6:想い出は灰(グレー)色

「依那古ちゃんてー、依那古ちゃんてー、前はどこに住んでたのー?」


金井は机に腕枕をしながら、さとりの方へ笑顔を向け話しかけている。金井はコミュニケーション力の鬼だった。幼少期より相手の年齢や性別、性格を問わず、当たって砕けろの精神でガンガン話しかけていく。


一方のさとりは、学生時代に苦ーい思い出を抱えていた。


「え、ええっと・・・、ずっと遠くの県から引っ越してきたの」


「はえー、遠くって???」


金井は無邪気な笑顔で続けた。あまり要領の良い方ではないさとりは、ボロが出るんじゃないかとどうにも歯切れが悪い。


「あのー、きっ、北の方! そう!北の方から引っ越してきたの!」


「北の国からかー! 依那古ちゃん、だっから肌が白いんだねー」


意味が分かりません。


そんなことよりも、周りから、特に女生徒たちから注がれる目線が気になった。それはもちろんん、良い意味ではない。おそらく、この金井という同級生は人気者なんだろう。


「デジャビュ、だわ・・・」


さとりは小さな声で呟いた。


それもそのはず、さとりはその容姿から、何もしなくてもなぜか同性から好意を抱かれずらい。かつて本当の高校生だった際は、今よりも暗く、眼鏡をかけた生徒だったが、それでも鼻につくようで、同性の友達はできず、気づけばちやほやしてきた異性もいなくなり、暗ーい学生生活を過ごしたものだった。


「依那古ちゃん! おーい!!」


思い出の少ない学生時代を思い出しながら宙をぼんやりと眺めていると、金井が視界の端で思い切り手を振っているのが見えた。


すると、ぽけっ、という音を鳴らして、ペットボトルが金井の頭に振り落された。前の席に座る、神居新の一撃だ。


「うるせーっつの優斗。そっとしておいてやれよバカ」


「あでっ! 新! なーんだぁ?お前も会話に入りたいのかー??依那古ちゃん、こいつ神居新ってしけたやつでさー! 俺たち幼馴染の親友なんだ!」


「だれがしけた奴だ」


「すっげー頭が切れる癖に、めっっっちゃ勉強できない面白い奴なんだぜー!」


にしし、と金井は笑った。金井に言われるまでもなく、さとりは前の席の少年の名前を知っていた。というよりも、潜入捜査にあたって、全校生徒の名前を暗記してきているため、顔と名前だけはインプットされているのである。


「神居・・・くん? よ、よろしく・・・」


「・・・」


言うが早いが、新はあっという間に前に向き直り、無反応だった。


「依那古ちゃん、こいつ童貞コミュ障眼鏡ボーイだからやめとけ。攻略するなら時間が必要だぜ!」


カンッ、と炭酸飲料の空き缶が金井に直撃した。


処女で悪かったわね・・・。と思いながら、華麗な空き缶さばきを見せた新の背中を見る。机の脇には、開封未開封入り混じった缶ジュースが数本と、いつも飲んでいるミネラルウォーターが置いてあった。


「依那古ちゃん、放課後空いてる?」


「え、まぁ・・・」


「んじゃ三人でファミレスよってこーぜ! 決まり!!」


金井は言いたいことを言い終わると、上機嫌に鼻歌を歌いながら反対隣の少年へ会話の矛先を変えていった。


有無を言わさず約束を取り付ける金井に脱帽したさとりは、横目でクラスの生徒たちを見渡しながら、ああまた今回も暗い高校生活になりそうだな、と小さなため息をついた。




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