「…その、大丈夫か?」

「え?」

「寂しいのなら、話を聞こう。」


惚れてまうやろ!


真っ赤であろう顔を両手で隠し、じっと動かない私。

じっと待っているダニー。

その時、扉がノックと共に開いた。


「………お邪魔かな?」

「隊長。お気になさらず…。」

「そう?じゃあ、アカネちゃん借りるね。」

「え?なぜ、」


ダニーが言い終わる前に、ガシッと掴まれて、たわらのように担がれた。

ぴーちゃんが頭から落ちそうになって、必死に耐えてる。

痛い。爪、食い込んでるんですけど。


「ちょ、」


ダニーの慌てる声が遠ざかると共に、あっという間に走り去る。

私の扱い、雑になってない?

降ろされたのは、謁見室の扉の前。


「王国騎士団、騎士団長、ギルベルト・アトラールと!異世界人、アカネ・トリカイが到着しました!」

「(入れ。)」


相変わらずなやり取りで、さっさと入室。

何で呼ばれたかも聞けてないんですけど。


「おぉ。待っておったぞ。火竜の機嫌はいかがか?」

「…見ての通り、元気いっぱいです。」


それのために呼ばれたのか。

ハイテンションなぴーちゃんを抱き上げてみせる。

移動が楽しかったんだろうな。呑気のんきな子だ。


「おぉ!これが、火竜!」

「ふふふっ。子供みたいで可愛いわね。」


そりゃ、まだ子供ですからね。


「順調に成長しているようだし、安心した。」

「成長しない事って、あるんですか?」

「まぁ、ごくまれにある。異世界人の魂が、こちらの世界に馴染まなかった場合に。守護獣は成長せず、共に亡くなる事がある。」

「へぇ。じゃあ、私は馴染んだってことですかね?」

「そうだな。だが、まだ日が浅いので、馴染み切ってはいないだろう。」


へぇ。そういうものなのか。


「まぁ、こちらの殿方と、恋仲になれば、早く馴染むのだけれど…?」


王妃さまが、含みを持たせた視線を、こっちを向ける。

なんだ、その目は。


「さて、ここに呼んだのは、他でもない。」


お。ぴーちゃんが本題じゃないのか。


「ダニエルとは、どうだ?」


ビクッ!


「その反応は、もう何かあったな?」


ニヤニヤと夫婦揃ってこっち見てる。

やめろや、その顔。美男美女が台無しよ。


「では、式の日取りを決めねばな。」

「そうね。彼は副団長だから、それなりの規模でないと。生家せいかのロイドン伯爵家の面子めんつもあるでしょうし。」

「そうだな。そうなると、急いでも3カ月はかかるかな。」

「そうねぇ。花嫁衣裳の準備も、時間がかかるから…。」

「…あの。」

「なんだ?」

「何の式ですか?」

「あかねとダニエル副団長の結婚式だ。」

「なぜ?」

「…あかねの世界では、男女がまぐわったら、結婚しないの?」


言い方!


