5:九龍城
九龍町は東西を山と山に挟まれ、間を一本の大きな川が貫いている。
東側の山は「東良山(とうりょうざん)」、西側の山は「西鬼山(にしきやま)」と呼ばれ、古くは平安時代より、東と西に分かれた物の怪たちが来る日も来る日も争いあっていたとかいないとか言われている。
現在、西側は大きく発達し、ショッピングモールやちょっとしたオフィス街で栄えている。教育機関や住宅街なども、基本的には西側に密集していた。
それに引き替え東側では昔ながらの光景が残り、田畑や、ぽつぽつと立つ一軒家など、平和な田舎町と呼ぶにふさわしい情景だ。
そんな東側、特に東良山の麓、東洋地区には、町民に親しまれるお寺があった。名を「九龍城(くーろんじょう)」と言うそのお寺は、夏は東洋地区のお祭り、冬は凧上げ大会の会場になるなど、東側を代表する建造物だ。そして、九龍城は、世界を悪の組織から守る自称正義の軍団、九龍町のFBI、九龍町のアベンジャーズ、「九龍城」の本拠地でもあった。
「名前変えたほうがいいと思うんだけどなー、分かりずらい・・・」
常々思っている疑問を口にしながら、さとりはお寺の隠し扉を開いた。
開けると、そのまま木製のお寺の内装であるが、壁に無機質なモニターが埋められていたり、ボタン一つで外に音が漏れないシャッターが下りてきたりと、どこかあべこべな見た目をしている。
「科学の波には逆らえないからのう・・・」
茶色いスーツに白髪の短髪、おしゃれな白いひげを蓄えた男は、50~60代くらいの見た目と裏腹に、物語のおじいさんのような口調で呟いた。
「いえ、会長、内装より九龍城という名前が分かりずらいので変えたほうがいいんじゃないかなー、と・・・」
「おお依那古ちゃん!! おかえり!! どうだったね学校は!!」
「え、あ、はい、なんだか久しぶりでドキドキしました・・・。それにばれるんじゃないかと冷や冷や・・・」
「あれれ! とっても制服が似合うねビューティフルじゃよ依那古ちゃーん!!」
会長はあまり人の話を聞かない。相手が投げてくるボールを受けとり、しっかりと投げ返しても、また別のボールを投げ込んでくる。それも、こちらが投げ返したボールはどんどん地に転がっていくのだ。
「ありがとうございます会長。とりあえず初日は私が年齢をごまかして潜入している九龍城のメンバーだとは、誰にもわからなかったはずです」
「いや、じゃがなぁ依那古ちゃん・・・、1000年以上前から続くこのお寺の名前を変えるってのはどうじゃろなー・・・」
「・・・? あっ、最初に戻ってる!? いえ、会長! 私が変えたほうがいいといったのは私たちのグループの名前のほうです!!」
「とにかくじゃ!!」
「はいぃぃっ!!」
「・・・とにかく、奴ら『ウーロン茶』に奪われる前に、サイキッカーの卵を見つけ出して仲間に引き入れるのじゃ!! よいな!依那古ちゃん!!!童顔の君にかかっておーる!!!」
「少々不安は残りますが・・・、なんとかやりきって見せます!会長!!」
ゴーン。
17時の鐘が、東地区に鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます