第27話 正体
はぁ」
僕はため息をつき、ベッドにダイブした。
雀村茂の書く小説が好きだった。自分もいつかこんな小説を書いてみたいと思ったものだ。でも、まさかこんな形で裏切られるとは思わなかった。まさかゴーストライターを雇って小説を書かせていたなんて。信じられない。
「しかも、そのゴーストライターが蝶野さんだったなんて……」
もしかしたら、彼女がデビューできたのは、雀村が裏で手を回していたのではないだろうか?そんな疑いを持ってしまう程ショックだった。
蝶野さんがあんな状態でなければ、電話を掛け、怒鳴りつけていただろう。
「灰塚さんは、このことを知っていたのかな?」
思えばパーティー会場で雀村と初めて会った時、一緒にいた灰塚さんの様子はどこかおかしかった。もしかしたら、灰塚さんは雀村が蝶野さんをゴーストライターとして雇い、自分の作品を代わりに書かせていたことを知っていたのかもしれない。
灰塚さんは雀村の元担当だ。知っていても不思議じゃない。
「疲れた」
色々と考えて頭が疲労している。一旦考えることを止めるために、テレビを点けた。適当にチャンネルを回す。すると、ある番組が目に入った。
その番組は動物を扱っている番組で、今週は『蛇』をテーマにしていた。
「蛇……」
一瞬、テレビを消そうかと思った。でも、伊那後先生が蛇好きと言っていたことを思い出し、消すのを止める。
『蛇は寒い場所以外ならどこにでも生息しています。その種類は約三千といわれていますが、新種も発見されており───』
番組はそんなナレーションから始まった。その後は『蛇にはどうして手足がないのか?』とか『どうして自分よりも大きな獲物を丸呑みできるのか?』といった説明がされていく。
僕はベッドに寝転びながら、何も考えず番組を見ていた。番組は、世界の変わった蛇を紹介するコーナーになる。
『この蛇はハナナガムチヘビという名前の蛇で名前の通り、鼻が長いです。こちらはヘアリーブッシュバイパーという蛇で、まるでドラゴンのような鱗が特徴です。こちらはミルクヘビ、この蛇はサンゴヘビという蛇を───』
「……えっ?」
蛇の説明をするナレーションを聞いて、体中に電流が走った。
「ま、まさか……?」
パーティー会場での出来事、伊那後先生と灰塚さんが殺された理由、一人だけ違う襲われ方をした蝶野さん、ゴーストライター、『白い大蛇』が憑いている人物……。
僕の頭の中でこれまでの事件がまるでパズルのようにはまっていく。
「もしかして……そういうことだったのか?だとすると……!」
僕がこれまで考えていたことは、全て間違いだったということになる。
そして、正しかったのは僕ではなく、あの二人だったことになる。
長い時間、考えた末に僕は自分の手首を見る。
手首に巻き付いている紐状のアヤカシは、ある人物に会った時、青色から黄色に変わった。
三人全員を調べたが紐状のアヤカシが反応したのは、一人だけだった。その人物こそ、『白い大蛇』が憑ついている人間だった。
「会いに行かなきゃ」
僕は『白い大蛇』に会いに行かなければならない。
五日後、調べ物を終えた僕は、そのままある人物の自宅の前に立っていた。インターフォンを鳴らし、待っていると扉が開く。家の中から出てきたその人物に僕は頭を下げた
「こんにちは、またお話しさせていただいてもいいですか?」
相手を警戒させないように僕は笑顔を作った。声もできるだけ優しい口調で話す。
その人物は静かに僕を家の中に招き入れた。
「ありがとうございます」
僕は礼を言って、その人物の家の中に入る。椅子に座るとその人物も僕の対面に腰を下ろした。
「今日は、あることを話したくて来ました」
前置きも遠回しに言うこともせず、僕は単刀直入に告げた。
「貴方の正体は……人間ではありませんね?」
目の前の人物は何も言わず、黙って僕の話を聞いている。
「貴方の正体……それは『白い大蛇』の姿をしたアヤカシです。そうですよね?」
僕は目の前に座っている人物の名前をはっきりと口にする。
「華我子さん?」
「……」
華我子さんは何も言わず、僕の目をただじっと見つめていた。
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