番外編1

 


 


 


「優斗!優斗!見てこれ。美味しそうでしょ?」


朝、目を覚ましてリビングに降りていくと待っていましたとばかりに美琴姉さんがオレに声をかけてくれた。


美琴姉さんはオレに向かって満面の笑みを浮かべている。


「え、お弁当?」


「そう!優斗のお弁当よ!」


美琴姉さんは両手でお弁当場を持つと、オレの目の前に突き出した。


そこには少し焦げかけた卵焼きと、可愛らしいタコさんウインナーが鎮座していた。


「美琴姉さんが作ってくれたの?」


「そうよ。優斗の口に合うといいんだけど・・・。」


そう言って姉さんは頬を染めて、そっと下を向いた。


どうやら照れているようだ。


お弁当を作ってもらったのは中学生の時に、母さんが運動会で作ってくれたお弁当が最後だ。


久々のお弁当。それが美琴姉さんの手作りであることにオレは嬉しさを抑えることができない。


例え、卵焼きとタコさんウインナー以外のおかずが冷凍食品だったとしても、作ってくれたという気持ちがとても嬉しい。それに、冷凍食品でもバランスを考えているのか野菜物も入っている。


それに、オレの大好きな唐揚げも。


美琴姉さんなりにオレのことを考えて作ってくれたと思われるお弁当を見せられて嬉しくないはずがない。


「ありがとう。美琴姉さん。オレ、とっても嬉しいよ。」


オレはそう言ってお弁当を受け取ろうと手を伸ばした。


でも、美琴姉さんはサッとお弁当を後ろ手に隠してしまう。


「美琴姉さん・・・?」


不思議に思って問いかければ、美琴姉さんは


「まだ、最後の仕上げができてないから。」


と、言ってオレから離れて行った。


最後の仕上げってなんだろうか?


お弁当を包むことだろうか?それくらいなら、オレがやるのに。


不思議に思いながらも食卓に着く。だが、美琴姉さんは何をしているのか食卓につく気配がない。もう既に父さんと母さんは座っているのに、だ。


テーブルの上にも美味しそうな朝食が準備万端で並んでいるのに。


「美琴姉さん、朝ごはんを食べよう?」


「先に食べてて。ちょっともうちょっとで完成するからっ!」


美琴姉さんは何かに奮闘しているらしく、こちらを振り向くことなくそう言った。


その言葉を聞いて、母さんがにっこり笑った。


「じゃあ、優斗。先に食べちゃいましょう。美琴は優斗のお弁当で忙しいみたいだから。」


「ははっ。そうだな。美琴ちゃん私のお弁当も作ってくれないかな?」


父さんが美琴姉さんにお願いするが、美琴姉さんからの返事はなかった。無視されたような形になってしまった父さんはがっくりと項垂れて、隣に座っている母さんに宥められていた。


「んふっ。かんせーい。」


しばらくしてから美琴姉さんはそう言ってオレに綺麗に包んだお弁当箱を手渡してきた。


これを包むのに時間がかかっていたのだろうか。


包むだけならすぐに終わりそうなものだけれども、と不思議に思いながらも「ありがとう。」と受け取った。


美琴姉さんはオレがお弁当を受け取ると嬉しそうに笑った。


「ふふっ。じゃあ、私もご飯食べちゃおうっと。」


そう言って美琴姉さんは目の前に用意された朝食を食べ始めた。


「ねえ、美琴ちゃん。私のお弁当も作って・・・。」


「無理。」


父さんがめげずに美琴姉さんにお弁当を作ってもらえないかと尋ねれば、美琴姉さんは速攻でお断りをしていた。ちょっと父さんが可愛そうに思えた。


「あー、美琴姉さんはお弁当持って行かないの?」


「ん?えへっ。お揃いの作ったんだ。でも、見せてあげない。」


どうやら美琴姉さんも自分の分のお弁当を作ったようだ。


就職してからお弁当なんて持って行ったことのない美琴姉さんが、だ。


なんだか、そんな美琴姉さんがオレのためにお弁当を作ってくれるだなんてオレは言葉にできないほど感激している。


オレは、昼休みの時間が今から楽しみになった。


 


