RE:剣鬼伝 ー幕末剣鬼の異世界真剣章ー

ズバP 

第壱話 闇にて候・・  ♡◇

 ♡今回の話には一部性的表現や、◇残酷な描写があります。

かなり表現をあいまいにしましたがくれぐれもご注意ください。

 

 夕刻を過ぎると一気に辺りが暗くなリ始める、江戸の町並。

ごく一部の毎夜に金銀がとびかう事で不夜城と化す例の地域以外は江戸城下であっても将軍の御膝元でも案外こんなものだ。

もっとも、どこもかしこも明るすぎると夜の闇に身を隠して一寸の義をとおす、俺たちのようなまがい物の正義には【仕事】がやりにくくなっちまう。

『おもん、いないのか!』ひそめた声を鋭く掛ける。

貧乏長屋の薄暗いヤサに立ち寄ったが、中に気配がない。

やはりおかしい、いつもなら用心深い女房あいつの事だ。

裏の仕事がある夜は必ず簡単に旅の用意を整えて、息を殺しておれを待っているはずだった。

それがもぬけの殻だ、やはり今回の一件はいつもと違う。

幼い頃からの首筋の予感に障る重く暗い・・とてもヤバい気がした。

ガキの頃より、身命に危険が迫ると首筋の後ろがざわつく予感?

いわゆる【知らせ】をもらえた。

それが今夜はいっとう響きやがる。

己の身もそうだが、用心深いはずの女房お紋の動きもいつもと合わねぇ。


 ピィーピーッ ピィーッ

「御用だ!」「御用っ御用!」ザッザッザッ!ザッザッザッ!


 すぐ近くに聞こえる捕り方達の呼子笛だ、以外と足が速い。

左手の龕灯がんどうのろうそくを一息に素早く吹き消すとヤサの裏口から そおっと忍び出る。

いくら異人共が幅をきかせて徳川幕府を骨抜きにしようと、北町奉行だけは御上の御威光をどうしても守るつもりのようだ、おれたち下々にゃ手加減などまったく無しで終生生殺しかよ・・。

心配していたとおりおれたちののお頭とかねてより約束のしてあった、江戸からの逃走用の五両の金もヤサの釜の中に入っては無かった。

『言わんこっちゃねぇ・・。相手が悪かったか・・?』

考えたくは無かったがやはりお頭か、お紋たちに何かあったに違いねぇ、普段滅多と無い事だけにさらに不安がつのる。

この件を引き受けてからの危ない予感・・【知らせ】が首筋のうしろにいつになく切りつけられた時のように心の臓の動きに合わせるがごとくジンジンと響いてくる。

『やはり世直し人よなおしにんだの御頼み人おたのみにんだのになんてなるもんじゃなかったな柄では無い・・。』

 下町の影の同心などと町人たちは持ち上げるが、要は安い銭で引き受ける夜の街のただの殺し屋だ。

お上の役人に取っ捕まれば、まずは死罪は免れねぇ事になる。

今回も幕府勘定目付の手下の同心たちが相手という普段ならとても手を出せねぇほどの、お偉いさんたちの名を詳しく詮議するのにお頭とお紋が三日も掛けて探りだした結果だったが・・。

相手が相手なので今ののお頭での最期の仕事として受けて皆で姿を隠す事とした筈だった。


 その勘定目付の手下、同心のなかの一人がまいないを得て悪事を働いていると訴え出た下町の潰れた商家の娘の願いで、おれたちが突き止めた名前こそ竹崎 源丈たけざき げんじょうという悪徳役人。

その名はおれたち夫婦にゃ昔を思い出す心底嫌な名だったんだ。

俺の実家のある上野こうずけ藩で勘定方を任され大いに権勢をふるっていたのが先の竹崎家たけざきけ、の本家筋である竹崎家ちくざきけだった。

お頭の方の調べでも、もちろんおれよりヤツあらたを嫌っていたお紋の方の調べにも実家の方の上野こうずけ藩の名が出なかった為に一先ず安堵して、その娘の話通りだと判断して詮議を終えたのだった。


 ・・しかし、いざって所で北町奉行所の奉行榊原さかきばらの配下で鬼同心で知られた裏功部 一新うらこうべ  いっしんたち捕り方共になぜかすでに裏働きの動きがバレており、商家の娘は付近を縄張りとするゴロツキ達に攫われて何人もの男達に乱暴されたあげく口封じで無残にも切り殺されていた。

おれと裏仕事の仲間も三人共に捕り方たちに十重二重と囲まれた。

やっとのことでひとりだけ逃げ出しヤサへ向かったが妻のお紋がいなかったので結局無駄足を踏んじまった。

慌てて逃げようと裏道を出たところで、出会い頭に坊主頭をした捕り方の一人と出会い目が合っちまったてぇわけだ!

