第5話 薬の効用
「よう、久しぶりい。」
「なんだ、輝空退院したのか?」
「ああ、もうあっちこっち調べられて、たまんなかったよ。」
輝空は細川先生の物質変化能力で、瞬時に回復してはいたが、呪いの後遺症観察と傷ついた箇所の検査で、帰って早々に入院していたのだ。
「元気そうで良かったよ。何しろ一回死んだと思ってたからな。」
「だよな、俺も死んだ母ちゃんが、川の向こうで手招きしたのが見えたんだ。」
心日はベタなボケだと思ったが、母ちゃんというあたりが、ビミョウに真実っぽいので一応驚くふりをしてみせた。
「えっ!マジか!」
「うそに決まってるだろ。」
輝空は笑った後、真剣な表情で心日に尋ねてきた。
「それより、心日。…入院中、気になってしょうがないことがあってなあ、聞いてもいいか?」
なんでもズケズケと聞いてくる輝空が、なぜか遠慮深げなのが、心日には不気味に感じられた。
「なんだよ気持ち悪いな。」
「そうか、じゃあやめとく。」
「おいおい、それはもっと気持ち悪いだろ。聞けって。」
輝空は、心日の顔を覗き込みながら、言った。
「うむ、…じゃあ聞くぞ。お前ってさ、あの時どうして金縛り解けたんだ?」
心日は、輝空が恐る恐る聞いてきた理由が分かった。心日自身もあの時の自分を不思議に思っていたからだ。ただ、誰一人としてそのことを尋ねなかったので、自分の中ではなかったことにして忘れようとしていたのだ。
「なんで今頃?帰りの車で聞けば良かったじゃないか。」
松坂高校の件から4日経っていた。
「なんでかなあ、あの時のお前って、何か心日でないような気がしてさ。聞いちゃいけないんじゃないかって、勝手に思ったんだよな。ユカリもビビってたぞ、目が蛇みたいに見えたって。」
「目が変わってた?」
心日自身には気づくはずのない事実だった。
「目を見たのはユカリだけなんだけど、その後の高速パンチだろ?あんなの見たことないぞ。」
なぜこれまで聞かれなかったのか。なんとなく分かるような気がした。
「オレ自身よく分からないんだ。ただ、あの時の感覚は、何か普通と違うというか、ワクワクする…違うな、高揚する感覚、そうだ、ここへ来る前の日と同じような不思議な感覚があって、自分が自分でない。そんな感じだった。」
輝空はいつになく真剣な表情で聞き入っていた。
「ジェロニモに会ったという日だよな。オレらはお前がジェロニモに両親をやられたとしか聞かされてないけど。良かったら教えてくれないか、その日のこと。」
心日は柔道の授業から、トラックの上で起こったことまで全てを話した。そして、初めてこの話ができる友達ができたことを嬉しく思った。
「いきなりそんなことを体験して、よく錯乱しなかったな。」
「自分でも不思議なくらいさ、今思い出すとゾッとするから。」
「それでその薬って、今でも飲んでるのか?」
「養母が毎日出してくれるからね。」
心日は、朝食の後、琴波が出す薬を毎日当たり前のように飲んでいたのだ。
「養母って何?」
輝空の興味はそちらに移ったようだった。
「お母さんの代わりみたいなものかな?若いけど。」
「若いっていくつよ。」
「29」
輝空は年齢を聞いて驚いたが、その後は少しすけべそうな目つきで尋ねてきた。
「29歳のお母さん?いいなあそれ。29歳のお母さんと住むってどんなだ?」
「なんだよその目は、それにお母さんとは言わないよ。名前で呼んでる。…それより輝空には養母さんいないのか?」
「そんなのいねえよ。オレは寮生だからな。何でも自分でやってるし…オレのことはいいからさ、養母さん…じゃなくて、その薬の事教えてくれよ。それって小さい時から飲んでたんだろ?アレルギーの薬って言われてるやつ、なんか怪しくないか?」
「かもな。松坂高校の時は、養母いないから、よく忘れて夜飲んでたんだよ。だからモアちゃんと戦った時は、たぶん薬の効力はほとんど切れていたと思うんだ。飲んで20時間くらい経ってたから。」
