第弐話 異国でござる。

ひゅごーーーーーーーーっ!


気づけば人家も判別出来ぬ高見より、おのれの身が落ち続けているのが分かった。


『うおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!』


出せる限りの声で叫んで何か対処できぬかとひとしきりあたふたしたが・・。

やはり何も変わりなくまた、出来る事とてない。


びゆーーーーーーーーーっ!


雲や霞をただすり抜けていくだけの身に、背を怖気がはしった。

新たなる生とやらもこれで一完の終わりなどという事は・・。

生まれた弱気を払うように、もう地形や木々などが判別出来るほどの近場に来た地面に虚勢を大声でぶつける。

『果てなく落ち続ける悪夢など~こわくなん~ぞ!!・・あ。』


ドゴーーン!

次の瞬間、大砲おおづつの爆発の只中にでもひとり置き去りにされたかのような爆煙、砂埃の舞う中でおれは物すごい衝撃音と頭を思いっきり大工の金槌で殴られたような痛みがはしって反射的に手足を無茶苦茶に振り回し飛び起きた。


『あーくそ~!・・いってぇーーぞッ!チッキショウ!』


そのあまりにも凄い痛みに涙が出て反射的に叫んでいた。


思いかえせばにも決して一粒だとて泣けなかったものを、痛みのせいで一発で目が覚めたように感じ、また己のすぐ近くに強い獣の匂いを嗅ぎ取って首筋の疼き、【知らせ】でとびおきた。

いつもの体さばきのはずだったのだが、着流しの丈が意外に長めに思えて、いつもと勝手が違った。今の己の丈に合って無かったのか・・。

『ととっと・・!』

やはり帯やら裾やらがぶかぶかなせいで、草履の足を砂地にすべらせて転んだ。


どっしゃッ!

『わぶっ!』

体がなまって感覚をつかみ損ねたか?


つい意識せずいつもの用心と腰の相棒に手をやるが、そのせいでさら起き上がるのにひまがいった。

格好つけるのを半ばあきらめ周囲に注意を向けると先の獣臭の元がわかったのだ。

砂埃も流れて体を起こしかけた真正面。

もう少しで一刀足いっとうそくの間合いの端境はざかいに入るかとも思えるほど近くに異様に大きな黒影が!実際に真ッ黒い全身に八尺をはるかに越す大柄な男!(粗末な腰蓑だけの着衣だった)が?精巧な牡牛の化け物の面をつけ、こちらに向かって牛にしては鋭い犬のような歯列を見せていまにも喰いつきそうに歯噛みをしていた。(先程はなぜ、男と思ったか・・。そりゃあ当然、男だろう?腰布1枚きりでしかも動くにつれひらひらする、その下のおれの拳よりも大きそうな球体。なによりもおんなの腕ほどもある男根なんぞを見せられては・・間違いない。それにしても初見だと思うが・・このおれに対する敵意はなぜだ?)

『あぁ、また厄介ごとか・・?どこへ行っても、拙者の人生とは・・一体。』


黒影の牛人が大きな体躯から来る迫力と睨みつけに加えて独り言に答えるようにとても牛馬とは思えぬ猛獣の咆哮をあげた。

「ごがぁーーーっ!」


正直言って、あっちの世(前世)で数々の修羅場を潜り抜けておらねば、腰を抜かして小便でも垂れていたかもしれん。

意気地を奮い立たせるために、あえて独り言を声に出して話す。

『おいっ!ここは地獄か?牛頭鬼ゴズキだとっ!?それとも・・どこだ?』

こちらが話すうちにも、牛人の方は襲いかかるスキをうかがうように目をギョロギョロと向けて睨み続ける。その姿は全身本当の牛みたいに真っ黒の短毛におおわれ、最初は作り物の面かとも思ったが首にもつなぎめや面止めの紐らしき様子もまるで見てはとれなかった。

