第2話 《平手打ち》
大切な人を失った。
これ以上の理由が必要だろうか。
いつも理不尽だと思っていた。
生きているだけでこんなに苦しいなんておかしい。どうしてみんながヘラヘラ笑っていられるのかわからない。
人生には理不尽なことばかりだ。長生きするだけ理不尽を押し付けられ続ける。それに気づいた時、どうしても耐えきれなくなったのだ。
密室に七輪。
決して覚めることのない眠りについた。
一瞬眩しい光を感じて目を開けると、そこは美しい光が無数に舞い、太陽の光を透かしたような草原が広がり、果ての見えない地平線に暖かい風の吹く、見たこともない場所だった。立っているだけで、ただただ心地よかった。
不意に呼ばれた気がして振り向くと、そこにはあの人がいた。
嬉しくて嬉しくて、泣きそうになりながら抱きしめようと駆け寄る。
もうすこし、そう思った次の瞬間左の頬に痛みが走った。視界が揺れたと思ったら、そっぽを向いていた。もう一度あの人を見るとその顔は霞んで見えなかったが、その頰を伝う雫だけがはっきりと見えた。
一つ瞬くと夢のような景色は遠ざかり、二つ瞬くと真っ暗になった。
起きたのは病室だった。
何事もなかったかのように時が過ぎていた。
だが確かに自分の中に大切な何かを受け取ったことを、しっかりと覚えていた。それを左の頰に手を当てて声に出した時、それに続いて自分の中からたくさんの感情が溢れ出して止まらなくなるのを感じた。
「生きろ。」
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