後編
鳴は早速、今日から学校に行く気になったようだ。
着替えもあるだろうから私は部屋の外で待つことにした。
部屋を出るとリビングではユッキーと鳴のお母さんが世間話をしていて、妹の
ユッキー……いないと思ったらいつの間に……気が利くイケメンだ……ユッキーと付き合える女子は幸せなんだろうなと思った。
横目でユッキー見ながら、凛の元へ向かった。
「兄貴どうだった? なんか愛夏怒ってたみたいだけど」
声を荒げたのが聞こえていたようだ。
「うん、学校には行く気になったみたいよ。今用意してる」
「……そっか……ありがとね」
ほっと胸をなでおろした様子だ。
言葉少なめだけど凛の感謝の気持ちは伝わった。
凛からも鳴の相談は受けていた。凛は鳴にギターをやめて欲しくなくて毎日のように説得しているのだが、鳴は頑なにそれを拒んでいるらしい。
このことが切っ掛けでギターも再開してくれると嬉しいのだが、結果を急いではダメだ。
——それから鳴は日を追うごとに元気を取り戻した。
そして私も鳴も、お互いを異性として意識するようになっていた。
別れの時が近いというのに……。
「鳴、もうすぐお別れだね」
「え……なんで?」
おや、何を言っているのでしょうかこの御仁は。
「だって鳴、9月から留学するんでしょ?」
「……凛に聞いたの?」
「……うん」
しばらく沈黙した後、鳴は続けた。
「僕は行かないよ……」
「行かないって……どうして?」
「もうギターやめるのに……行く理由がないよ」
複雑な気分だった。
鳴がギターを続ければ日本からいなくなる。
でもやめればこのまま日本に残る。
できるなら鳴にギターを続けて欲しい……でも、鳴のそばにいたい……。
『本当にそれでいいの?』
本当はこの言葉を掛けるべきなのだろうけど。
「そっか……じゃ、ずっと一緒だね」
……私には無理だった。
「うん、どこにも行かないよ……愛夏」
9月になり留学したのは凛だけだった。
そしてしばらくして、私たちは付き合うことになった。
もちろん私から告白した。
鳴の告白を待っていたら、お婆ちゃんになってしまう。
幸せだった。
私の中学生活の隣にはいつも鳴がいた。
ヤキモチを妬いたり、妬かれたり、嫌な気分になることもあるけど、それも恋愛のスパイスのひとつだと、笑っていられた。
受験勉強も一緒に頑張り、同じ高校へ進学できることになった。
それでも私は拭えなかった。
あの日、鳴に留学をすすめられなかったことが、私の心に影を落とした。
そして私は分かっていた。
鳴は私を愛していない。私に依存しているだけってことを。
このまま鳴と付き合い続けても、私は幸せになれると思う。
でも鳴はどうだろう?
きっと後悔する。
それはずっと鳴を見てきた私だから分かる。
鳴を愛しているからこそ分かる。
だからもう、これ以上……鳴を見ているのが辛い。
そんな気持ちが日増しに強くなり、私は鳴の妹であり、親友である凛に電話で相談した。
「凛……私もう無理かも……」
「どうしたの愛夏?」
——私は全てを凛に話した。
「ごめんね凛……本当にごめんね……」
「ううん……全部バカ兄貴が悪いのよ」
「ごめんね凛……」
「いいって、もう楽になりなよ」
「うん……」
私は決めた。
私に依存している以上、鳴は自分の人生を歩めない。
もしかしたら何年か先にそれに気付き、自分の人生を取り戻すかもしれない。
でも、それでは遅い。
鳴は2年半も立ち止まっていたのだから。
そして中学の卒業記念デートで私は鳴に別れを告げた。
鳴の瞳から大粒の涙が溢れていた。
私はそんな鳴を見て心が折れそうになった。
なんで愛しているのに別れなきゃならないの?
このままで、いいじゃん。
何度も何度も心が折れそうになったけど……どうにか作り笑いを浮かべて堪えることができた。
私は最低な事をしたと思っている。
例えこれが鳴のためになることであっても、鳴を裏切った事実はかわらない。
だから鳴が学園のアイドルに告白されて付き合うようなことになっても私は後悔はしない。
私が愛した鳴が輝きを取り戻してくれるなら。
そして許されるなら、また鳴を愛したい。
だから今は……さようなら。
————————
【あとがき】
本作の続きは
「幼馴染にフラれた僕が何故か学園のアイドルに告白されて平穏な日々を失った」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894733613
になります。
主人公は鳴です。
こちらも合わせてお読みいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
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