「ここにいたぞー!」坊主頭がおれをにらむ。

ピィピィーッ!呼子笛を吹きやがった!咄嗟の反応が並の捕り方のボンクラ共とちがって早ぇ!すぐにもここに他の捕り方どもが大勢集まって来る!   

「・・・御用っ御用!」ピィピィーッ!

「御用だ、稲妻の参九郎だな神妙にしろぃ。」有象無象の捕り方共と違い落ち着いてやがる。その上にふたつ名をも名指しだ。

チッ『もう面も割れてやがる!!』相手の体格は小柄だが、動きが突拍子もなく早い稲妻と呼ばれたおれとさほど変わらぬほどだった。

 動きは同等、六尺棒を右袈裟に構えてこちらを睨んでいやがる。まるでスキが無い、素人の動きじゃねえ。ゆっくり腰を落として、左腰に落とし差しにした無銘の愛刀の柄頭の一番端を右手指四本で絞り上げて持ち小指を添える。久しぶりに骨のある相手のようだ。こめかみから汗が一粒流れる。

『てめえ、ただ者じゃねえな。』左手を鯉口に添えてじりじりとずらしてゆく、そして間合いをとって交差する時を待つ。摺り足で間合いを計り、気を練り時を待つのだ。そして万が一にも相手に遅れを取らぬよう気をそらし惑わすため声を掛ける。

『お前の名は何という?』もう少しで一刀足いっとうそくの間合いの端境はざかいに入る。そうなれば・・ひとっ飛びで六尺棒ごと首を・・

手下テカ共や近隣では「猿の悟空」ましらのごくうと呼ばれとる。」

『!?なにっ!』 叉の名を「麹町の悟空」かっ!棒術を使う今売り出し中の元僧侶の目明かしだ、しかも珍しく良いヤツとの世間の噂だ。

まずいな・・多分勝てるだろうが刻をとられて取り方に囲まれ、逃げられなくなるかも知れない。

剣では勝っても捕り方に捕縛されるだけだ、しかも江戸っ子の恨みを買っちまう・・。

この場は何とかなっても、行く先々で人々に牙を向けられるとなるととっても逃げきれねぇ!

噂を信じるか?疑って斬るか・・去るか・・。


『どうする?』

ものは相談とも言う、ままよ!

『悪いが見逃しちゃあくんねえか、無駄に人を斬りたくない。』

 悟空は挑戦的ににやと嗤う「あっしが負けると思ってなさるんで」

棒の先端の影で顔を隠す、遠近感、距離感を狂わす手に出た、思ったよりも使う男だ!腰を落とすのをやめ剣気を消すと悟空が訝しがる。

「どうしたぃ、やらねえのかい。」

『おれ達は言っちゃ何だが悪人しか殺さねえのを決めている。』

悟空も構えを解くと少し小声で俺に話しだす。

「やはり噂は本当だったのかい!イヤになるぜッ!まったくよう・・。」

吐き捨てるように言うと悟空がおれの袖の袂を掴み引き寄せる。

『なんでぃ?!一体何のこった。』

さらに声を落とす猿の悟空。《ましらのごくう》

「オメエさん達ぁめられたんだ、裏功部うらこうべに…。夜の仕事が少し目立ち過ぎたってことよ。」


『!?・・うちのお頭はどうした?』

町屋の影に潜み小声で話す二人。

「今度の件・・もち、グルとまではいわねえが、裏で何か取引でもあったんだろう・・ただしもうおめえ達のお頭は三途の川は渡ってるはずよ。あの腹黒い裏功部うらこうべの野郎が証人を生かしとくわけねぇし、それにどんな約束かわからんがあの、腹黒がちゃんと守るとも思えねぇ。」

『クソッ!しかし、いいのかおれに喋って。』

「いいのさ、おいらも天下のお江戸で目明かしを張っている男だ。本来、弱いもの虐めするような奴はいけすかねえし許せねぇ。」

言ってる事は威勢は良いがその顔が力もなく半ば泣き笑いの表情を参九郎に見せた。

『かたじけねえ、恩に着る。』

参九朗の礼には答えず

「悪い事は言わねぇが、お紋さま・・と言ったか?奥方さまの事は諦めな。裏功部うらこうべの籠の鳥さね、玩具扱いさ。」 

嫌な考えが浮かんで、怒りの余りにギリリッ!と噛み締めた奥歯が鳴った。

 その時! 

