第8話 略奪

「話ってなんだ?林道さん。」

部室には、呼び出した張本人である林道さんしかいなかった。部室に呼び出したのだから、みんなも呼んで部活の話でもするのかと思っていたが、どうやら違うらしい。

「突然呼び出しちゃって、すいません。実は、どうしても言いたいことがあって。」

「いや、大丈夫だけど…それで、話って?」

女子と二人きりだなんて、唯に見つかったらどうなるか分からない。早く切り上げよう。そう思っていたが、

「私、先輩のこと好きなんです。」



ーーー何言ってるんだ?

反応できなかった。いや、反応したくなかった。そして、次の瞬間には。


「ーーーっ」

唇に柔らかい感触。間違いなく、キスをされていた。

ーーあの時のことが、フラッシュバックする。

反射的に、林道さんの肩を掴んで突き飛ばしてしまった。

「うっ、…もぉー、そんなことしないでくださいよ、痛いじゃないですか。でも、いいです。先輩のキスを奪うことができました。」

「…」

なんで、どうして。こんなことするんだ。そう言いたかったが、言葉が出てこない。

「…僕には…彼女、が…いるんだ…ぞ?しってる…よな?」

「ええ、知ってますよ。だから、奪ってあげます。」

理解できない。何を言っているのか。気をつけていたから、しばらく感じていなかったこの感覚。ーーー怖い。

「じゃ、また部活で。…来ますよね?」

従わなかったら、どうなるのだろうか。それが分からないから、従うしかない。



放課後。いつも通りの部活だった。…こんな時に限って、唯は休みだ。いや、幸運だと言うべきだろうか。今日あった出来事は、絶対に知られてはいけない。

部活中、粘りつくような視線を終始感じていた。視線を感じる方をむくと、いつも林道さんがこちらを見ていた。恍惚とした、うっとりしたような表情だったと思う。目が合うと、にっこりと、微笑む。普通は嬉しいのだろうか。しかし、今は全然嬉しくない。

「じゃ、俺帰るわ。おまえら、戸締りよろしくな。」

正直、帰って欲しくなかった。涼太にはずっと居て欲しかったが、病院に行くらしい。

「…ねえ、先輩。2人っきりですね♡」

口数が少なかった林道さんから、そんな言葉が出る。

「…そうだね。」

「私を彼女にしてください。

「…だから、僕には唯が…ぁっ!?…かはっ………」

「まだそんなこと言うんだ。」

なんだ、これ…首を絞められているのか…?

「や、やめ…」

意識が朦朧とする。

「おやすみなさい、先輩♡」

林道さん…いや、林道は…不気味な笑顔を浮かべていた…










「…ここ、どこだ?」


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