幕間1 獣人《ビースト》
メルキス、という地方がある。マリアやアメリアの住んでいた町であり、その名を冠する城は三方を山に囲まれ、かつて人類の大国の一つであった。
だが現在、その城に本来居るべきはずの人間の姿は無く、代わりに城内を彷徨っているのは亜人―――とりわけ獣人系の魔物だった。
城の柱は所々がひび割れ、城壁にはあちこちに傷が入っており、戦いの激しさを物語るように血痕すらもそのままにされていた。
その奥―――玉座には鋭い目つきの
「おいまだ人間共は見つかんねえのか!!?」
怒気を含んだ咆哮が玉座の間に響く。建物が震え、その振動で天井から埃がぱらぱらと落ちてくる。
「す、すみません付近を捜索しているのですがどうもやつら……魔法で痕跡を消したようで……」
彼ら―――魔王軍
それが彼に与えられた任務だった。
だというのに残された人数、それもそう多くはないたかだか数十人規模を見つけられないと言うのは―――獣人軍団を率いる最強の人狼―――ヴォルファードには我慢がならなかった。
彼はまた傷つけられた片目の傷をなぞる。この傷は逃走された人間の王が一矢を報いた証であり、彼にとっては屈辱の印だった。
(あぁ……憎い。憎いぜ……!あのクソ人間……!必ず見つけ出して生きたまま腸から喰らってやる……!どうせ年取った男なんざ本国に送る価値すら無ェんだ……!殺っちまっても良いだろう…っ!!)
知らず、唸り声を上げるヴォルファードに配下の
「ほ、報告します!!」
「あァん?」
ヴォルファードの目の前に現れたのは、彼の記憶が正しいなら付近へ斥候に行った
彼はそれを見て唇を歪めた。
「おいおいおいおいおいおい!どうしたってんだその怪我ァよォ!まさかお前ら腹減って共食いしたってんじゃねェだろ!?誰だ!?誰にやられた!!?まだそんなやる気があるやつが残ってんのか!?」
ヴォルファードは玉座で組まれた足を解くと、
彼はその痛ましい傷に鼻を近づけると臭いを嗅ぐ。
「~~~~~~っかァ!!コイツはたまんねェなぁ!おいお前」
ヴォルファードは腕に布を巻いた
「魔法で斬られたな?しかもこの臭い……四大属性じゃあねェ。……魔力そのものを斬撃にするタイプだな?」
「は、はい」
ヴォルファードの推測に小さく頷く
「くくく…っ。なんてこったぁ!俺の目ン玉持ってった爺の他にこんだけ綺麗な断面付けられる魔法使いまで居んのかよ!!狩り甲斐があるじゃねェの!!あぁ!?」
ぎょろり、とヴォルファードは傷付いた
「で?どこでやられた?」
「メ、メルキスの……町ですっっ!」
「あぁん?寝ぼけてんのかテメェ。アソコは今ぁ無人の筈だろうがよ」
ヴァルファードが握った腕に力を籠める。
「ひぐっ……!で、ですがそこで……人間の……!やたら強い女が……っ!そいつはっ!自分のことを『勇者』と名乗って……っっ!自分が帰ってきたと伝えろって……!がっっ!」
『勇者』という単語を聞いた瞬間、ヴァルファードは茫然とし手を放す。
「勇者……?勇者っつったか。……オイオイオイオイマジかよ!!!!最高じゃねえか!!あぁ!?」
ヴァルファードは甲高い、絶叫にも似た不気味な笑い声を上げる。
彼は興奮していた。一度は行方をくらまし、死んだとまで言われていた勇者が実は生きていて、自分の膝元に居る。
「『獲物』としちゃあ最上級だなあ……。喰っちまっても……良いよなぁ」
ヴァルファードは長い舌で、自分でも気付かぬ内に口元を舐め回していた。
「
ヴァルファードは雄叫びを上げる。獣人の群れは彼を恐れながらも、頭目として敵に回さぬよう従う。それは獣としての本能だった―――。
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