ピーピー ピーピー 「御用だ!」「御用っ御用!」

捕り方共の呼び子笛だ。悟空が呼び込んだのが人数を引きつれて来たらしい。

笛の音の方を向くとあきらめたようにぽつりと言った。

「悪かったな、さぁ!早く行きな。」

俺は頷くと走り出した。

『すまねぇ・・猿の』

猿の悟空は振り向かず、手を挙げてせかすようにただ振った。

「・・行け!なんとしても・・おめぇだけでも生き延びろ。」

他の捕り方に聞こえぬように、祈るように・・つぶやいた。



 

 走り出し逃げながらあの、真面目と正直者を絵に描いたようなお頭を思い出した。白髪の好々爺を、つい先日の縁側での笑顔を。「参九郎殿、お紋様を大切になされよ。」悪戯っぽくニカッと笑った表情を・・。

『あのお頭が、お上とはいえ悪党なんぞと・・取引?解せねぇ、よほどのネタでもあったか・・よほど組内に取引してでも助けたい者でもいたのか?』 



 その後はどうやって逃げたか、死に物狂いで全く覚えちゃいねえ。だが後から思い返すと捕り方の動きもおれの逃げ道も誰かに操られていたように思えてならねえ、事情をすべて知ってる者が

獲物を罠に追い込むようないやらしいやり口をおもった。

そうでなければ後々・・。


まあ、お紋の事は気懸かりだが一刻余りも気を張り逃げ隠れしながらじゃあ体ももたねえしどこかで休まねえと・・。ふと見渡すと薄暗い雲間からもうほんのりと明かりが差してくる。周りももう町中の景色じゃあなかった。

山里だ、しかもここは・・。

『ガキの頃遊んだ事のあるあたりか!?ありがてぇ、この裏山に確か神さんの祠があったはず。ひとまずの隠れ場所にはなる。』

崩れかけた鳥居や社を越えて奥の祠に潜り込む。

夜まで寝るには、少々じめじめしてはいるが贅沢は言えない。

疲れはてていたのかいつのまにやら寝てしまっていた。


 


 寝ている間におれは大昔の夢を見た。

まだガキの頃に近所の護陵神社で誰かと遊んだ夢を・・真っ白い子供?と白い犬っころとおれで日が暮れるまで遊び回った。

あとで親父にゃこっぴどく殴られて大泣きしたっけ。

その親父に殴られたのはその時とお紋と家を出ると告げた時の二度限り。その怖かった親父も今は鬼籍行きだった・・。



目覚めるともう日が暮れたようだった。

思えば三人?で遊んだあの刻から【知らせ】が来るようになったのだったか・・。しかし、なぜ忘れていたのだろうか。

ふと気がつくと表で人の気配がする。

何人もの人の話し声だ、こんな所で祭りでもあるのか?岩陰からそっと様子を伺うが・・何か熱の籠り様や雰囲気が妙だ尋常じゃねぇ。

『ん?しかもこの声と熱気は・・。』

裏に生きていると時折出くわす光景だ。

大勢の男たちがおんなを思うがままに・・。

身を乗り出して見てみるとやはり、社の前の広場にござが引いてあり裸の屈強な男たちが大勢で立って取り囲んでいる。

その輪を照らし出す様に松明や提灯が用意され汗と熱気で照返す浅黒い男の肌の中に明らかに目を引く白雪の肌が隙間からチラチラと妖しく艶めかしく光る。

その輪の中から閨の時のおんなのアノ声が息づかいも激しくもれてくる。

「あぁっ やめっ ひぃ!」

おんなの悲痛な声に男たちは囃し立てる。

「武家の奥方様だろう!はしたないったらねぇぜ!」

「やめてーいーッ」

「いいざまだっ!」

「ぷりぷりの尻しやがって、・・そーら!」


「やめ・・」

「泣き声もそそるなぁこっちにも早くまわせ!」

「乳も生娘並の色で大きさたっぷりの上玉だぁ」


「もう、もう堪忍してー!」

泣き叫ぶおんなの声がさらに男たちを喜ばせる。

「奥方よぅ!まだまだいるからよっ」

「こんな上玉だぁ!一人二回じゃ終わらんぜっ!」

煽れば煽るほど興奮がつのる。

「御新造さん綺麗な御顔で」

「亭主より先に俺のガキを孕ませてやる!」


「・・いやー!」

口々に卑猥な言葉を浴びせて女体に四方から手を出して押さえつけ、嬲っているようだ。


 『!?まさか!』 サッ と視界が怒りで赤く染まる。

引き寄せた刀を抜き放ち狼のように走り出す。

人の輪の後ろで気配に気付いた男が一人振り返って驚愕に歪む顔をおれの白刃がたたき割る!