「結婚しないわけではありませんが、私たちはそもそも、そういう、関係、では。」


もごもごしちゃうわ。思春期か。


「あら。一緒にベッドに入ったのに?」

「何もないと…?」


そんな馬鹿な!って顔で語ってる。

もう少し、オブラートないですかね。


「ダニエルは、不能、なのかな?」


良い声で、あんまりな事を言いなさんな、団長さんよ。


「そう、なのか?」

「それは、残念、ね…?」


すごく気を使われている。

本人がいないところで。


「そういう話ではなく。昨日は、その、私が、泣いてしまったので。」

「あら!彼、優しくなかったの?」

「ダニエルさんは優しかったですよ、とても。」

「じゃあ、あかねの問題と言うことか?」

「まぁ、そうですね。」

「それなら、時間をかければ大丈夫よ。私も、最初は大変だったけど…。」


ポッと頬を染めてる。

まぐわいって言った人とは思えないな。


「そういう話ではなくて。」

「いやなのか?ダニエル副団長の事が。」


そう来たか。

最初は、嫌と言うか、やべえ奴だなとは思ってたけど。

優しくて、話しやすい人だなぁとは、思い始めてまして。

なんなら、カッコイイし、彼が良いなら、その、恋人的な雰囲気も味わってみたいというか。その。


「アカネちゃん。言葉にしないと。もじもじしてても伝わらないよ?」

「…あの、ですね。私は、良い人だと思っていますが、相手がどう思っているか。」

「あら、それなら大丈夫よ。」

「え?」

「彼も、あなたの事が気になるって!」


それは、私の単語が気になるの間違いでは?




それから、散々、王妃様のテクニックの話を聞かされ。主にベッドでの。

何だか、隠れて卑猥ひわいな漫画でも見てしまったような、後ろめたい気持ちになった。

何だか、勝手にごめん、ダニー。


「疲れているな?何があった?」


戻ってくるなり、扉の前で仁王立ちで待ち構えていたダニーに捕まった。


「いや、その。何て言いますか。」

「私との結婚を、検討されたか?」

「おぉう?!」


なぜ、それを!


「気にするな。いつもの事だ。」

「えぇ?」

「私がこの年になっても、何一つ浮いた話がないので。皆、心配してくれての事だとは思うが。」

「はぁ。」

「こればかりは、私だけの問題ではないしな。どうにもならん。」

「…あのさ。」

「ん?」

「ダニーは、結婚したくないの?」

「…結婚は、したくないと言えば、嘘になる。いつかは、愛する人と家庭を築きたいとは、思っている。」


照れたように言うダニーがかわいくて仕方がない。

もう、惚れてるな、私。


「それは、親が決めた人になるの?」

「いや。私は次男で、家を継ぐわけでもないし、家同士の結びつきは関係ない。」

「じゃあ、恋愛した人と、って事だよね?」

「そうだな。」

「初恋はいつ?最後に付き合った人は?」

「何だ?急に。」

「経験人数は?」


ぶっ。


噴き出した。

顔を真っ赤にして、破廉恥な!って表情で語ってる。


「なぜ、そんなことを、」

「気になるから。」

「は?」


ダニーの事が、気になるから。知りたいって思うんだよ。


「最後に好きになった人って、どんな人?」

「…それを知ってどうする。」

「ダニーは、どんな人を好きになるか、知りたい。」

「………。」

「どんな人?」

「…逆に聞く。」

「ん?」

「好きになるとは、どういうことだ?」


まさかのチェリーボーイ?!


「経験はある!娼館に行って、経験はしている。」


素人しろうと童貞か。


あわれんだ目で見ないでくれ。」

「いえ、そんなことは。」

「分からないんだ。騎士として生きると決めて、必死だったから。そういう事にうといと、自負してはいる。」

「はぁ。」

「だが、わからないものは、わからない。」

「おん?」

「どういう感情なんだ?恋焦がれるとは。恋人への好きと、人として尊敬できる好きと、何が違う?男女の相性とは?簡単にわかるのか?どうすれば、」

「どうどうどう。」


すぐ暴走しますわね、あーた。


「そういうのは、言葉で表すのは難しいんですよ。」

「そうなのか?」

「そう。だから、小説とかでも、色んな表現があるでしょ?…あ、こっちって小説とか、物語の本とか、あります?」

「ある。まほうの物語はないが。…そうなのか。」

「はい。」


うん。ムクムクと、悪い大人な私が顔を出しつつある。

この、無垢むくなボーイを、手籠てごめにしちゃうぞ、的な。


「あのですね。」

「…なんだ。」

「私から、提案がございまして。」


これ言ったら、引かれそうな気がしなくもない。

けど、言いくるめる事も出来そう。

悪い大人だけど、夢見ることくらい、良いでしょ。

せっかくの、異世界なんだし。


「私と、恋人体験してみるのは、いかがでしょう?」

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