これはホントに精巧なからくり面でも付けているか・・?もしくは実物の生き物だと考えた方がムリが無かろう。

「ぐぅーふー、がぁっ!」

苛立ち叫ぶ姿は噛み付いてきそうな顔でヨダレを垂らす様子とあいまってやはり作り物などとはとても思えん。

思い返せば《童神》様とてあのお姿で「百年以前よりも前に封ぜられて力はひと時よりもだいぶん失せたものよ・・。」とは言っておられたが人の魂魄を自由にして古巣と言っておられたこの世界へ新たな命として己を送る事の出来るほどの権能をお持ちなのだ。

『くわばら、くわばら・・。まったくどの様な生き物や物の怪がおるやら、わからんな。コイツも!やはり牛頭鬼ゴズキでは無く似た姿の異界のバケモノと思ったほうが納得できる・・。』とひとりごちた。


とそこへ突然、牛人?とのあいだを割って赤い人影が飛び入ってきた・・。

「そこの少年っ?!この場は危険ですよっ早く下がりなさい。わたくしがミノ公の相手をしているうちに、下がりなさい!早くっ!!」

どうやら、やっぱりここは地獄などではなく《童神》様の告げたとおり別の現世だったようだ。

本当に地獄だったならば獄卒として目の前のこの牛頭鬼なんぞはおるだろうが、牛頭鬼との間に割って入ってきたようなこの若い女などはおらんもんだろうし、ましてや初見のおれに助けの手など入れんだろう。退屈だった寺の坊主のはなしにも地獄の赤天女なんぞ一度たりとて聞いたことなど無かったからな。

しかも声や仕草、後ろ姿からながらもなかなかに妙なる美形であることがすぐわかるほどの絶世の異国風美女だ。

おのれにとっては居やすそうな世らしかった。

『《童神》様々よ!さすが我が朋輩。生きるのになにが一番大事なのかよ~く分かっておられる!』

以前、巷の噂に聞いた【エゲレス人】の姫でもこの様であったろうか?朱の滝のごとき真っ赤な髪は腰近くまで届くほど長く、しかし香油などで手入れをされ綺麗に縄状に幾重にも編んである。黄金色の変わった形の飾り物が幾つも髪に腕輪に腰帯にも編み込んでありなかなかに地位や財力の有るおなごだと思われた。それに後姿からでも分かる乳と尻の量感のある事よ、大きさ重さを若さと張りときたえた筋肉が見事に支えきっていて、下履きよりもあられもない装束でとても戦備えには見えん衣服だったが、それごとまるでうまそうな果実のごとく揺れに揺れて目を離せなくなりそうだ。

「ハッ!」

おんなは西洋風長剣を鞘よりすらりと抜くと身体を回転させて牛人の左肘へ切りつける。

ザッ!牛人の腕をかすめる剣先。

『(浅い!斧の長さを恐れて踏み込みも浅くなるか・・。)』

「ブゴゥ~ッ!」

怒りに任せ当たらない唐竹割を何度も赤い影に浴びせる牛人、おんなは小躍りするかのように足踏みだけで舞踏のように身をかわすが・・。

『おぉ見事!揺れるものよっ!』

一度は否定こそしたが、此処こそ【エゲレス人】の伝える本当の天国(パライソ)かとも思えたほど良い眺めだった。

この世がこの女人の様な者ばかりならおれは目を何処にやれば良いのか?いや、この天上の光景を見ぬのは一生の損だ。

こんなに美しい女など元の世にはそうそうおらん。

故に日の光に映えるみごとな朱色に照り返す御髪おぐしとあいまって白く照り返し揺れる胸乳のふくらみよっ!

古い社にいた《童神》様の事を、白い小僧っ子神と心中では侮る時もあった。がしかし、今は真実感謝しておる。御言葉がやはり嘘ではなかったと身に染みた。

「フゴッフゴッ」

おんなのみごとな肢体が牛人の眼にも入ったか、この国での当たり前の衣装なのか、胸の膨らみや尻たぼ丸出しの革も使った金属鎧?下履きらしきものも!