「ゴアーーッ」叫びながら血を吹き上げる男、くたっと沈むと地面に血溜まりが広がる。

参九郎は次の男の喉を撫で斬り、血があたりに撒かれる。

つぎを止めようとした手首を何本か切り飛ばしてやっと人垣が割れた。

正面ではやはり、おのれの妻お紋が小柄に見える程の体格の大男に組み敷かれていた。その真白い尻を後ろから汗がかかるほど激しく責められていた光景に頭に血が昇ってしまった参九郎は、技も何もなくその野郎の腹に持っていた刀を抜けるほどに一息に突き立てた。


「うぐうーっ!」

大男が叫んで後ろに倒れた拍子に中で暴れ回っていたデカ物が引きずり出される。

ズルルルッ 

「うぁぁー!」

白い女体を紅白の汁にそめて手足をカエルのような無様な格好で広げ白目で泡を吹き叫ぶ妻、素早くその裸体を火事場の馬鹿力で小脇に抱え上げ刀を無茶苦茶に振り回しながら後ずさる。

『お紋!大事ないか?しっかりいたせっ!』

声を掛けるが、反応は無いに等しい。

「う、あぅ・・。」

そのスキにじりじりとにじり寄る男たちに俺は抜き身を振りかざす。

『よらば切るぞ!』

男達は皆丸腰なのか刃を恐れてまた引き下がる。

 その男たちをかき分ける様に陣笠・陣羽織の立派ないでたちの武士が歩み出る。

『おまえは、あらたか?!』男の正体を見て今度驚愕するのはおれの方だった。

そのすきを狙われて見えぬ方から何人かが一斉に矢を放った。

一射目はまだ何とか避け切り払ったが、数の増えた二射目のうちの一矢を左肩に喰らってしまったおれは勢いと痛みでもんどりうってお紋共々倒れ伏した。

『ぐうぅっ!』

もはや刀を奪われて、引き据えられたあと助かる手立ても無いままに、お紋も再び男たちに奪い去られた上、おれは先ほど手傷を負わせてやった三人の手の無い男たちに木の棒などで手ひどく殴られ続けていた。

もう何度も意識が絶えては水を掛けられてまた殴られ続けていた。

どれほどの時が経っただろうか。

片手は矢傷で動かない、もう片手も最初に折られた。

全身が痛みに燃えあがるようで腫れて傷だらけの血まみれだ。

既に、顔を殴られても痛みをあまり感じない。

 

 ふと傍らで何人もの男達の好きにされ続けているだろう妻を腫れあがり見えづらい眼で探した。妻の姿を見せつける為に両眼は

潰されなかったようだ。

荒縄で縛り上げられて、あられもなく肌をさらした力ない様子で男たちに体を揺さぶられ続けていた。

もう正体もなく手足をカクカクと人形のように揺らしているだけで目は開いてるがもう、おれの事をみようともしない。

 

と時折聞こえる妻の声も単なる息使いなのか、悲鳴なのかも判別すらできずにいた。

苦痛なのか喜んでいるのかさえ見た目でももう判らなかった。


昼は貞淑で明るく夜は淫靡で艶めいたおれだけのものだった愛おしい妻が野獣どもに心身共ズタズタにされていた。

もちろんおれ自身も全身グズグズに腫れあがり血塗れで、骨も何本も折られて体も動かせねぇ。

俺の両眼を潰してしまわないのはお紋の様子を最後まで見せつけておくためか・・?


『もう、・・おし・・まい・ガハッ。』

俺は大男に腹を殴られ血を大量に吐いた。


「ん?参九郎何か言ったか?」

後ろからあらたが楽し気に声を掛ける。

『なぜ・・お紋・・こ・な目・に・・』

「あぁ、女の事か別に俺自身はアレ程度の女に惚れ込んでいた訳じゃない。」

おれの目を覗き込み幼馴染のあらたこと今は 裏功部 一新うらこうべ いっしんが楽しそうに笑う。

「それより、俺は大のお気に入りのオモチャのひとりを身体でたぶらかしやがって俺から奪い取ったのがゆるせなくっていつか必ずこっぴどい目に合わせてやるってこの女に思っていたのさ、二人共お互いに好き合っているのは分かってたから、お前ら両家の貧乏に付け込んで女をおれの許嫁にって言ってやったら、参九郎!お前がどんな顔するのかどんな事するのか見てみたかったんだよ。俺ん家は金もけんりょくあまってるからね。」

『そ・そん・・な・・・』

「そぅ、そんなことさだって幼いころからずっと一緒の三人幼馴染なのにどうして、おれだけ仲間外れなのさっ!おかしいだろう?俺の方が先に参ちゃんと仲良くなっていたのにぃっ!」

