第10話 灰吹きから蛇が出る④

 後日、僕は猿木さんの家を訪れ、起きたことを全て話した。

 僕の話を聞き終えた猿木さんは、僕の肩に手を置き「大変な目に遭ったな」と言ってくれた。

「なんにせよ、お前が無事で良かった」

「ありがとう」

「腕の傷は大丈夫なんだな?」

「うん、かすり傷だから」

「そうか、ならいい。お前に何かあったら困るからな」

「猿木さん……」

 そんなに僕の事を心配して───

「お前がいなくなると、アヤカシが集めにくくなるからな」

 がっかりだ。感動して損した。猿木さんは「フッ」と笑う。

「それにしてもまさか『白い大蛇』がお前の出席したパーティー会場に現れるとは……しかもパーティー会場を襲撃した犯人の男を殺めるなんてな」

「警察は事件をこれからも調べていくみたいだけど……」

「取り調べをしただけで、まだ裁判も受けさせていない犯人を留置所内で死なせてしまったからな。警察の面目は丸つぶれだ。なんとしてでも原因を解明したいだろうが……まぁ、無理だな」

 根津が死んだ理由について真相が明らかにされることはないだろう。根津の死因は『原因不明』として処理されるに違いない。

「問題は、何故『白い大蛇』が犯人の男を殺したのか……だな」

「『白い大蛇』が人を殺したことってないの?」

「私が知っている限りだが聞いたことはないな。『白い大蛇』がアヤカシを喰うことで、間接的に人が死ぬということはあったが、直接人間を殺したのはおそらく初めてだろう」

 アヤカシの中には憑いた相手を殺してしまうものもいるが、『白い大蛇』は人を喰わない。つまり人を殺す理由がない。

「犯人に憑いたアヤカシを捕食した時点で『白い大蛇』の目的は終わったはずだ。その後、わざわざ犯人を殺す必要は全くない。なのに何故『白い大蛇』は犯人を殺したのか?」

 猿木さんは僕に説明するというより、話をしながら自分の考えをまとめているようだった。悩む猿木さんに僕は声を掛ける。

「実は、一つ気になっていることがあるんだ」

「なんだ?」

「『白い大蛇』なんだけど……もしかしたら」

 僕は自分の考えを口に出す。


「あの場にいた誰かに憑いているのかもしれない」


 僕がそう言うと猿木さんは目を大きく見開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る