第94話

 


 


「え?」


「え?」


「え?」


「え?」


「ほぉ。」


オレたちの驚きに満ちた声がその場を支配した。


唯一お祖父様だけは面白そうに口角を上げているが。


誰が予想しただろうか。女性である寧々子さんの恋人が女性である古賀さんだなんて。


っていうか、いつから?


「・・・元、恋人でしょ?」


寧々子さんが、古賀さんから視線を逸らしながらポツリと呟いた。


「そうね。でも、私はまだ寧々子のことが・・・。」


「私だって・・・。でも、涼音さんには幸せになって欲しいから。私は・・・。」


「私も寧々子には幸せになって欲しいと思ってる。だから、私は寧々子と別れることを決意したわ。でも、寧々子に不幸になってほしいわけじゃないの。今のやり取りを聞いているとこのままだと寧々子が不幸になってしまいそうで・・・。」


「私・・・私の幸せは涼音さんの側にしかないわ。だから、どんな結婚だってお断りなのよ。」


「じゃあ。寧々子は高梨さんとは結婚しないのね。」


「ええ。しないわ。絶対にしないわ。好きでもなんでもないし。雇用主と従業員という関係だけだわ。」


うーん。寧々子さんと古賀さんは互いしか見えていないようだ。まわりにオレたちがいるのを忘れていないだろうか。


そして、寧々子さんの歯にもの着せぬ言い方に社長さんが口をあんぐりと開けている。


お祖父様は声を殺して笑っているのか、肩が小刻みに震えている。父さんも一緒だ。


「高梨さん。寧々子さんとの結婚はもう一度よく話し合ってからの方が良さそうだと私は思いますよ。どうやら彼女には思いあっている人がいるようだ。」


「なっ!!ですがっ!!彼女は女性ではないですかっ!」


「そうですが、それもまた人生ですな。それに、愛のない生活は辛いのではないでしょうかね。想像してみてください。きっと高梨さんには高梨さんに相応しい方が他にいるかと思いますよ。」


お祖父様はそう言って高梨さんの肩を軽く叩いた。


社長さんはガックリと項垂れた。


「はっ・・・。大変申し訳ございません。私が場を乱してしまいました。」


「よい。古賀さんはいつも良くやってくれているのは知っている。少しは自分の幸せのために動いてくれるかね。私は偏見などはないから。女性同士でも良いのではないかね?」


お祖父様はそう言ってにっこりと微笑んだ。


意外にお祖父様は寛容なようだ。昔気質の人かと思っていたのだがそうではないらしい。


「古賀さんも寧々子さんも自分の幸せをみつけなさい。時に寧々子さんや。高梨さんと合わないようであればうちに来ないかい?オンラインゲームとやらの開発チームも欲しいと思っていたんだよ。だから、高梨さんに声をかけて提携を持ち掛けていたのだが・・・。寧々子さんでもオンラインゲームとやらを開発できるのだよね?」


「え、あ、はい。ただ最初からとなりますと開発期間もコストもかかりますが・・・。」


「ふむ。」


お祖父様が寧々子さんの引き抜きを始めた。っていうか、寧々子さん暴走することがあるから引き抜きはまずいと思うんだけど。引き抜くなら寧々子さんをコントロールできる人が必要だ。


「お祖父様。寧々子さんを引き抜くのは・・・。」


思わず声に出してしまった。美琴姉さんは苦笑しながらオレのことを見ていた。


お祖父様もオレにどういうことかと視線を向けている。


「いや、ほら。寧々子さん暴走するから。ストッパー役が必要かなと思いまして・・・。」


「ちょっ!!優斗クン私は暴走なんてしないからっ!!いっつも石橋を叩いて叩いて叩きまくって壊して渡るんだからっ!偏見を言わないでちょうだいな。」


「寧々子・・・。石橋を叩き割ってたら意味ないから。」


寧々子さんはオレの指摘にムッとしたようで、早口でまくし立てた。


っていうかさ、寧々子さん。石橋を叩くのはいいけど、叩き割って壊しちゃったら意味ないでしょ。それ。


「ははは。寧々子さんは面白い人だね。」


「・・・恐縮です。」


お祖父様は笑っているけれど、何故か古賀さんがお祖父様に頭を下げてるし。


「うん、まあ手綱を握れる人がいないと難しいというのは理解できたよ。寧々子さんの手綱を握れそうな人材が見つかったらまた声をかけさせていただくとするかね。」


「え・・・そ、そんなぁ~。」


お祖父様は寧々子さんを引き抜くことを諦めたようだ。いや、諦めたというか、保留にしたって感じかな。


寧々子さんはせっかくの就職口を無くして少しショックを受けているようだけど。それは日頃の行いってことで。


「寧々子・・・。すまない。オレと結婚してくれとか、退職してくれとはもうオレからは言わないから、うちの会社に残って欲しい。寧々子を引き抜かれるのはちょっとキツイ。」


社長さんはそう言って寧々子さんに頭を下げた。


へぇー。石橋を叩き割る寧々子さんでも社長さんとしては欲しい人材なのか。それだけ、寧々子さんは優秀ってことなのかな。


ちょっと必死な社長さんが可愛く思えた。


こうして、美琴姉さんと社長さんのお見合いは、ただの食事会となったのだった。


めでたし、めでたし・・・?


えっと・・・。めでたしでいいんだよね?


 


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