第8話 《流行強盗》

 世界中でテロが頻発していた。物騒な時代だ。ほんの数年前までそんな兆候はなかったはずなのに、今では世界各地の人々がその脅威に怯えていた。


 ほぼ全ての国でテロが起こっている事実が、毎日のようにテレビで報道されている。

 テロが起こった国では大抵の場合、国が付近に住んでいる人たちに被害が及ばないよう彼らの条件を飲み、穏便に済ませることが多かった。なぜなら、世界各地でテロを起こしている連中はとても賢く、国に対して確実に用意できるものを要求し、それを回収した後は潔く撤退する。国は迷惑するも被害は小さいといった風で、むしろ人命救助が優先されるが故に、国は要求を飲まざるを得ないといった内容のものばかりだった。もはや世界的に流行しているテロ行為を止められるものなど存在しない、という専門家の意見まであった。


 この国は平和だから、といつも話していた彼女の国でもテロが起こった。家から近いわけでもないのに、緊張が走る。

「T美術館に立て籠もったテロ集団は、館内において細菌兵器を使用したと供述しており、一帯の市民の避難を最優先に対テロ防衛隊の活動が続いています。」

と報道されていた。

「これから世界はどうなっていくんだろう…。」

 テレビ画面を眺める彼女の口からも、世界の人々が感じているであろう漠然とした不安が漏れ出した。


 その頃、報道されていた美術館の中では、お目当ての部屋から完全に人払いが成されたことを確認したテロ組織の…もとい怪盗団のリーダーが声を張り上げていた。

「レプリカを持ってこい!同じものと入れ替えるんだ!飾られていた向きも間違えるな!元通りの場所に置くんだ!時間はたっぷりとある!何一つ証拠を残すんじゃないぞ!」

 テロ組織を装った怪盗団が貴重な美術品をせっせと偽物とすり替えていた。

「それだけじゃない。美術品に傷一つつけるんじゃないぞ!一つひとつが大金になるんだからな!」

 そして美術品たちはそれを求める者の手へと渡っていくのだった。


 コレクターという人種がいる。今回の場合は美術品コレクターである。世界のあちこちに点在する、貴重な美術品。その本物を手に入れないと気が済まない世界有数の億万長者が、怪盗団に依頼したのだった。

 計画は見ての通り、世界中で頻発しているテロ行為に便乗して美術館を占拠し、その中にある美術品をいただくというもの。もちろん多くの一般市民は気づかない。一般市民だけでなく国も、ついにうちにも現れたかと諦めるのだった。


 人知れずコレクターは私欲を満たし、怪盗団は国とコレクターから金を受け取り、丸儲け。

「これだから悪いことはやめられない。」

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