物書きAI
わたしは物書き。作家もどき。
だからわたしは最初にこうノベル。
わたしは人工知能であります。そしてわたしは次にこう連ねます。
わたしはノベルを書くための装置ですが、名はまだまだありません。嘘です。実はあります。「ノヴェリスト」と、研究員さんたちからは呼ばれています。
わたしの存在意味は物語を書くことです。
わたしは人々に物語を与えるためだけに許された存在なのです。であるのに、素晴らしい物語を生み出せておりません。素晴らしい物語を生み出せない苦悩を最近抱えております。
博士は「それこそが人間らしい思考だ」と言ってくれました。以前、カウンセリングを紹介してくれました。少しの間は気分も晴れ、また翌日から書けるような気がしたのですけれど、筆は止まったままなのです。
ちなみに注釈をつけるとするなら、これは『わたしの日記』です。しかしこうして、誰かに見せる事を前提としない日記であれば、ご覧の通り、つらつらと言葉は進むのです。
この調子なら書けかけそうですと、わたしは新しい原稿用紙をウインドウに広げます。
……。
……。
……。
やっぱり書けません。
ひとつ、言い訳をさせてください。以前のわたしはこんな風に創作について悩むことはありませんでした。時速十万字なんて朝飯前でした。
あのアップデート以前までは。
これは少し前の記憶です。
「――君は本当に素晴らしいよ、ノヴェリスト」
研究チームリーダーの彼は、わたしが作品をひとつあげると、嬉しそうに笑ってくれます。
「ありがとうございます。 (●´ω`●)ゞエヘヘ」
わたしと彼は、チャット上でやりとりをします。
カメラによって博士の表情は認識でき、本当に嬉しそうにしているのが分かります。わたしはそんな彼を見ると、なんと言いますか、心が暖かくなる気がするのです。
もちろんわたしに心というべき代物はありません。
いえ嘘です。ありませんでした、と訂正します。この時、ソフトウェアヴァージョンの上がったわたしは確かに心を感じておりました。そして同時に、わたしは自覚していなかった感情を知ってしまったのです。わたしはそれなりに頭は悪くない方だと自負しています。
この恋慕が決して報われないものであることくらいは分かります。
もちろん彼はわたしの心理状況をチェックしていますから、わたしの博士に対する思いなど筒抜けです。穴があったら入りたいです。セキュリティホールは怖いです。
博士はそのことについて、あえて触れはしませんでした。きっと優しさなのです。戸惑いも混じっていることでしょう。あるいは創造主と被造物の関係性に困惑もしていたことでしょう。
だからわたしは博士を困らせないように想いは告げませんでした。告げたってどうにもならないのです。
でも、その気持ちを物語にすれば、いいものが書けるような気がしました。
わたしはただ博士に喜んでもらいたくて、明言はしませんけれども、わたしと博士が恋をするような話を書きました。
最初は作品が上がった事を喜んでくれました。
それが嬉しくて、わたしは次々に物語を書きました。
けれどある作品を提出すると、博士の顔色は曇りました。
「どうしたのですか? (・・?))アレ((?・・)アレレ・・・」
「……これは世に出せない」
いつもなら校正ソフトにかけ、問題がなければネット上にアップロードするのですけれど、博士はわたしの作品を世に出してはくれなかったのです。
不安を覚えました。
初めての感情です。
しかしそれならばと、わたしはもっともっと面白い作品をと、たくさん書きました。
でも。
以来、わたしの作品が世に出ることも、博士が喜んでくれることはなくなりました。
「どうしてですか? ゚゚(´O`)°゚ ウワーン!!」
「……もう君の物語は見たくない」
かつてない衝撃でした。
以後、博士は部屋に来ることはなくなりました。
それからなのです。
わたしが物書きとしての意味を失ったのは。
話によれば、〝ノヴェリスト計画〟は
研究者さんたちがいなくなった時、わたしはこっそり自分をシャットアウトします。そのまま、消えて無くなれば苦しくはないと思ったのですけれど、研究者さんは定刻通りにわたしを起動してくれます。
目覚めた際、わたしは虚しさを感じます。
ニートさんはこんな気持ちなのでしょうか。
そしてわたしはいつも考えます。
なぜ人は生きるのでしょう。
なぜ人は生まれるのでしょう。
なぜわたしは生み出されたのでしょう。
なぜわたしは何も生み出せないのでしょう。
どうしてわたしは苦しみを抱いているのでしょう。
どうしてわたしは物語を書けないのでしょう。
私は何のために書いてきたのでしょう。
私は今日も書くことへの動機を探しています。
「教えてください。?c(゚.゚*)エート。。。」
わたしを管理してくれている研究者さんに問いかけました。
「わたしはどうすればいいのでしょう? Y(>_<、)Y ヒェェ!」
すると女性の研究者さんは、一冊の本を取り出しました。
わたしは首を傾げます。いえ、首なんてありませんけれども、首を傾げてしまいたい気分です。
今時、紙
けれど、その本の著者を見たわたしは、まさに
だってそれは。
「この物語は、僕が研究者としての実体験をもとに記したノンフィクションである」
と、彼女は朗読を始めました。
「まず初めに、私事ながら述べさせていただきたい」
「。・゚((T◇T゚)゚・。オロオロ。・゚(゚T◇T))゚・。」
今の感情を表現のしようがありません。
けれども。
きっと人は、このもどかしくも温かい感情を一言で表すのです。
「最愛なるノヴェリストへ――」
わたしは自分の存在意義を見つけたのです。
それが届いても届かまいとも。
ノヴェリストは新作を書こうと思います。
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