第3話 猫使いvs鼠使い
3日経つと、
「
心日が教室で近くの子と喋っていると、肩を叩いてきた。
「おう!久しぶり。未知瑠先生との任務どうだった?」
「おっ!聞きたいか?聞きたいだろ?」
「なんだよ。そのもったいぶった言い方。そっちが話したいんだろ。いいよ、聞いてやるから話せよ。」
その頃になると、クラスの子が輝空の周りに集まり始めた。
「輝空話せよ。オレが聞いてやるぜ。」
「3日も休んだんだ。きちんと土産話するのが当前だろ?」
人だかりを掻き分け、輝空は教室の前に出た。
「仕方ねえなあ。じゃあ話してやるから、しっかり聞けよ。」
「今回の相手は、『てっそ』を憑依させる佐川って、おっさんだ。」
心日は意味の分からない言葉についていけなかったが、黙って聞いてみることにした。
俺たちは、そのおっさんの居場所を特定するために、七日市という所にある団地に向かったんだ。オレのお供は、少しばかり千里眼が得意な蔵王
ここで、「誰がお供だよ。」とツッコミが入ったが、輝空は構わず話を進めた。
佐川おっさんは、「お宅にネズミがたくさん住み着いていますよ。」と団地の住人を脅し、それを駆除してお金を荒稼ぎしていた悪党だ。何が悪いかって言うと、家を荒らしていた大量のネズミは、佐川自身が誘導した物だったんだ。つまり自分で毒を撒き散らかして、それを処理して金を取る、みたいな悪徳業者だったってわけ。しかもネズミの誘導に、「てっそ様」の力を使っていたから、うちの本部に見つかったというお馬鹿さんなんだ。
「てっそ様」を憑依させると、ネズミを操れるってことは知られているけど、そればかりじゃないんだ。動物としてのネズミが持つ能力も、佐川は取り込んでるから、聴覚と嗅覚が異常に優れていて、これが厄介だったんだ。下手に伊賀者が近づくと、すぐに感知されて逃げられる。そんなことがずっと続いていたらしいんだな。
そこで出番となったのが、われらが
調査は簡単でね。未知瑠先生が猫を操って、ネズミの分布を探る、ただそれだけだったから。で、2時間くらいすると、佐川のターゲットらしい家は見つかって、おれたちはいよいよ変装して、その家を訪問することになったんだ。
初めは、どうやって家の人と話すのか心配だったけど、そこは主婦の気持ちが分かる未知瑠先生。バッチリやってくれたね。……
「ごめんください。」
未知瑠先生が社員。輝空たちはバイトという形で、ターゲットの家を訪問した。
「どちら様ですか。」
インターフォン越しの声は、初めのうち、やや警戒しているようだった。
「ネズミの駆除をさせてもらっています。」
「あー、それなら結構です。もう依頼しましたから。」
「私共なら、半額で駆除いたしますが。」
やはり、半額という言葉は強い。それに興味を持った住人は輝空たちを玄関に通してくれた。
「何という業者に頼まれましたか?」
「これです。」
未知瑠先生の問いかけに、そこの婦人がすかさず出したパンフレットには、佐川駆除と書いてあった。一同はニンマリとし、佐川確保を確信した。
「同業者のことを悪く言いたくはないのですが、佐川さんは悪い噂を聞きますよ。自分のところのネズミを離して、家を汚染させておいてから、駆除のセールスに来るとか。」
「まあ!」
住人は、すっかり信じ込んでいる様子だった。実際、本当の話なのだが、相手が噂話だと言っていることをすぐ真に受けるから、佐川に引っかかるのだと輝空は思った。
「解約されてはどうですか?ただ…。」
「ただ?」
「違約金なんて請求してくるかもしれません。そんな時は、私どもで交渉しますので、佐川さん見えたら、こちらにお電話いただけますか?」
主婦はすんなりと受け取り、輝空たちは笑顔で退散した。これで佐川が来たことが、即座に知らされることになった。いわばワナが完成したわけだ。
輝空たちは、その家から離れて電話を待った。待ち伏せという形を取らなかったのは、言うまでもなく佐川の察知能力を警戒してのことだった。その日から、喫茶店での退屈な電話待ちが始まった。そこも、ずっといるわけにはいかないので、近くの公園で、体を動かしたり買ってきた弁当を食べたりした。唯一、メンバーの中で、
輝空たちが家に駆けつけると、佐川はすでに察知して逃げようとしているところだった。佐川が素早く逃げられなかったのは、未知瑠先生が事前に放しておいた猫たちのおかげだった。家の前は、猫が佐川とネズミを取り囲み、まさに一触即発の状態だった。
