第95話

 


 


「はぁー。緊張したなぁー。でも、美琴姉さんとても綺麗だったなぁ。」


食事会は特に何事もなく終わり、解散したところだ。


オレは皆が出て行った部屋で緊張によりこわばっていた身体を伸ばしている。


それにしても、まさかお祖父様がすんなりとオレと美琴姉さんのことを認めてくれるだなんて思ってもみなかった。


まあ、心構えについて多少言われたけど、それだけだ。


当人同士が良いのであればそれでいいという考えらしい。


もっと傲慢で自分勝手なお祖父様だと思っていたがどうやら違ったようだ。


「優斗もカッコイイじゃない。ねえ、写真でも撮ろうか。」


「え?あ、美琴姉さん。」


一人座敷でのんびりとしていると、お祖父様たちを店の玄関まで送っていった美琴姉さんが座敷に戻ってきた。


なにか座敷に忘れ物でもしたのだろうか。


ってか、美琴姉さん今、オレのことカッコイイって言った?お世辞じゃないよね?


「ふふっ。こんな格好させられて、誰とお見合いさせられるのかしらと身構えていたけれど、まさか優斗だったなんてね。」


「ってか、社長さんでしょ?」


「まあ、社長だったけどね。でも、社長は断る気まんまんだったから、あの場では私は優斗とお見合いをしたようなものじゃない?お祖父様にもキツイこと言われたしね。」


「うーん、ま、そうなるのかな。でも、お祖父様に反対されたようではなかったみたいでよかったよ。」


「そうね。すんなりと認められたみたいで少しあっけなかったわ。」


「ははっ。あの人はちょっとツンツンしているところがあるからね。考えていることが、分かりづらいんだよね。でも、言ったでしょ?美琴ちゃんのことも優斗くんのことも大好きなんだって。」


オレと美琴姉さんがまったりと話していると、ふいに割り込んでくる声があった。


「・・・父さん。父さんは知ってたんだね。」


そう言えば、父さんは何も心配することはないとずっと言っていたではないか。


父さんは気まずそうに視線をオレたちから逸らすと、軽く自分の髪を撫でつけた。まるで、自分に対して落ち着けと言っているようにも見える。


「うーん。まあ、美琴ちゃんに好いた相手がいるようなら連れてこいとは言われてたけど、ね。優斗くんなら美琴ちゃんを探しに行くだろうと思ってたから。あとは、驚かせようと思って。」


そう言って父さんはにっこりと笑った。


これで、オレが父さんの言葉を全面的に信じて美琴姉さんは大丈夫だからとオレが学校に行ってしまったらどうなっていたのだろうか。もしかしたら、オレはお祖父様に認められていなかったかもしれない。


そう思うとゾッとした。


「ああ。そんなに身構えないで。ちょっと優斗くんの気持ちを確かめたかっただけだから。」


父さんは慌ててそう言うが、その言葉にオレはさらに打ちのめされた。


まさか、父さんにオレの美琴姉さんへの気持ちを確かめられているとは思わなかったからだ。


軽い気持ちだと思われていたのだろうか。


「・・・父さん。それは言っちゃダメな気がするわ。」


「え、ああ。そうかい?あはは。ごめんね。優斗くん。」


「いえ・・・。大丈夫です。父さんのお陰でオレ、お祖父様に認めてもらえたような気がするし。」


一歩間違えてたら美琴姉さんのことは認めてもらえなかったかもしれないけれど。


「うんうん。よかったねぇ。でもきっと認めてくれると思っていたよ。」


父さんはにこやかにそう言った後に、不思議そうに首を傾げた。


「それより、何か忘れているような気がするんだけどね・・・。なんだったっけ?」


 


 


 


 


 


 


 


「優斗ーーー。優斗のお父様ーーー。どこに行っちゃったのー?」


薄いピンク色を基調とした着物を着たマコトが一人、目に涙を浮かべながら、菊花屋の一室に座り込んでいた。


「お嬢様。こちらでお待ちください。すぐに戻ってくると思いますので。こちらを召し上がってお待ちください。」


マコトの声を聞いた女性店員さんがにっこりと営業スマイルを浮かべてマコトに言い聞かせている。


そして、マコトの前に日本茶と和菓子を置いた。


「そう言われてもう2時間もここにいるんですけどっ。せっかく綺麗なお着物着たのに・・・。優斗に見せたかったのに・・・。」


マコトは菊花屋の一室で座りながら優斗たちが来るのを待っていた。


好みの着物を探すのに1時間ほどかかり、着付けをしてもらって外に出たら優斗たちの姿が見えなかったのだ。


着付けをしてもらっている最中に置いて行かれてしまったのかと慌てて周囲を見渡すと、乗ってきた車が駐車スペースに止まっていることを確認し、ホッと一息をついた。


そうして、菊花屋に戻り優斗たちがどこに行ったのか尋ねたのだ。


そうしたら優斗たちは菊花屋にすぐに戻ってくると告げられてマコトはそのまま菊花屋の一室で優斗たちが帰ってくるのを待っていたのだった。


そんなこととはつゆ知らずというか、すっかりマコトが一緒に来たことを忘れた優斗たちは菊花亭でのんびりと話をしていたのだった。


 







第二章 完


 


長らくお付き合いくださりありがとうございました。

優斗と美琴が皆に認められたので、ここで一旦完結となります。

少し時間を空けてから番外編等を公開できたらなと思っております。


番外編は12月中旬頃から更新していく予定でおります。

もし、リクエストをしてくださる心優しい方がいらっしゃいましたらここのコメント欄に番外編のリクエストを記載していただければ幸いです。

例えば「初デート」の話とか、「ハロウィン」の話とか。ざっくりとしたリクエスト大歓迎です。


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