第19話 《噂とくしゃみ》
心理テストというものをご存知だろうか。
なんの気無しに口から出た回答から、その人の精神性を読み取れてしまうというものだ。
その人の悩み、仕事に対する向き合い方、今欲しがっているもの、恋愛観など、心の奥底にある色々なものを引き出すことができることから、警察の取調べにも使われることがあるとかないとか。
そんな心理テストには、正解してはいけない問題というものがある。所謂、サイコパス診断用の心理テストである。このテストに正解した人間の精神性は、どこか一般人のそれとは違う面を持っていることを明らかにしてしまう可能性があるテストだ。
怖いもの見たさというやつもあって、自分が知っている情報というのは、仲間内で披露したくなるものである。
電車内、下校中の女子学生三人が話をしている。学校がテスト期間で、下校時刻が早まったこの時間帯は、車内にはほとんど人がいない。いつもなら小声で話す空間が貸切状態、他の人に気を使う必要もないからか、不思議と話は盛り上がった。
A子「昨日さ。こんなの見つけたの!」
B乃「なになに。えー…なにこれぇ。」
C美「A子は都市伝説とかオカルトとか、そういうの好きすぎ。学校でバレたら、男子もドン引きだよ?」
A子「でもなんか、自分の知らないことって興味が湧かない?すぐ近くに知らない世界があるって思うと毎日が楽しくなるんだよね。」
B乃「ポジティブシンキングってやつだ。でもAちゃんの趣味は変わってると思うよ。そういうとこも面白いから、私は好きだけどね。」
C美「そうやってB乃が甘やかすから、A子がこういうの調べるのやめないんでしょ!」
A子「私の目の前にも現れないかなぁ。非日常な出会い。」
B乃「宇宙人とか?UMAとか?」
C美「やめてよね。"口は災いの元"って言うでしょ?私は今の平和なままがいい。」
A子「それはそうと、二人とも聞いて!"次の問題には正解してはいけません。正解した人は、危険な素質を持っています。"だって。」
B乃「Cちゃんどうしよ…。全然ポジティブな内容じゃなかったよ…。」
C美「でしょ?今までも時々あったよね。怖いのとか、危なそうなのとか。」
A子「でもこれを知ってれば、周りに危ない人がいたらわかるよ!」
C美「そんな普通じゃない質問したら、探ってるのバレちゃうと思うよ。」
A子「あ…。そっか。」
B乃「まぁ、やってみようよ!どうせ正解なんてしないし。」
A子「よし、じゃあ一問目。」
C美「しょうがないなぁ。」
三人はいくつもの問題に回答した。しかし、一つとして正解することはなかった。
A子「良かったね、二人とも。私たちは普通の人だ。」
C美「そうじゃないと困る…。なんでちょっと残念そうなの?」
B乃「Cちゃんキレないキレない。さ、着いたよ。降りよ、二人とも。」
三人は電車を降りた。
隣の車両には同じく帰宅途中の男子学生が乗っていた。
D助「やっと静かになったな…。」
(明日もテストだっていうのに、なんであんな気楽に笑ってられるんだ…。くだらないことばっか喋ってないで勉強しろよ。)
ドアが閉じる。
電車が走り出した。
「テストってなんであるんだろ。」
(紙の上に並べられた問題に、正解を書き込ませることになんの意味があるんだろう。ふと考えてしまう。)
「はぁ…。」
(授業を真面目に受けているか確かめるため?…違うな。人間に順位をつけるためだ。ああいう何も考えていない奴らと、俺みたいにしっかり頑張っている奴。それをハッキリさせるためだ。)
「がんばらなきゃ…。」
(テストは自分の存在を証明するためにある。親に、学校に自分の実力を示すためにある。正解を書くことには意味があるんだ。そう思わなければやってられない。)
「こんなこと考えるのも時間の無駄だな。
さぁ、次の問題は…。ん?」
ふと彼は、右にあったうるさい車両とは反対側に目を動かす。彼のいる車両の端の方。
「そういや、ずっとくしゃみしてた変なおっさんも降りたな…。あの駅、うるせえ奴しか住んでねぇのか…?」
電車を降りた後、ホームを彼女たちとは逆方向へ歩き出しただらしない格好の中年の男は、不満を漏らしていた。
「くしゃみがやっと止まった…。電車の中だってのに、一体なんだったんだ…。」
("噂をされるとくしゃみが出る"というが…こんなにくしゃみが止まらない日は初めてだ。イライラするが…。まぁ、山ほど恨みを買ってきた人生だ…。俺の噂をしてるやつは、いくらでもいるか。)
「憂さ晴らしでもするか…。まぁた実験材料を調達しないとなぁ…。」
歪んだ彼の表情は、苦しみながら笑っているようだった。
駅を出た後も彼女たちは、同じ方向に向かって歩いていた。
B乃「そういえばさ。さっき隣の車両から、ずっとくしゃみが聞こえてたよね?」
A子「え?そうなの?」
C美「気づかなかった。B乃、耳いいよね。」
B乃「それほどでもぉ。」
「へぇっっくしゅん!!」
それは彼女たちの少し後ろから。
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