第20話 《二つの太陽》

【6日前】

とある青年の日記

北斗七星の柄杓の中に星を見つけた。

この位置に星があるなんて、今まで気がつかなかった。明日も観察してみよう。


【5日前】

とある青年の日記

昨日見つけた星が輝きを増している。

おそらく見間違いではない。

距離が近づいているということか?

しかし、あの星と地球との間には途方もない距離があるはず、もっと近づいて来たら彗星のように見えるのだろうか。


世界的な天文台からの報告

「巨大な隕石が近づいています。

推定結果、月よりも大きな隕石が地球にまっすぐ向かってきているのです。2日前まで、そこには"何もなかった"はずでした。

詳しいことは分かりませんが、常識では考えられない速度で、隕石は進んできます。

このままでは…"地球はおしまい"です。」


【4日前】

とある青年の日記

あの星は確実に大きくなっている。

明らかにおかしい。

歴史的な現象なのではないだろうか?

ニュースは報道しないのだろうか?


公表されない緊急の国際会議にて

A「報告では、隕石は4日後には地球に激突…

回避する方法は…ない。とのことです。」

B「なかった場所に突然現れただと!?そんなことがあり得るのか!?信じられん!」

A「すでにその隕石は、肉眼でも観測できるほどに近づいています。早急な判断が求められるかと…。」

C「我々に何ができると言うんだ…。ありったけのミサイルでも打ち上げろというのか…?今の世界情勢で、いきなりそんなことをしてみろ。たとえ隕石を排除したとしても、それ以上の戦争が避けられない状態となるのは、目に見えている。」

D「打つ手なし…か…。」

E「歴史的に地上の生命がなす術なく壊滅した事象など、幾度となくあった。その時が今我々の前にやってきた。それだけのことだ…。」


【3日前】

とある青年の日記

あの星は毎日、倍以上に大きくなっている。

とても綺麗だ。

だがあの星を見ていると、何か得体の知れない冷たさがそこにある気がする。

何が原因だろうか?


とある資産家の通話内容

「例の件、準備はできたんだろうな?」

「もちろん。できております。」

「そうでなければ困る!多額の資金がかかったのだ…。」

「では、計画は翌日…ということで。」

「うむ。準備は十全に済ませておけ。」

「承知致しました。」


【2日前】

とある青年の日記

今朝、ネットでも人々がざわつき始めた。

それもそうか。

あの星はついに、月と同じ大きさだ。

そして、昼ごろにはあらゆる電子機器に不調が出始めた。

二つの月を眺めている今この時間、すでにネットは機能していない。パソコンの電源は点くが、砂嵐を映すばかりだ。

たった今、電気が消えた。

星も月も綺麗に見える。


とある資産家と執事の会話

「電話が通じなくなった…。車も不調をきたしている。つまり、複雑な電子機器から順に、能力を失っていっている気がする…。今生きている家電は何がある…。」

「はい…ご主人様。…すでに、問題なく機能しているのは、電球程度ではないでしょうか…。」

「この分だと、宇宙船の機能もダメになっている…。それどころか…、電子化した資産もどうなったかわからない。おしまいだ…。」


【1日前】

とある少年の日記

もう夜に観察する必要はない。

まるで、二つの太陽が輝いているようだ。

不思議な光景だ。

あの星は光を放っているのに、暑くはない。

もう理由を考えるのも無駄だろう。

身勝手に暴れまわる人々も現れ始めた。

まさか突然こんな日がくるとは、思っても見なかった。

5日前、世界なんて無くなってしまえと思ったのは事実だ。この数日、現実から目を逸らしてきたはずなのに、もう次の現実を見るしかなくなった。

きっとバチが当たったんだろう。

当然だよな…。

家族をこの手で………


【1日後】

大きな球体型のゲーム機に乗り込んだ少年

「なるほど。こうやって…無くなったんだね…。えっと…なんて名前だっけ?」

そして、それを眺めていた老婆

『"ちきゅう"…。長く繁栄した星だ。』

「でも……、"僕たちの星"が壊した…。」

『事実としてはそうだ。しかし、我々の星が衝突せずとも、あと数年で地球は滅んでいた…。その前に"天体情報の保存"をする必要があったのだ。それによって、地球とその上に生きていた生命体全ては、今も私たちの星が管理するシステムの中に生きている。我々の星に接触した記録は消えているがな。』

「大きなお世話…ってやつじゃないかな?」

『生命体は全て貴重なサンプルだ。自然消滅は…宇宙にとっての情報の喪失だ…。』

「それも…エゴじゃないかなぁ…。」

『………我々の意思は、宇宙の意思だ。君という個体は、いつも天体の終わりを追体験したがるが、私には理解できないな。』

「そうか…。かなしいな…。」

少年は、機械以外に何もない殺風景な部屋から、真っ暗な窓の外を見つめた。

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