(いくら末世で世が乱れたと言ってもこれはもういかん。衣服や鎧の体をなしてはおらぬし、元来は肌身を傷付かぬよう隠し、守るのが衣類の仕事ぞ!それに岡場所の女でももう少しは肌を隠すものだぞ。)

と、おんなが何かに気づいて悪態をついたようだ。

「このくそっ!たたき切ってやるっ!」

良く見れば、牛人もおんなの色香を感じたものか?汚らしい腰布の下より

突き出た・・。先より二回りは大きくなったであろう陽根を小太刀のように左右にふって、斧と調子を合わせておんなを追い詰めようとしている。

『何という・・!?牛人の攻撃方法といい、おんなの鎧姿といい・・。』

あまりといえばあんまりな予想外の出来事の連続に戦鎧いくさよろいよりはみ出た女の尻をぼーっと見続けていると・・


 ぱんぱかぱっぱ、ぱんぱかぱっぱ、ぱー!びきにあーまー!

『うおっ!何事!』

 突如としておのれの頭の中に気の抜けるような異国風の御拍子が聞こえた。

 

  Ⅰべる’ずびきに・あーまー   

  級 位・・・・五級         

  耐久力・・・・八        

  防護力・・・壱十       

  重 さ・・・・弐       

  早 さ・・・・壱              

  抗物理・・・・弐  

  抗魔力・・・・壱                                                   

  価 格・・銀四十 枚                                       

 ~~~~~~~~~~~

  Ⅱべる’ず薄外套

  級 位・・・・参級

  耐久力・・・・参

  防護力・・・・四

  重 さ・・・・壱

  早 さ・・・・壱

  抗物理・・・・壱

  抗魔力・・・・弐

  価 格・・・金壱 枚


 そして、浮かび上がるわけのわからない数値らしきものの羅列。いや、何故か分かる。注意を集中すれば、何のための数字か全部分かるのだが・・。

おのれの心が思考がついていけてなかった。

『なんだ、これ!なんだ。どうなった!拙者のあたま?』

じぶんの身のまわりを手早く調べ直したところ体格は幾分小柄になり、以前の傷跡や黒子などは全て消えていた。しかし、若い肌にたくましい手足を見れば前の肉体に比べ随分と良い身体にしていただけたものだと思った。次に半ばワクワクして帯に手挟んだ小柄の刃に映して見えたのは、目は以前と同様やや浅黒い肌の黒目・黒髪の若くしなやかで精悍な面構えの少し異国風な雰囲気を持つ青年の驚く顔だった。

『なかなかじゃあねーか?今度のおれは・・。ッ!』


なぜか一瞬、悲しそうなお紋の姿が脳裏をよぎった。


嫌な思いを振り払うように思考を無理矢理ほかの事に移した。

いまの着物は依然とおなじ前のままの薄汚れた一張羅に帯、それに下帯

『なんでぇ!古いなじみの洗い晒した薄浅黄の着流し一枚。したははだけた下帯姿じゃねーか!女のこたぁ言ってられねえなあ。』と愚痴ったが、実際からだにも少し合わなくて困った。

その間にも目の前の美女(という名なのか?)と牛頭鬼のチャンバラは続いていたようで、きこりの斧の柄が長くなったような刃すらない金属の塊りのような鈍器ともいえる凶器を力任せにブンブン振り回し、下半身でも牛頭鬼の凶悪な武器が〈べる〉を狙う。

一方やや、先ほど抜き放った幅広の西洋剣らしい直刀を流れるような型と技で身体を回転させて大きく振るう〈べる〉の姿とで牛人との優劣が見えてきた。構えや技の見た目に違和感はあるがある程度は理にかなった剣に思える。ただし、撫切なでぎりはあまりせずに振る勢いで叩くように押し切る剣だ。使い方は、青龍刀なんかに似ているか。