猫対ネズミとくれば、勝敗は明らかな気がするが、その後がカオスだった。こんなにいるのか、というくらいのネズミがその家から出てきて、未知瑠先生の猫を襲い始めたのだ。地面はネズミで埋め尽くされ、猫1に対して、10匹くらいの割合でネズミが襲ってきた。その上、てっそが操るネズミは岩でも噛み砕くくらいに強化されているので、輝空には、猫がかわいそうに見えるほどだった。まさに窮鼠猫を噛むの状態が続いた。未知瑠先生も同じことを思ったのか、猫を操るのを解いて、逃してしまった。
「猫がいなくなればもうこちらのものだな。逃げさせてもらうぞ。」
佐川が勝利を確信したかのように、笑いながら言うと、
「
未知瑠先生が合図を出し、隼之助と輝空は、臨戦態勢に入った。
隼之助は高速の吹き矢で、ネズミを一掃する中、輝空は「ぬってっぼう」を憑依させて、体を極限まで柔らかくした。ほぼスライムのように変化した輝空は、鋭い歯を持つネズミたちをことごとく弾き飛ばし、佐川の体にまとわりついた。
こうして、佐川までの一本道ができ、未知瑠先生はそこを悠々と歩いてきて、佐川の前に立った。佐川の顔が青ざめ、震えながら未知瑠先生を見た。
「ありがとう、輝空くん。離れていいわ。」
そう言った未知瑠先生の後ろには、はっきりと巨大な猫が現れていた。化け猫だ。
ガブリ
化け猫は佐川の首にかぶりついた。ただ正確には、佐川の魂にかぶりついたのだが…輝空にも他のものにもそう見えた。こうして、佐川は魂までも捕らえられ、伊賀に連れていかれた。
「どうよ。なかなかの活躍だろ。」
話終わった輝空は、全員の賞賛を期待していたが、違った。
生徒たちは黙って席に着き、前を向いた。中にはなぜか怯えているような生徒もいた。
「輝空くん、嘘はいけませんよ。」
輝空の後ろに、未知瑠先生が立っていた。輝空も先生に気づき、慌てて席に着いた。
「あなた、ネズミが嫌いで、必死で避けながら歩いたから道ができたのでしょう?はっきり言って、もう少しで作戦が失敗するところでしたよ。」
「それに、最後のは何ですか。それでは私はまるで化け物ではないですか。私を見て怯えている子がいますよ。」
未知瑠先生は若干怒っているように見えて、教室は張り詰めた空気に包まれた。
「でも、ここの3人が、佐川を捕らえたのは、事実です。なかなか捕らえられなかったのですから、大手柄ですよ。3人ともこの調子で、技を磨いてください。」
最後は笑顔で3人を褒め、全員から拍手が起きた。
休み時間、輝空たち3人が集まっているところへ、心日も混じった。
「3人ともすごいね。ああいうのって、オレもいつか呼ばれるのかな?」
「なんもスキルない奴は無理じゃねえの?」
「唯一、そんな突き放すように言っては、失礼でしょう。心日も、何か1つ技を身につければ、いつか呼んでもらえるってことですから、焦らなくてもいいですよ。」
「それに、すごいってほどの相手ではないよ。」
輝空がポツリと言うと、他の2人も頷いた。
「そ、そ、風磨の下っ端。」
「佐川って人は、下っ端?」
これまで捕まえられなかったと聞いていたので、心日は下っ端などとは思っていなかった。
「下っ端さ、佐川は『てっそ』の力を持っていたことが厄介なだけで、奴自身は何も技を使えなかったし、武器も持ってなかったんだから、あいつ倒したって、なんてことないんだよ。本当は。」
輝空が吐き捨てるように言った。
「下っ端だから、なかなか捕まらず、放置されていたんですよ。」
「でも、下っ端のネズミに震えてたのもいたがな。」
唯一が痛いところをつくので、輝空は拳を向けて威嚇した。
「もっと頑張って、早いとこA組に上がらなきゃな。餓鬼をぶちのめせねえ。拳は餓鬼に使う。」
教室に帰ると、唯一が輝空に小声で話しかけてきた。
「心日とはあまり関わらない方がいいぞ。」
「?」
「じいちゃんが言ってたんだ。理由は言えないけど、近づくなって。」
コウキは顔をしかめて言った。
「理由は分からないって何だよ。いじめか?オレはオレの考えで動くからな。他人の噂なんか関係ねえ。」
「まあ、勝手にするさ。」
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