「ますます怪しいじゃないか。今度抜いてみろよ。」
「おれも考えたことあるんだけど、琴波さん怒んないかなあって…」
「琴波?養母の事か?…その人、朝いない時ないのかよ。」
「ないなあ。看護師だけど、夜勤のない病院みたいだから。夕方もちゃんと帰ってるし。」
「なんか見張られてるっぽいな。」
言われると、そんな感じもしたが、あの琴波さんがそんな事をするなんて、心日には考えもつかなかった。
そんな話をしていたら、チャンスは意外にもすぐに巡ってきた。
その日は休日だったのだが、朝、一階に降りても琴波さんは居らず、テーブルにメモが置いてあるだけだった。
[昨日から熱が出てるので、寝ています。朝はテーブルの上のパンと冷蔵庫の牛乳で済ませてね。]
薬も置いてあったが、それはポケットに入れた。朝食をとると、心日は電車に乗って桑田市に出掛けた。夏服と靴を買うように琴波さんからお金をもらっていたからだ。何しろ荷物は前の家に全て置いてきたから、ない物だらけだった。
桑田市の駅前に着くと、パトカーのサイレンがけたたましく鳴っていた。厳戒態勢のようにすら感じる中、心日はショッピングモールへ向かった。交差点で待つ間、若い子たちの噂話が聞こえてきた。
「朝方、商店街の裏道で、死体が見つかったんだって。」
「しかもその死体バラバラで、三体なのか二体なのか数も身元も分からないらしいぜ。」
「まじ?キモいなあ、オレそういうのだめ。」
信号が青になり、歩き出すと、突然、心日の腕を1人の息を切らしたおばさんが掴んできた。
「彼氏のふりして!お願い。悪いやつに追われてるの。」
そのおばさんは、街中では目立つ黒い皮のパンツとライダースーツを着用していた。
心日はどうするべきなのか決めかねた。せっかくの休みを邪魔されたくない、という思いと、決して悪人ではなさそうな女性の頼みを断るべきでないという考えが交差し、迷いながら歩き続けた。それに加え、初めは気にならなかったことが、すごく気になり始め、心日の考える力を奪った。腕を組んだために、おばさんの胸が肘に当たって、妙な思いに頭をかき乱されたのだ。
(なんなんだ、このおばさんは…。だいたい彼氏じゃなくて息子くらいにしか見えないだろう。おばさんの逆ナンか?)
「ごめんね、迷惑はかけないから、このまま少しだけ歩いてよ。」
結局なにも起こらないまま、おばさんと腕を組んだ状態でショッピングモールの入口まで歩いた。
「ありがとう、助かったわ。お礼に何か奢ってあげる。」
その時の女性を見て、心日は驚いた。おばさんだと思っていた女性は、20歳くらいになっていたのだ。
「えっ?おば、おば、お姉さんいくつ?」
「女性に年を聞くのは失礼だって教わらなかった?…でもいいわ教えてあげる。406歳、ウフ…冗談!21歳よ。」
なんだかキツネに化かされたような気もしたが、いきなり腕を組まれ、顔も正面から見たわけではないので、自分の思い過ごしだと言い聞かせて、忘れることにした。
その後、心日はお礼にお昼をご馳走になった。
「本当にラーメンで良かったの?ステーキでも食べ放題でも良かったのよ。」
「ここの味噌ラーメンを昨日からずっと楽しみにしてたんですよ。ステーキなんかに変えられまへん。ズズズー。」
謎の多い女性ではあったが、よく見るとモデルのような体型で、顔もスッと鼻筋の通った美形だった。まさにクールビューティという言葉がぴったり当てはまりそうな外見で、こんな人となら今日1日デートしてもいいかな、くらいに心日は感じ始めていた。
「あなた琥珀の目をしているのね。昔つきあってた人を思い出すわあ。」
目のことを言われた心日は、慌ててスマホを取り出し、確認した。蛇のような目ではなかったものの、明らかに色が変化していた。
「どうしたの?もしかして目の色気にしてた?ごめんなさいね。」
「いや、そんな訳では…それより昔付き合ってたって、高校生の時ですか?」