ただ、今のままでは膂力りょりょくと持久力の差が女の身でどれほど持ちこたえる事ができるかどうかが肝心だ。

打ち合いや肉弾戦が続けば明らかに美女の〈べる〉さんの体力負けだ、相手の打撃力が彼女の肉体に負荷をかけて行き、やがて力を奪い武器か肉体を壊すだろう。

体重も体力・筋力も相手に相当分がありそうな見かけだ。


『牛人から離れてっ!力でやり合えば分が悪い!得意な早さ勝負で後ろから手足の先をねらって切り飛ばせ!だめなら相手が振りぬいたあとで首や胸の急所を突け!』

 声をきいたとばかりに女は一瞬だけこちらに振り向き小さく頷いた後、素晴らしい動きで牛人に向かって走り出した。

距離をとるのかと思えば、真逆に全力疾走して牛人にまともに突っ込むと見せかけつつギリギリ真際で体を入れ変えて左足首の脇に滑り込みながら剣を振り抜き弁慶の泣き所を切断した。

「えぇーい!」

ザンッ!『やった!』

「ぶもおーっ!」牛人の悲鳴がとどろく、これが断末魔になるだろう。

左足を切り飛ばされ動けなくなった敵の後始末などで彼女が負けることはあるまい、あの剣技の腕前なのだから心が折れた敵の処理等何ほどもあるまい。

思った通り〈べる〉さんが次の一振りで横なぎに牛人の首をあっさりと飛ばした。

ドザンッ

「ぶぅごっ」

牛人は得物を持ち上げる間もなかった。

頭を失ったからだは一度膝立ちとなり、正座のように座り込んだ後で前?に倒れ込んだ。

ドッ・・ドサリッ! ドザッ

「・・おっと。」空へ上がって落下してきた首が彼女のそばに落ちたらしい。

踊る様にかかとを跳ねて可愛いいところを見せる赤髪の女戦士。

シューッ

噴水のように胴体の首筋から吹く赤い血潮が次第に銀色のきらめく光の粒となり、死体を残して空にとけて消えた。

「ふうっ」

彼女も何気ないようでも緊張していたのか大きく息を吐いた。


「色々と聞きたいことはあるけど、とりあえず助言の事はありがと。あたしの名前はベルサンドラ=オ=フレイムと言うわ。ここから一番近場の街市「エルドラ」ではそこそこ知られてる女冒険者よ。」

言いながらも剣をボロ切れで拭きあげている上、形の良い尻とくびれのあいだにちゃんと予備の湾曲剣が下がっている。

『手練れ・・だな。高名な武士せんしなのでござろう、まずはこちらもお助け頂き誠にかたじけない。ベルサンドラ殿!』

言いようはなんとか恰好をつけたが・・。

向かい合って立つと小娘のように興味に輝く瞳、濡れる唇に白く光るような胸乳の膨らみと暗く影を落とすその谷間のせいで、

落ち着かぬ事この上ない。

背丈の差でどうしても視線が豊かなふくらみの

谷間を彷徨う。 

彼女は青少年の視線の先に気づくと仕方ない弟を見る表情でもって

クスッ と小さく笑い上掛けのように羽織った薄外套で素早く身を包むように胸元を隠すようにまとった。

しかし、元からスケスケの薄衣だからよけいに扇情的に見えた。

「いいわよ、助言で冷静になれて助かったし、あなたもホントはただ助けられている様なヒトじゃ無いでしょう。うちは家系が武闘派貴族閥の端くれだしね、幼い頃から家事よりも戦う事はしっかり教わってた。しかも跡取りなんか関係ない女の身だからまだ男子よりは自由はあったわよ。将来、政略結婚だとしても気分だけでもまだ責任が無い分、楽なもんだし・・ね、あなたは?」

 

