第6話 《悪魔の知識》

 社長は経営の危機に瀕し、また生贄を欲していた。

 この社長は、全くの無名から一躍大企業を立ち上げたことで有名だが、その影には悪魔の力があった。

 悪魔は3つの願いを叶え、4つ目の願いを口にした者の魂を奪う。いつか悪魔の入った壺を見つけてからというもの、社長はこの悪魔を度々利用してきたのだった。

 社長は経済や社会について勉強して、立派な社長になったわけではない。悪魔について勉強し、悪魔の住処を探し回り、やっとの思いで悪魔の壺を手に入れて、成功者となったのだった。


 悪魔について熟知していた社長は、悪魔の提示するルールを予め知っていた。なので1つは自分で自由に使い、1つは悪魔が余計な事を言わないよう口封じに使う。1つは生贄となる者に悪魔の力を証明するために好きに使わせ、次の願いを口にすれば、そいつは魂を奪われる。そういった手法で、今まで何人もの天涯孤独なホームレスを生贄に捧げてきた。貧困の人間の発想は単純で扱いやすい。社長の思い通りに事を運んできた。


 そんなある日、会社の経営が傾いたのでまた悪魔の力を借りた。そしてまた生贄となるホームレスが一人連れて来られたのだった。

 しかし、今度のホームレスは突拍子も無い願いを口にした。

「この世の全ての情報を俺にくれ!」

 社長は焦った。今までのやつらは皆、大金だの永遠の命だの最高の美女だの高級料理だのを願ったのに、今回は全くの予想外。自分の目的が看破され、もう二度と悪魔の力を使えない。お終いだと思った。

 そんな社長を尻目に、そいつは次の願いを口にした。

「俺の魂を持っていってくれ…。苦しまないように…。」

 どうしてそんなことを願ったのか、社長には理解できなかった。悪魔は何か納得したようにいつも通り魂を抜き出して、壺に戻っていった。社長は少しの間、彼らがなにを思ったのかと考えていたが、自分に都合のいいように収まったのだし、問題はないとすぐに考えるのをやめた。これで元どおり、平穏な生活に戻れる。

 その数時間後のこと。社長は、座り慣れた豪華な椅子で、一瞬の強烈な光を体感することとなった。世界各地でものすごい音が響き渡った。その音が社長のビルに届く頃には、そこにはビルなどなくなってしまっていた。


 この世の多くの人々は知らなかったが、ごく一部の人間はその始まりを知っていた。

 核戦争である。





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