「ウフ、そうかもね。忘れてしまったわ。…じゃあ、わたしは仕事があるから。またどこかで会いましょう。」
「帰っちゃうんですか?」
「ごめんね。本当は私ももう少しいたいけど、やり残した仕事があるのよ。」
なんの仕事か聞きたかったが、女性はそそくさと行ってしまった。心日はこの女性にまた会いそうな気がした。ジェロニモに出会って以来、妙な人にばかりに出会ってきた自分は、呪われているのでないか、そんなことを考えるようになっていた。そして、この瞳の色も何か良くないことの現れではないのか、自分の周りでもっと大きな何かが動き始めていて、今日会った女性もそんな何かの1つではないのか…。そんな事を思うと恐ろしくなってきて、心日は考えるのをやめた。
その後、買い物を終わらせた心日は、駅に向かった。朝聞こえたサイレンは止んでいたが、パトカーが2台ほど駅前に停まっていた。そんな駅の様子を見ながら、先ほどの交差点で信号待ちをしていると、心日の前を一台の白バイがすごいスピードで走り抜けていった。
心日が、白バイとはいえ、あんなにスピードを出していいのかと思っていると、けたたましい急ブレーキの音と、車が衝突する爆音が駅前全体にに轟いた。交差点から飛び出したトラックと白バイが衝突したのだ。バイクに乗っていた警官は弾き飛ばされ、全身をアスファルトに叩きつけられた。周囲は野次馬でいっぱいになり、心日は身動きが取れない程の状態になった。
「うおー!あの警官起き上がったぞ。」
「大丈夫か?だれか110番。」
110番は必要なかった。駅前のパトカーから4人の警官がそちらに向かってきていたからだ。
辺りにタイヤの焦げた匂いが充満する中、心日はあの時の柔道部員を思い出す光景を目にした。弾き飛ばされた警官が、血だらけで立ち上がったのだ。しかも曲がった脚を自分で元に戻し、ヘルメットを外して、曲がった首も正面に直した。
まっすぐに立った警官は、突然走り始めた。それを見た心日も、考えるより早く走り始めた。近くにいた4人の警官も追いかけたが、とても追いつけはしなかった。
(あの時と同じだ。)心日は母親に言われて、全力で走ったことを思い出した。ただ、今日はあの時と逆で、得体の知れない者を追いかけているのだが。
警官は闇雲に走っている訳ではなさそうだった。もちろん、信号は無視しているのだが、どこかに向かっているようだった。
高架をくぐり、駅裏に行くと、何年も営業していないようなホテルの前に着いた。
心日は、5メートル程度の距離を取り、ホテルに近づく警官を観察していた。すると、警官は突然後ろにいる心日の方に向きを変え、発砲してきた。爆音ともに、銃弾が心日を襲った。しかし心日が驚いたのは、発砲してきたことではなかった。ほんの5メートル先から発射された玉の弾道が目で追えたことだった。続けざまに発射される玉の弾道を目視し、全ての玉を避けた。
警官は銃を諦め、心日に襲いかかってきた。心日は伊賀高校で学んだ格闘の技術で応戦した。力は完全に互角だった。だが、その時はきた。無制限と思われた体力が切れかかってきたのだ。警官が繰り出すパンチを抑えられなくなり、遂には押し負けるようになってしまった。
「死体だから疲れないし、力をセーブすることもしない。」心日は父親の言葉を思い出して、後悔した。(しまったな、どうして追いかけてきたんだろ。…過信したのか?)心日は警官に一方的にやられながら自らに問うた。
(いや違うな、もっと奥の方にある、こいつらを1発でもいいから叩きのめしたい。そんな気持が抑えられずに、追いかけてきたんだ。)
「くっそお!いつまでも、やられてんじゃねえぞ。」
心日の拳が警官の胸を貫いた。
「そして首をはねるまで、(あいつらは)動き続ける。」
父親の言う通りだった。胸を貫いても、警官のダメージになってはいなかった。さらに困ったことに、突き刺した腕が抜けず、身動きが取れなくなった心日は、片手で応戦するしか無くなってしまったのだった。
