第5話 《なくなる家》
私の家はよく物がなくなる。
殆どの部屋が綺麗に片付けられていないのが悪いのかもしれないが、それにしてもよく物がなくなるのだ。
何も置かれていない床に落ちたはずの小さなブロックなんかが、ふとなくなって出てこない。あそこに置いてあったはずの小物が、いつの間にかなくなっている。これくらいなら、たまに起こっても仕方がないかもしれない。だが、飾っておいたパズルの端っこのピースがなくなった時は、さすがに不自然だと感じざるを得なかった。
なくなったものは、必要のない時に出てくることが多い。必要だからと家中を探し回って結局見つからなかったものが、1ヶ月も過ぎて今更出てくるなんて…と何度思ったことか。
しかし、本当に大切なものはなくなったことがない。大切なものは自分でしっかり把握しているだろうから、なくならないのが当たり前だろうと思われるのもごもっとも。
だがそういう意味ではない。
誰しも大切なものをなくしたことという経験が、一度や二度はあるだろう。なくしたことを知られたら母親に叱られる。そんなものをつい見失ってしまい、腹痛に悩まされるような体験が。
そんな時、あなたならどうするかは私には分からないが、私は小さい頃から決まって祖父の仏壇の前に正座して、見つかるようにとお祈りをした。
子供騙しかもしれないが、そうすることでなんだか少しだけ心が軽くなるように感じたのが始まりだった。
そして不思議なのはそこからだ。そんな重大ななくし物は年に一回あるかないかといった頻度だったが、お祈りしたなくし物は次の日までには必ず見つかった。
ただの偶然だと言ってしまえばそれまでだが、私は祖父が助けてくれているのだと信じたかった。
生前何度かしか顔を合わせたことはなく、写真でしか顔を知らず、声までは覚えていない。祖母からは、正義感の強い人だったと聞いている。よく覚えていないというのに不自然な話だが、私にはすごく優しく接してくれていたと確信している。そう思えば、この家にずっと住んでいたいと心から思えるから。
その頃、その家の誰もが知らない床下のごく狭いスペースでは、小さな小さな人型の影がいくつも蠢いていた。
彼らはどこかの国では有名な、床下の住人たちであった。彼らは言葉を持たず、彼らの頭上に住まう人間たちの真似をするのが好きな存在であった。そのため、たまに人間が使っているものが欲しくなって、盗みを働くことがあるのだった。
床下の住人たちは人間にとって少し迷惑な存在だが、この家には彼らに悪さをさせないストッパーの役割を果たす者がいた。
『こら!まぁた孫の大事な物を盗みおって!今すぐ返してくるんじゃ!!』
その声に脅かされ、彼らはお互いに顔を見合わせて、誰が返しに行くかと押し付け合い始めた。
そのうち一人が返しに行くのを見届けて、気難しそうな顔をした"老人の幽霊"は自分の位牌へと帰っていく。
『まったく…!これじゃあ、いつになっても成仏できんわい。』
しかし、その表情はどこか嬉しそうでもあった。
『これからも、可愛い孫の傍にいてやらねばのぅ…。』
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