第8話 「これが私たちの怒りです!!」

(これで……っ!)

 魔力で構成された矢が空気を切り裂き飛翔し、最後の鳥人ハーピーを射抜く。

 甲高い悲鳴を上げ墜ちていくそれをマリアは冷静な目で見つめると、目を閉じ精神を集中させる。

(魔力感知……反応無し……。空には……もう居ない、かな?)

 索敵を終えたマリアは地上へと降り、咆哮と雄叫び、金属同士がぶつかり火花を散らす音の方向へ足を向ける。


「はっはーーー!!調子付いてたみてぇだけどよぉ!所詮人間だよなぁ!!?」

 犬人コボルトの振り下ろした剣が盾にぶつかる。人間を遥かに超える腕力に受けた防衛隊の男が苦悶の声を漏らす。

「くっ…!」

 その攻撃は盾を傷付けることは敵わないまでも、衝撃を通して男の手を痺れさせるには十分なようだった。

「そらそらまだいくぜーーー!!いつまで耐えられるか数えてやっかぁーーー!?」

 乱暴に、微塵の技術も感じさせない乱打が盾を叩く。

「はっ!」

 そこに、横から槍の穂先が犬人コボルトの一匹を狙って放たれる。

「おおっと!」

 しかしその一撃は掠りもせずに、犬人コボルトは後ろに跳躍してかわす。

「大丈夫か!?」

「は、はい!」

「後ろに下がれ!」

「了解です!」

 隊列を入れ替え、庇った男が前に出て盾を構える。

「やる気だけじゃ勝てねえぞ!!えぇっ!?」

 ぐっと脚に力を籠め、犬人コボルトが勢いを付けて突進する。

「ぐわぁっ!?」

 突進の勢いと、下から切り上げるような一撃に盾が弾かれ、男の胴体が無防備に晒される。

 それを見て犬人コボルトは勝利を確信したのかにやりと鋭い牙を見せて笑みを浮かべる。

「頑張ったみてぇだがここまでだぜクソ人間」

 返す刀が振り下ろされ、男の肩から胴を斜めに切り裂こうとする。

「人間を―――ナメるな!」

「ぎゃっ!!?」

 その瞬間、離れた場所に居た弓兵の一人が放った矢が犬人コボルトに命中し、彼はその衝撃で吹き飛んでいく。

 矢はその体を貫通すると衝撃音と共に犬人コボルトを木に縫い付ける。

「く……クソがぁ……っ!」

 口から血を吐き、犬人コボルトはこちらを恨めしく睨みつけると、そのまま動かなくなる。

「や、やった……?」

 一瞬、その場の誰もが静止した。

 まさか、という驚きが両者の間に流れたからだ。

「ちっ……!おいてめえら!遊んでんじゃねぇ!本気で狩れ!!」

 リーダー格らしき、金属製の胸当てプレートアーマーを纏った犬人コボルトが檄を飛ばすと、彼らは獣の唸り声を上げて襲う。

 豚人オークは腕力と重さを活かした攻撃で防衛隊を盾の上から棍棒で殴りつけ。

 犬人コボルトは獣の俊敏さで翻弄し、隊列を徐々に乱していく。

「ぐわぁっ!?」

 盾の隙間から覗いた僅かな隙間に、犬人コボルトの突き出した剣先が防衛隊の男の肩口に食い込む。

 男は痛みに声を上げると持っていた盾を落としその場にうずくまる。

「崩れたぞ!てめぇら!一気に押し込めぇ!!」

 雄叫びが響き攻撃の激しさが増す。

「くそっ!弓兵隊!援護は……!?」

 防衛隊の隊長が声を上げる。

「む、無理です!やつらすばしっこくて狙いが……!!」

 ぎり、と隊長は歯ぎしりをする。

(ここまで、なのか…!?)

 隊列を維持するのが困難になってきている。

 そのせいか隊員達は恐慌に陥る寸前だ。

 兵士であった隊長はなんとか持ち堪えているが、それも時間の問題だろう。

(せめて……!せめて一矢報いねば……!)

 そう思って眼前の敵を見据えたその時、隊長の目に飛び込んできたのは。

「良かった。間に合いました」

 疾風の如き速度で木々の間を縫うように走り、すれ違いざまに腰に帯びていた独特の形状の曲刀を抜剣し、犬人コボルトの隊長の首を一撃で撥ね飛ばした勇者の姿だった。


 マリアは自らの足で急制動を掛けると大地を抉るように跡を付け停止する。

 刀に付いた血を払い納刀すると、宙を舞った犬人コボルトの隊長の首が地面に漸く音を立てて落ちる。

「癒しの光よ《ヒーリング・ライト》!」

 マリアが手を掲げ唱えると、防衛隊を暖かな光が包み込む。

「これは……」

 防衛隊の誰かが呟くと彼らの傷口が徐々に塞がり、痛みが引いていく。

 彼らは傷口に触れ、手を握っては開いてといった動作を繰り返して状態を確かめる。

「回復魔法を掛けました。恐らく皆さん動けると思います!」

 言いながらマリアは後方へ跳ぶ。

 すると先ほどまでマリアの立っていた場所を、棍棒が叩き付ける。

「よくもやってくれたなぁーーー!!」

「隊長の仇だぁぁぁーっ!!」

 乱暴に振り回される棍棒を躱していたマリアだったが、豚人オークの一言で動きを止める。

「仇……ですって?」

 足を止めたマリアの頭部目掛けて棍棒が垂直に振り下ろされる。

「勇者さまっ!?」

 防衛隊の隊長が声を上げ、目を背ける。

 しかし―――。

「なら―――」

 その一撃を、彼女の細い指が掴む。

「な……っ!?」

 豚人オークが力を籠めるが、押しても引いても棍棒は微動だにしない。

 そして豚人オークは気付く。

 ―――彼女の目が、怒りで燃えるような意思を湛えていることに。

「これは―――貴方たちが奪った無辜の民の仇―――その一部分であると知りなさい」

 彼女が力を籠めると棍棒は音を立てて砕け散り、同時に彼女を放った蹴りが豚人オークの身体の中心を貫き、木々を何本も薙ぎ倒して吹っ飛ばす。

 残された亜人はその様子に恐れ慄き微動だにしない。

「防衛隊各員!敵将は討ち取りました!追撃戦に移行!残存戦力を殲滅してください!!」

 刀を鞘から抜き放ち、眼前に振り下ろすとマリアは叫ぶ。

 鬨の声を上げ活力を取り戻した防衛隊は、残された亜人達を一掃することに成功。

―――人類最初の反撃は、一人の死者を出すこともなく幕を閉じることとなった。






 イベント3:防衛隊VS獣人部隊(マリア参戦)







 イベント4:撃退(俺たちの戦いはこれからだぜ!)

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