防戦一方の心日に対し、有利に攻撃を展開していた警官であったが、なぜかその攻撃を止めてしまった。なんと、警官は心日を頭からかぶりつく準備に入っていたのだった。あごの力で頬の肉を引きちぎり、心日の頭を丸呑みできるほどの大きさまでパックリと口を開いた。
「わあー」
心日は、恐怖のあまり頭を左手でガードし、目を閉じてしまった。万事休す!これで終わりかと思われたその時、
「しょうのない坊やだね。」
ライダースーツの女だった。刀で警官の大きく開いた喉をつき、長い右足でその胴体を蹴り上げた。警官は飛ばされて、心日の腕が外れた。
「坊や何してんだい。こんなやばいところで、」
「はぁ!良かった。でも、…どうして。」
九死に一生を得た心日は、安堵しつつも混乱した。
「グゥオー。」
そこへ蹴飛ばされた警官が早くも襲ってきた。
「話は後だね。早く逃げな!武器も持たずに、こいつの相手はできないよ!」
確かにそうだと心日は自分の無鉄砲さを反省した。いくら力があっても、素手でこいつの首を跳ねることは不可能だと知るべきだったのだ。心日は向きを変え、駅に向かって走り出そうとした。
「私のペットと遊んでおいて、ただで帰るつもりかな?」
ホテルの最上階から不気味な声が聞こえ、上空から1人の男が舞い降りてきた。心日は瞬時に敵だと認識し、身構えた。
その男は長髪にタンクトップという出で立ちで、餓鬼となった警官と違い、見た目は全くの人間だったが、そいつの顔にある2本の鋭いキバと刺すような鋭い目は、心日をたじろがせるに十分な狂気をはらんでいた。
「チッ、しょうがないねえ。普通なら助けてやんないんだけど、さっきの借りもあるしね。」
女は警官を蹴飛ばし、心日と男の間に立った。
「ほう、お前の血で償ってくれるのか?」
「お前、私を知らないようだな。…フッ、大した奴じゃないね。この坊やを通してくれたら、今だけは見逃してやるよ。どうする?」
「そうだな。」
男は、手から槍を出現させ、いきなり女に振り下ろしてきた。女は心日を横に飛ばしながら、軽く5メートル程跳躍して避けた。しかし、そこに来ることを見越していたかのように走りこんできた警官が、女の背後を取った。警官はその太い腕で女の肩をがっちりと掴み、女が決して逃げられないように羽交い締めにした。
「これで勝ったぞ。なんて思ってんだろ?この下っ端が!」
女はそれでも慌てることなく、男を見下すように言った。
「強がりを言う女はシビれるねえ。謝るなら、俺のしもべにしてやってもいいぞ。」
男は長い舌を出し、ニヤついてみせた。
「強がりだと思うなら、さっさとその槍でついてみな!」
「そんなに、死に急ぎたいのなら、…死ね!」
男は槍をまっすぐ女の腹に突き刺した。
「グフェー。」
男が女に刺したと思ったはずの槍は、警官の腹を突き刺し、そこにいたはずの女は、心日の後ろに移動していた。女がどうやって移動したのかは、男にも、もちろん心日にも見えなかった。
心日があっけにとられていると、女は右手、…いや、右手に浮かんだ魔法陣から刀を出し、心日に渡した。
「坊やもやりたいんだろ?あの餓鬼は任せたからね。その目を持つ男は強いはずだ。頑張りな。」
心日は、刀を握りしめ、警官に向かって走った。しかし敵は心日には見向きもせず、女に向かっていった。警官と男の波状攻撃が、女を襲った。
「いい作戦だ。」
女はニヤリと笑った。
「お褒めに預かり光栄です。」
「だけどつまんない攻撃だ。」
女は2人から距離を取り、心日に言った。
「坊や!あんたはあんたの仕事をするんだよ。」
女は警官を想いきり蹴飛ばし、心日のところまで飛ばした。心日は機を得たりと力を込めて、刀を振り下ろした。だが刀は少しだけ首に差し込んだところで止まってしまった。
「坊や、そんな訓練も受けてないのかい。」
女は呆れ顔で心日を見た。
「おっと、よそ見はいけないよ。お嬢さん。」