『拙者は・・遥か遠くの異国より流れてまいった者。国元で些細な事で恨みを買ってしまい、妻子を守りきれずにすべてを失った所を、友人に助けられてこの地に流された・・。ただのバカな男でござる。』

気を取り直し向かい合って話そうとベルサンドラを見るとまた、少しの身長差がどうしてもわずかな外套の隙間より覗く豊満な白い胸乳の膨らみにどうしても目が行く。

慌てて視線を外したおれはベルの視線をなおさら意識して童貞の若造のように顔を赤らめた。

『そして今さっきご覧になられた通りに牛人?に襲われそうになっていた所をベルサンドラ殿に助けて頂いた。』と言って爽やかに青く広がる上空を見上げた。

本当のことを言っても、信じてもらえるかどうかも分らんしな・・。

つられて上を見上げたベルサンドラは「思ってたのと違う・・。」と本当にすごく小さい声で呟いた。

参九郎はなにが、どう?とは聞かなかった。聞こえなかった事にして聞き直した。

『ん?いかがした、ベルサンドラ殿。』

そう、どんな者にも色々とあるものなのだ。

「ベルでいいわよ、でさっきの話ホントなの?あっはははっ君の年でもう妻子持ちだったの?すっごく若くにしか見えないんだけど・・?」

ベルは涙を流して笑いころげながらも「まだ成人前にしか見えないのに?もう一人前に男でそんなに子どもがいたの【スケベ】なヤツだったんだ。」と茶化した。

 突然の涙に違和感を感じていたおれは言葉を選ぶ。

『しかり、男女の事は・・いや、妻子の事は何より大事。しかし、己の徳の無さのせいで妻も子も大変に苦しめた末に死なせてしまった挙句に、拙者も流罪も同然。今更2度と故郷にも戻れなくなった。』

ベルはおれが真剣に話していると知ると急にシュンとして元気をなくし

「なんか・・その・・ゴメン・・。」と素直に謝ってくれた。

『いや、拙者こそおのれの自業自得。業の深さゆえに要らぬ恨みを買ったまで・・。』

そこまで告げてお紋を思い出し今更ながら半ば泣きそうになるのを必死でこらえた。

『そして「生まれ変わった気でやり直してこい!」と友人に言われ国元より追出されたわけでな・・。せっかくなので言われるままにこの異国の地で思いっ切りあばれてみようと思ったのだ。』とベルに告げた。


「ふーんっ、そーなんだ・・。」

ベルが首を コテンと傾げて、無邪気にも不思議そうに聞き直す。その仕草がむやみにかわいかったのでついついいつもの調子で余計な事を口走らせた。

『剣はあつかえる、地位も金もあり人望も有るのでござろうな。そしてその心根は素直にして容姿も天上の姫かという程に大変に美しく可憐・・。まったく、反則でござるなベル殿は・・男なら誰でも、いや己が妻子を失ったばかりなのでなければ決して誰にも渡しはせぬものを・・。』

といつもの調子で若い頃お紋をはじめ数々のおんなを射止めて故郷に知れ渡った【口喇叭くちらっぱの参九郎】のいわれを遺憾なく発揮していた。

ベルは意外と耐性が無かったのか、カーッとほほを赤らめくるりと後ろをむいた後で小声で呟いた。

「(ばか、恥ずかしいでしょーが、年上をからかうな!このエロ小僧っ!)

それで君の名前は何ていうの?流人だったらはばかられるカナ?本名でなくともいいよ、通名とおりなでも・・。」

言いにくい事をサラッと聞くとそのままベルはスタスタと落としてあった真紅の長外套❨ロングマント❩の所まで行って身体を隠すようにつつみまとった。

今度は元から「びきに・あーまー」の上より羽織っていた透ける様な薄衣ではなく、普通に旅支度をするときに砂塵よけや寒暖差をふせぐため着込む厚手の外套を戦いのために脱ぎ落しておいたものらしい。

