第16話 鎮守の沼にも蛇は棲む②
「まさか『白い大蛇』がこんなに短い間に二人も人間を殺めるとは……」
僕の話を聞き終えた猿木さんは言葉を失う。
「なんで、灰塚さんが……」
パーティー会場を襲った犯人、根津博義を『白い大蛇』が殺した理由を僕と猿木さんは『報復』だと解釈した。
だけど、灰塚さんには『白い大蛇』に報復される理由がない。灰塚さんは『白い大蛇』に殺される理由なんてないはずだ。
「もしかしたら『白い大蛇』が人を殺している理由は『報復』ではなかったのかもしれない。何か別の理由で『白い大蛇』は人間を殺しているのかもしれないな」
「別の理由……」
今まで人を直接殺したことがない『白い大蛇』が短期間に二人の人間を殺した。『報復』でもなく『食事』のためでもなければ、一体なんのために?
「理由が分からない以上、この後『白い大蛇』がどう動くか分からない。もしかしたら、まだ同じようなことが続くかもしれないな」
猿木さんの言葉に僕は息を飲む。確かにこれで終わるという保証はない。『白い大蛇』がこれからも人を殺し続ける可能性は大いにある。
「……すまなかったな」
猿木さんがポツリと呟いた。
「私の判断が甘かった。まさか『白い大蛇』がこんな短期間にもう一人殺すとは思ってもみなかった」
頭を下げる猿木さんに僕は首を振った。
「猿木さんのせいじゃないよ。誰のせいでもない」
僕がそう言うと、猿木さんに「相変わらず、甘いなお前は」と言われた。
「……もっと私を責めて良いんだぞ?」
「そんなことをしても、意味がないよ」
そう、意味がない。猿木さんを責めたって灰塚さんが戻ってくる訳じゃない。それよりもこれからのことを話したほうがずっといい。
「前に話していたアヤカシは返ってきた?」
「明日中には返って来る」
「じゃあ、返ってきたらすぐに『白い大蛇』が誰に憑いているか調べよう」
「……なぁ、米田」
「何?」
「『白い大蛇』を捕まえるのに協力してくれとは言ったが……無理に手伝わなくてもいいぞ?」
猿木さんらしからぬ言葉に「えっ」と声が漏れた。
「今更だが、『白い大蛇』は二人も殺している。パーティー会場を襲った犯人を殺した時は、まだ連続で人を殺すようになるとは考えていなかったが、今の『白い大蛇』はとても危険だ。捕まえようとすればこちらの命が危ない。それでもやるか?」
「構わないよ」
僕は、即答した。
「これ以上、被害を増やさないためにも僕ができることをしたい。見て見ぬ振りはできない。『白い大蛇』に憑かれている人のことも気になるしね」
「本当にいいんだな?」
「うん。それにこれは自分のためでもあるんだ」
「自分のため?」猿木さんは不思議そうに首を少し傾ける。
「あの時、パーティー会場にいた人間が二人も殺された。もしかしたら『白い大蛇』はパーティー会場にいた人間を狙って殺しているのかもしれない。だとすると……」
「お前も狙われる可能性はゼロではない……ということか」
「うん」
「なるほどな」
猿木さんは、納得いったと頷く。
「確かに、今後お前が狙われる可能性がゼロではない以上、『白い大蛇』は捕まえていたほうが安全か……」
「それにもし、僕が『白い大蛇』を捕まえることに協力しなくても猿木さんは『白い大蛇』を捕まえることをやめないでしょ?」
「……ああ。私は一人でも『白い大蛇』を捕まえるつもりだ」
猿木さんは真剣な表情になる。
「だったら、僕も手伝うよ。僕が居たほうが猿木さんも少しは安全になるんでしょ?」
猿木さんは一瞬、キョトンとした表情になったあと、
「やっぱりお前は甘いよ」
そう言って、唇の端を上げた。
「ねえ、猿木さん」
「なんだ?」
「どうして猿木さんは『白い大蛇』を捕まえることにこだわるの?」
僕が尋ねると、猿木さんは少し驚く。
「何故、そう思う?私が『白い大蛇』の捕獲にこだわっていると」
「それくらいは分かるよ。四年の付き合いだからね」
「……全く、お前は時々、妙に敏いな」
猿木さんはフウと息を吐く。
「面白くない話だが聞くか?」
「猿木さんが良ければ」
「分かった」
それから猿木さんは、自分の過去を話し始めた。
「私が『白い大蛇』を捕まえたいのは……復讐のためだ」
「……復讐?」
予期していなかった言葉に驚く。
「私の父は……『白い大蛇』が原因で死んだんだ」
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