 


 


 


☆☆☆


 


 


キーンッコーンッカーンッコーンッ。


お昼を告げるチャイムが鳴る。


チャイムと同時に授業を終えた生徒たちは昼飯を調達すべく、購買へと一目散に駆け出していく。


早く行かなくてもお弁当はなくならないのだが、それでも人気の品は早く行かないと売り切れてしまう。だから、昼休みに入る前は皆そわそわしている。


うちの高校は食堂が用意されているが、実際に食堂で調理されたものが提供されることはない。


その代わりに近くのお弁当屋さんやパン屋さんが校内にお弁当を売りに来ているのだ。


ただ、毎日同じお弁当だけを売っているわけではなく日替わりでメニューがかわったりもする。


そのため事前に注文をしておくわけにもいかず、毎日生徒たちは競い合ってお弁当を買いに行くのだ。


もちろん。いつもはオレもそれに加わるのだが、今日は美琴姉さんのお弁当がある。


朝、出来上がったお弁当を見ているので何が入っているのかわかってはいるがドキドキする。


「優斗?今日は買いに行かないの?」


「ああ。今日はお弁当を持ってきたんだ。」


マコトがチャイムが鳴っても席を立たないオレに不思議そうに問いかけた。


いつもマコトもお弁当を買いに行く。好みが似ているのか、マコトとオレは同じものを購入することが多い。


「お弁当!?優斗が!?珍しいーーっ!!」


マコトはオレがお弁当を持ってきたと聞いて目を丸くして驚いている。


「それより、早く買いに行かないと目ぼしいものがなくなっちまうぞ?」


「うっ・・・。でも、優斗がお弁当だなんて・・・。ねえ!お弁当食べないで待っててよ!見てみたい!」


「んー。わかった。わかった。早く行ってこい。オレ、お腹空いているからすぐにでも食べたいくらいだし。」


「にゃっ!?待っててすぐに買ってくるからっ!!絶対先に食べないでよね!!」


そう言ってマコトは教室からかけてでていった。


短くしているスカートが走ることで風に翻っているが女子としてそれでいいのかちょっとだけ不安になった。が、マコトだから別にいいのだろうと思うことにした。


「優斗、お弁当持って来たんだって?」


席に座ってマコトが戻ってくるのを待っているとふいに分厚い眼鏡をかけた女の子に声をかけられた。


言わずと知れた高城さんだ。


「ああ。作ってもらったんだ。」


「誰に?」


「え?美琴姉さんだけど・・・。」


「えっ!?」


高城さんもオレがお弁当を持ってきていることに興味津々のようで、覗き込んでくる。


だが、まだお弁当は開けていない。マコトが戻ってくるまで我慢だ。


じゃないと、お弁当箱を開いたらマコトを待たずに食べてしまうかもしれないからだ。


「優斗、私のお弁当と交換しよう。」


高城さんはそう言って手に持っていた小さめのお弁当をオレに押し付けてくる。そうして、美琴姉さんが作ってくれたお弁当に手を伸ばす。


「え、だ、だめ。これは美琴姉さんがオレのために作ってくれたお弁当だから・・・。ごめん。高城さん。」


オレは高城さんにお弁当を取られないように抱え込む。


高城さんは、ぷくぅーと頬を膨らませた。


「あー。そんなに美琴姉さんのお弁当食べたいの?」


高城さんにそう尋ねると高城さんはコクリと小さく頷いた。


そういえば、エリアルちゃんもミーシャさんには懐いていたみたいだし、美琴姉さんのお弁当が食べたいのかな。


意地になって拒否するのもなんだか子供っぽいし・・・。


かと言って美琴姉さんが作ってくれたお弁当を高城さんにあげてオレは一口も食べないなんてことはできない。せっかく美琴姉さんがオレのためにって作ってくれたのだから。


「じゃあさ、お弁当半分ずっこにしない?」


オレは高城さんにそう提案した。


 


 



☆番外編2に続きます☆

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