第9話 《動かぬ影》
小学生の時の話だ。
うちの学校には、校庭の端の方に小さな畑があって、そこから校舎の裏に回る道がある。
そこにそれはあった。丸っこい形をした影。
時間帯は関係なく、朝登校してきた時にも夕方校庭で遊んでから帰る時にも、その形は変わらないという不思議な影だった。
休み時間校庭で遊んでいる時、たまに視界に入っていたが、気にならなかった。
いつだか周りに物がないのに影だけぽつんとあるのが気になって、その日のうちに何回か見に行ったが、日が傾いてもその形が変わらないことに違和感を覚えた。
その時に、これは自分だけの秘密にしておこうと決めた。誰にも知られない秘密を持っているということが、当時は何となく誇らしかったのだ。
次の日、空中に何かあるのかと木の枝を振り回してみたり、石を放り投げてみたりした。その次の日には、畑の水やりのついでに影の周りにも水を撒いた。
連日色々試してみるが、影は動かなかった。
そんなある日、誰にも見つからないように虫眼鏡で影の映った地面を焼いていると、知らない少年に声をかけられた。
「何をしているの?」
少し不思議な響きがあったように感じた。子供なのに、静かで落ち着きがあって、すこし枯れたような声だった。
しまった、とその時は思った。自分の秘密を誰かに知られてしまったのが、ショックだった。
「誰にも言わない?」
少し残念そうにそう聞くと、少年は素直に頷いた。
初めて他の誰かに、秘密にしていたその影について説明した。
その最後に、これは一体なんの影なのだろう…と疑問を漏らすと、少年はあっさりと答えた。
「これは、UFOの影だよ。」
その声を聞いた後すぐに、別の方向から声がした。そちらを振り向くと、クラスメイトたちがこちらを不思議そうに見ていた。虫眼鏡で何をしているのかと聞かれて、返答に困って振り返る。そこにはもう少年の姿はなかった。そのうえ、足元にあったはずの影も消えていた。
結局影の正体は今でもわからないままだ。
そして時々思い出しては、疑問に思う。
少年の言葉は本当だったのか。そもそも、あの少年は何者だったのか。
そして、今もどこかに"あの影"が落とされているのだろうか。
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