タンクトップ男が、再び槍で突き刺してきた。女は応戦しながら、心日に話した。
「今は詳しくレクチャーできないけど、首の後ろの出っ張りの少し上から刀をまっすぐ振り下ろすように心がけてごらん。骨の間に刺されば一発で首を落とせるから。」
心日は首に刺さった刀を抜き、握り直した。警官はそんな心日のことは気にもせず、女の方に向かって走った。
再び女の方に向かう警官を、心日は高速で追いかけた。助走し、加速した心日の刀は、真っ直ぐ首に差し込まれ、今度はまるでバターにナイフを指すように、一刀で首をはねた。
「フッ。やればできるじゃない。私も遊んでないで終わらせるとしようか。」
女は襲ってくる男に左手をかざした。すると男の動きは止まり、苦しみ始めた。
「ぐっ、…なんだ?これは…何をした。あつ、熱い。グェー!アガー。」
男の体は内部から発火し、やがて全身が炎で包まれた。
「坊やの正体を知りたくて、少し遊んでみたけど、やはり小者は、小者ね。魂ごと消し飛んだみたい。」
男の体は全て灰となり、跡形もなく消えた。
心日が死体となった警官の前に、座り込んでいると、女が背後から首筋に刀を立ててきた。
「そのまま立ちなさい。」
ゆっくりと立ち上がる心日に、女は言った。
「質問だけに答えなさい。坊やは何者?」
「伊賀の…伊賀高の高校生です。」
「ふん!伊賀者の高校生がたった1人で、餓鬼を追うなんて聞いたこともない。しかも武器も持たず。」
「だから、オレは買い物に来てただけで…。」
女は刀を強く押し当ててきた。首筋からすーっと血が流れた。心日は、その女に対し、初めて恐怖を感じた。それは、ジェロニモから感じたものに近かった。
「余計なことは言わないの。」
女は前に回り、心日の顔を見た。今つけたばかりの首筋の傷が、まるで動画の早送りのように、あっという間に閉じていくのが見えた。
「不思議ねえ、…あのスピードは、伊賀者でも出せるとして、この回復力は何?あなた何か憑依させた?でも、アレやってないわよね、アレ…指を絡ませるやつ。」
警官にやられたはずの傷の痛みも、少しだけ引いているのが心日には分かった。女は刀を消し去り、心日の目を覗き込んで言った。
「あなたのその瞳の色に免じて、許してやります。今日あったことは、伊賀の人間に喋るといいでしょう。話した相手によっては、あなたを拉致し、頭の中の奥の奥まで覗くはずです。しかもスパイとしての容疑もかけられ、拷問されたり排除されたりするかもしれませんが。」
背中を向けて歩き出した女の先に、一台のバイクが現れ、女は轟音を残して消えてしまった。
心日が家に戻ると、琴波が玄関で仁王立ちして待っていた。
「しんちゃん!この写真はなに!」
スマホには、警官を追いかける心日の姿が写っていた。コメントには、「人間とは思えない速さで警官を追いかける男」と見出しがついていた。顔ははっきり写っていなかったが、服装や体型から、知っている者には、はっきりと心日だと分かる写真だった。
「血だらけの警官が走り出したから、大丈夫かなあって。それに、オレ、足速いから…。」
「あと!私が寝込んでいるのをいいことに、薬飲んでないでしょう。目を見たら分かるんだから。」
「…」
「ごめんなさいは?」
琴波の剣幕に押されて、心日は子供のように謝った。
「ごめんなさい。明日からちゃんと薬飲みます。」
「私に心配させたしんちゃんには罰を与えないとね。まずは、晩御飯食べながら考えましょう。家に入りなさい。」
結局、心日は食後の洗い物全てと、風呂上がりの肩もみ10分を毎日やることで許してもらった。
後で調べたのだが、ネットに上がっていたのは、あの写真一枚だけだった。動画や他の場所での画像はないかとヒヤヒヤしたのだが、不思議なことに、なにも見つからなかった。
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