番外編2
「え?いいの?」
オレが高城さんにお弁当を半分ずっこにしないと提案すると、高城さんの厚底眼鏡の奥にある目が大きく見開かれた。
「うん。構わないよ。でも、全部はダメだからね。美琴姉さんがオレのために作ってくれたお弁当だから。」
オレはそう言ってにっこりと高城さんに向かって笑いかけた。
どうも、高城さんがエリアルちゃんだと知ってから彼女のことを甘やかしたくなってしまう。だって、幼くて可愛いエリアルちゃんなんだもの。
オレは美琴姉さんが丁寧に包んでくれたお弁当の包みをほどいて行く。そうして現れたお弁当箱は一般的なものだった。
オレはウキウキしながら、弁当箱の蓋を開けた。
「あっ・・・。」
「なっ・・・。」
弁当箱の中身を見て、オレはすぐに蓋を閉めた。
でも、高城さんが驚いた声を上げたのが聞こえてきたので高城さんにはこのお弁当箱の中身が見えてしまったのだろう。
「えっと・・・。ごめん。教室で開けるのはちょっとダメだったね。屋上にでも行こうかな。ははは・・・。」
「ふっ・・・ふふふっ・・・。美琴さんやるわね。」
高城さんはそう言って面白そうに笑いだした。
「え?」
「ふふふっ。美琴さんはきっと牽制しているのね。優斗に近づく女の子みんなに牽制しているみたいだわ。」
「え?オレに近づく女の子って・・・。そんな物好きな子っていないと思うんだけどなぁ。」
まあ、確かに高城さんの言う通り牽制しているっていうのもあながち間違ってはいないように思える。だって、これ。冷凍食品が多く含まれているけれど、明らかに愛妻弁当って感じだもんね。
「・・・いるから美琴さんが牽制してるんでしょ。」
高城さんは呆れたようにため息を一つついた。
「お待たせーーーーっ!!今日はメロンパン手に入ったよ!!このクッキー生地がいいんだよね。すぐ売り切れちゃうから今日は手に入ってラッキー。」
と、そこにマコトが帰って来た。両手にメロンパンを持って。
っていうか、マコト。今日はメロンパンだけなのか?
パンだけで栄養が偏らないだろうか。ただでさえ育ちざかりなのに。
「って、あれ?高城さんもいるの?」
「あら。私がいたらダメだったかしら?」
「そ、そんなことないよ。一緒に食べよう。」
どうやら高城さんとマコトは一緒にお昼を食べることにしたようだ。
ならオレはここから抜け出してもいいよね。流石にこのお弁当を二人の前で食べるのはちょっと気恥ずかしいというかなんというか。二人とも美琴姉さんのこと知ってるしね。
「あー。じゃあ、オレは屋上に行ってくるから。二人で食べててね。」
にっこり笑って立ち上がれば、マコトがオレの右腕をガシッと掴んだ。そして、高城さんはオレの左腕をガシッと掴む。
どうして、二人ともこんな時に気があうのだろうか。
「えっと・・・。」
「ダメ。優斗も一緒に食べるの。」
「そうよ。お弁当、半分ずっこにしようって言ったの優斗じゃない。」
「えっ!?半分ずっこ!?なにそれ!!僕、聞いてないよ!!」
高城さんの半分ずっこという発言に、マコトが即座に反応する。
「えっと。お昼休みの時間なくなっちゃうから早く食べた方がいいよ。だから手を離してくれないかな?」
冷や汗を浮かべながら二人に向かって言うが、二人とも首を縦には振りそうにない。
「離さないよ。優斗がここで一緒に食べればいいじゃないか。」
「そうよ。何も気にすることはないわ。美琴さんのお弁当、ちゃんとに見せびらかして食べるのよ。それが、美琴さんからのメッセージなんだから。」
「え、いや・・・でも・・・。ほら、高城さんオレのお弁当見ちゃったでしょ?アレをここで食べるのはちょっと・・・。」
「いいじゃないの。大丈夫よ。誰も見てないから。」
「いや。高城さんとマコトはもれなく見るでしょ?」
「そうね。」
「もちろん。見るに決まってるよ。気になるもん。美琴さんの手作りお弁当。って、高城さんはもう見たの!?なんで!?ねえ。なんでっ!?」
ダメだ。二人とも引いてくれる様子はない。
周りにいるクラスメイトの様子を見てみると、こちらを見て見ないふりをしているように思える。たぶん。
あーもう。面倒くさくなってきたし、いっか。
どうせオレのお弁当を見るのだって高城さんとマコトだけだもんな。うん。
いいや。いいよ。もう。
他のクラスメイトはオレたちのことを気にもとめていないみたいだし。
高城さんはさっき、チラッとオレのお弁当を見ちゃったわけだし。
マコトはマコトだから問題はないだろう。
そう判断して、オレはもう一度席についた。
「わかった。ここで食べるから。早く食べちゃおうよ。昼休み終わっちゃうし。」
「そうよ。それでこそ優斗ね。」
「ほら、早くお弁当開けてみてよ。」
高城さんもマコトもオレのお弁当を興味津々と見つめている。
うう・・・。ちょっと、恥ずかしいなぁ。でも、食べないと美琴姉さんに悪いし。
えいっ!ままよ・・・。」
オレは目を瞑って勢いよく弁当箱の蓋を開けた。
「あああああああああああーーーーーーっ!!!!?」
「ふふっ・・・。」
開けた瞬間二人の目がオレのお弁当に釘付けになる。
マコトは悲鳴に近い叫び声をあげる。
高城さんは面白そうに笑うのみだ。
ってか、マコト声がでかすぎ。クラスのみんなが一斉にオレたちの方を見てきたんだけど・・・。
「は、ははははははハート!!ピンクのハート!!ご飯の上に、ピンクのピンクのハートがあるぅぅぅぅぅぅ~~~~!!!」
そう。マコトの叫び声が全てを説明してしまったが、美琴姉さんが作ってくれたお弁当のご飯の上には桜でんぶで作った特大のハートが鎮座していたのだ。
うぅ・・・恥ずかしい。
しかも、マコト大声で叫ぶから皆こっち見ちゃってるし、しかも大声でご飯の上のハートを指摘されるし・・・。
「ふふっ。これで、優斗を狙う女の子は激減したよね。」
パニックに陥っているマコトの隣で高城さんが嬉しそうに微笑んだ。
☆☆☆
「お弁当、どうだった?」
家に帰ったオレは美琴姉さんにお弁当の感想を尋ねられた。
「あ、うん。美味しかったよ。でも、ハートはちょっと恥ずかしかったかな。」
オレは頬を染めながら今日のお昼の様子を美琴姉さんに説明する。
マコトが騒がしかったと。そうして、マコトのお陰でクラス中にオレのお弁当が愛妻弁当だったということが知られてしまったと。
「うふふ。高城さんグッジョブよ。今度、お礼してあげなくっちゃね。」
なぜか美琴姉さんは満足気に微笑んだ。
この日からオレは毎日美琴姉さんお手製のお弁当を持っていくことになったのである。しかも、毎回お弁当のどこかにハートマークが入っているという手の込んだお弁当だ。
まあ、キャラ弁よりマシかな・・・?たぶん。
☆終わり☆
お読みくださりありがとうございました(*´∇`) 忘れた頃に時々番外編アップしてまいりますのでよろしくお願いいたします!
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