第7話 《鍵穴》

 僕の家の中にはいくつかの鍵穴がある。

 鍵穴の付いた引き出しが家のあちこちに点在しているのだ。いったい何がしまってあるんだろう…といつも気になっているのだが、開ける手段がない。

 両親は気にも留めないで生活している。それがなんとなく不自然で、両親には見えていないのかもしれないとさえ思えた。


 ある日、母に引き出しから物を持ってくるよう言われた時、その引き出しの中から1本のカギを見つけた。カギには名札のようなものが付いていて、ダイニングと書いてあった。

 直感的にこれがいつも気になっていた鍵穴のためのものだと気づいた。

 何か悪いことをしている気分が、僕を突き動かす。見つかる前に開けてしまわなければと、好奇心が止まらない。母に言われた物を届けると、すぐさまダイニングルームに向かい、一つ目の引き出しを開いた。


 そこには、木製のスプーンと次のカギが入っていた。木製のスプーンは子供用で、新品のようだった。見覚えがあるようなないような…と一瞬考えたが、今はそれどころではない。これからいくつもの引き出しを開き、宝探しをしなければならないのだから。


 次のカギを手にした僕は、名札に導かれてトイレの前の洗面台へやってきた。その引き出しには、小さなカエルの置物と次のカギが入っていた。次から次へと家中の鍵穴にカギを突っ込んでは、引き出しを開けていく。開けるたびにワクワクした。

 バスルームの前の脱衣所では浮かぶアヒルのおもちゃとカギ、父の書斎では見覚えのない絵本とカギ、母の寝室では小さくなった赤いクレヨンとカギ、そして物置の中ではおはじきの入った袋とカギを見つけた。

 物置の中で見つけたカギの名札には赤い文字で「2階」と書いてあり、それが最後のカギであるとわかった。


 2階には、僕の部屋の隣に開かずの間があった。ここまで何も考えずに、最初の勢いのまま家中の引き出しを開けてきたが、なぜかその部屋のカギだけは、開けてはいけない気がした。しかし、ついにここまで来たのだから、開けないという選択肢は好奇心が許さなかった。


 扉を開けるとそこには、女の子のための部屋があった。どうしてそう思ったかと言えば、可愛らしい家具たちが目に入ったからである。

 そこには、小さい僕と一緒に写っている小さな女の子の写真があった。


僕は思い出した。

思い出してしまった。

 どうして忘れていたんだろう…。一目散に母の元へ走って行き、泣きつく。廊下を走る音を聞きつけて、父も側に来てくれた。

 母は僕が落ち着くまで頭を撫でてくれて、父は優しい表情で、冷静に話を聞いてくれた。


 医師によると、幼い心が罪の意識に耐えきれないので、忘れていたそうだ。

 僕のせいで妹は死んだ。

 一緒に公園に遊びに行って、帰る途中だった。交通事故だった。信号はちゃんと守ったはずなのに…。あの日は僕が駄々をこねて、両親がついて行けないのに妹と二人で公園に遊びに行ったのだ。

もう二度と戻らない、自分以外の大切な命。

もう二度と忘れることはできない過去。

 両親はあの日の僕の行動を一切責めなかった。そのかわり、僕は妹の分も生きなくてはいけないと言ってくれた。


僕は二人分の命を背負って生きていく。

いつか妹に許される、その時まで。

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