そのままさらにベルはスタスタと落としてあった牛頭鬼・牛人(この世では「ミノタウロス」と呼ぶそうな、さっきベルの言った「ミノ公」とは蔑称とのこと。)の首と死体を一緒に腰の帯に下げたと呼ぶ道具を使って運ぶ。(これも魔法とやらと錬金術と言う技術の粋を集めた大層なという物の1種で魔法術式長持用道具だそうな。しかしまさか、五合ほどの酒瓶のような硝子容器に九尺ほどもあろうものが入りきるとは思えなかったが・・。西遊記の金閣・銀閣のひょうたんとでも思えば良いか・・。)

そのとやらに入れた牛人を近場の街のエルドラへは(馬に二人で乗って)2日ほどの距離へ行き、街内の組合ギルドに売りに行くのだそうだ。

「そ~んなに考えなきゃいけない事~ッ!」

『(おっと!)いや、あいすまぬ!国元とここの風習があまりにもちがうゆえに少しぼ~っとしておった!おれはさん、』

参九郎だったが別な世に来たのだ・・。《童神》様も生まれ変われと言われた。

そうだ!そして、もう二度と前回の轍は踏むまい。

牛人・牛頭鬼のいる新しい世界・・か、あらたはあの時なんと言った・・。(つぎは誰が鬼の番だーーっ)と叫んでいた。

・・』つぶやくおれ。

お前の方が鬼畜生だろうが・・あらたよ。

妙に鬼という存在に胸騒ぎをおぼえた。


「えっ、なに!なんて言ったの?」

とベルが聞き返すのに答えるおれ。


『参・・斬鬼ざんき・・。』そうだ、もうお江戸も武士もねぇ世の中だ。

貴族だ平民だのはある様だが、郷に入らばの例えも有る。

「えっ!」

意外だったのか、聞き取れなかったのかもう一度ベルが聞き返した。

その眉根を寄せいぶかしむ顔も魅惑的で綺麗だ。

『拙者、いやおれは・・斬鬼、そう・・ザンキと呼んでくれ。』

(そう、前世では家族や惚れた女一人すら救え無かったおれだが今度は違う。人じゃねぇ鬼共はたたっ切る、たとえ人の姿をしてようが心の鬼ごと切って切って切りまくる。大事なものは必ず守り通す、邪魔する者は王侯・貴族だろうが鬼神・変化だろうが容赦せん。)

「ふーん、変わった異国風な名前だよね、それ!」

ベルの返事に心中の決意をバカにされた気がして少しムッとした。

そのうえこの女やはり鋭い、と思った。言いなれてない名前だとちゃんと見抜かれてるな。

『ほっとけ!この裸女!』ついほっとして気やすく悪態をつく。

真っ白い肌を桃色に染めたベルサンドラが言い返す。

「なによ!ガキのくせに胸ばっか見んなッ!ドスケベ!それともミルクでも恋しいの?この赤ん坊はっ!」べーっと舌を出し腕で乳を覆い隠すベル。

売り言葉に買い言葉、『そんなに言うなら吸ってやるっ!今頃隠しても無駄だ、蛮族・裸族、露出おんな!』ただただ子供のように言い返しあう俺たちふたり。

「き~っ!これは冒険者としては普通の姿だーーっ!あんたなんかに触らせない!」

『うそだーーっ!ベルはエロおんなーっ!』


ふたりは仲良く、ベルの持ち馬に前後に乗ったままに言い合いを続けながらエルドラの街を目指し先へとのんびり進むのであった。


若い女は皆、こんな姿で外を出歩くのか?色ボケで溢れた荒淫・淫乱の世か・・楽しみな様な、怖いような世界だ。


おれはこの先々で色々と大丈夫なのだろうか?ってか!


 

               

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RE:剣鬼伝 ー幕末剣鬼の異世界真剣章ー ズバーP  @kou1dayo8

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