クスクス笑うあらた

「しかも、あの女・・・おれ様の事を半陰陽の男女って言いやがった。」自分で袴を脱ぐあらたそして、股間の参九郎の物の半分以下の一物を見せつける。

「腐れ女がどんなに偉いのかひとつ見せてもらおうと思って、今度の事を仕組んだんだ。さあ大詰めだよ参九郎。」

とどろどろの海で半死半生のお紋のところへ小刀を持って近付く。

『ま・て・・まってく・・』もうおれはピクリとも動けそうにない。

「さあ、最後の仕上げだ、この女攫ったとき【】って泣き叫んだんだよ何故だかわかるかい参九郎。」

あらたは ニタリ と嫌らしくおれに向かってわらった。

ぎりい!奥歯が割れた。

『お紋ーーー!』

もうお紋と子の為なら死んでもいいとおれは命の限り叫んだ。

妻は襤褸切れのくずのようになりながらもゆっくりとこちらを向くとおれに微笑もうとしてくれた。

だがそのとき、お紋の片足を持つたあらたはさらに楽しそうににんまりと嫌らしく笑うと一気に小刀を憎い箇所に突き込んで何度も何度もえぐった。

その衝撃でお紋はビクッ!ビクッ!と何度も体を揺らし跳ねた。

おれはそれを目にして同時に血を吐くほど叫んだが・・もうお紋は二度とおれには微笑んではくれなかった。顔はこんなに惨いつらい目に遭ったのに目を閉じた菩薩像の様だった。


 その後、おれも心もなにもかも壊れたんだと思う。

まったく反応を返さなくなった二人には興味がなくなったのかあらたは服装を整えると、おれに優しく話しかける様に声を掛けて祠を出て行った。

「ねえぇ次は何をして遊びたい?つぎこそはもっと長く持つといいねぇふふふっ。次は絶対にボクの順番なんだからっ!」


外から声がうっすらと聞こえた「つぎは誰が鬼だーーーっ!」


 裏功部 一新うらこうべ いっしん 元の名を竹崎 新ちくざき あらた、元上野こうずけ藩の家臣だったおれの火浦家かうらけとお紋の水面家みなもけそして竹崎の家は昔は屋敷が近く歳も近かったから、所謂いわゆる幼馴染だった。火浦家かうらけ水面家みなもけは古参のお抱えで格式は有ったが名ばかりの御役で貧乏、あらたの家は中でも新進の勘定方で重用されて裕福だった。その後はお決まりの通りに年頃になり美人になった紋をあらたが許嫁として欲しがったのだと今までのおれは思っていた。金で嫁を買う真似をしておれから奪おうとしたのだと、おれと紋はその時にはもう仲が出来ちまってたから内密に双方の家の兄貴たちに相談して二人で駆け落ちしたのさ。

結局、あらたの逆恨み?だったわけだ。おれも若かったし考えなしの短慮だったろう、本当にバカだった。そうでも思わなけりゃ紋は浮かばれねえ。おれが紋を連れ出さなけりゃこんな死に方なんぞ・・・。

 暫くしておれは祠の奥ににじってはい戻った。お紋の遺骸は外にあったゴザをくわえて戻って上にかけてやった。

ねんごろに埋めてやりたかったが両手が利かねえ。お紋の顔はもう見れ無かった、

守ってやれなかった妻と子に合わす顔が無かったし早く死にたかった。だが歯も全部折られて1本すら残ってねえから舌も噛み切れねえ。

飲まず食わずで三日をこえる頃、ただ寝てただけのおれに喧しく声を掛けてくる奴がいる。先の夢に出て来ていた白く光る子供だ、おれのことが哀れだの魂が惜しいだのと言って【我とおまえのえにしゆえ古巣に送ってやる。その地で生まれ変わってこい、達者でな!】とあらたに奪われたおれの愛刀を振り上げていつ止まってもおかしくないくたびれたおれの心の臓を突き刺しながら笑って手を振りやがった。唐突な事に少し ムッ!としたおれは暗闇に引かれて堕ちる寸前に、最後の力を振り絞り真っ白い子供に思いっ切り叫んでやった。

『では、おさらば!でござる!』

子供はびっくりして振り向いたが、キョトンとした表情だった。おそらくまだおれが動ける?とは思ってなかったのだろう。その後、子供神が笑った雰囲気が感じられたので。おれは、この世の最後にしてやったり!とおもったね、本当。最後だけはすこーしスッとした気分になった。


 そして、全てが闇になったまま奈落を落ちて行った。


         

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