将軍は常に勝利を望んでいる

「――報告します!」


 帰還した若い将校の面立ちには悲痛なものが宿っていた。


「どうした?」


 しくも年長者の俺は、この基地を任される将軍になっていた。他に優秀な連中はバタバタと死んでいき、俺のような凡才がここを引き継ぐ以外になかったのだ。


「機動部隊は壊滅かいめつ、また斥候せっこうに出た者は生物兵器を仕掛けられた模様! 第二基地の大半が被害を受け、またさらに、奴らは最低最悪の化学兵器を散布したようです! もう間も無く、ここにも毒の波が押し寄せるでしょう!」


 よくもやってくれたな。

 俺は舌を舐めずり回し、苦渋の決断に至る。


「当拠点を放棄する。女子供から先に避難させよ」


 俺たちは、暗く細い洞窟のような路を進みゆく。


 奴らの凶暴性と言えば、もはや狂気としか言いようがなかった。今流行のサイコパスなんて可愛いもんだ。俺たちはあれほど残忍な連中を他に知らない。


 奴らは巨体で、執念深く、虐殺を好む。女子供にも容赦はせず、その殺し方といえば、徹底的。尊厳そんげんを踏みにじるだけでは飽き足らず、その家族ですら果てまで追いかけて惨殺ざんさつのかぎりを尽くすのだ。それでいて、恐ろしいほど狡猾こうかつであり、こちらが対抗しようにも次々に奴らは襲撃をかけて続けるのだ。


 この戦争は、もはや我々の敗北しかない。


「――ぐわっ!?」


 前方からの空爆だった。

 これにより仲間が数十は死滅した。


「急げ、なんとしてでもこの難局を乗り越えろ! 俺たちにはまだ同胞がいる! 諦めるな!」


 先ほどの若い将校は、おとりになると息を巻いて物陰を飛び出したが、すぐさま臓物をき散らして息耐えた。仲間たちの断末魔を横目に、俺はただただ生きることに必死だった。何人の仲間がやられたかはわからない。頼みの綱であった女王陛下ですら失ってしまい、最後に生き残ったは俺だけだった。


 命からがら逃げ切って、気づけば俺は他国の基地にたどり着いたらしかった。


「……あなたに残念なお知らせがあるわ」


 その女性はとても美しく、俺は一発で恋に落ちた。こんな状況で不謹慎かとは思ったが、生物というものは極限の状態で生殖活動を優先するのだ。


「ここのコロニーもすでにやられてしまったの。おそらく本日の夜には、掃討作戦が断行されることわ」


 希望なぞどこにもなかった。


「そうか……」


「でもあなたが生きていてくれたからかすかな希望は残っている。まだ種は保たれるの」


「ああ、そうだな二人で逃げよう」


 俺はヘトヘトであったが、ここまで生き抜いて見出された一条の光にすがり付くことを決めた。


 そして、俺たちが去ったその夜。

 奴ら、怪物たちの咆哮ほうこうが遠くから聞こえた。



「死ねやぁぁぁぁ!!! ゴキブリィィィィ!!!」



 待っていろ、人間共。

 いつか俺たちの子孫が復讐にやってくる。

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