第93話

 


 


「ふむ。今すぐにではないのかね?」


お祖父様はそう言ってオレを強い眼差しで射抜いた。


「オレはまだ学生です。まだオレでは美琴姉さんを幸せにはできません・・・。」


「どうしてだね?」


「経済的に美琴姉さんを支えることができません。それに、将来的に就職できるかどうかもわからないのに、美琴姉さんに対して責任を持てません。」


「ふむ。」


オレは、今の懸念点をお祖父様に伝える。


すると、お祖父様の視線がさらにきつくなりオレを睨みつけてきた。


「確かに美琴は今の優斗くんには預けられないな。今のままだと優斗くんが就職したとしても預けられるか不安だ。」


「・・・っ!?」


お祖父様はそう冷たい口調で告げた。


オレはショックっで思わず固まってしまう。


お祖父様には反対されるかもとは思っていたが、いざ反対されるとショックなものだ。だが、お祖父様のことは乗り越えなければならない障害だ。


お祖父様に認められて美琴姉さんと一緒になりたい。それが最善。


「どうしてそう将来を悲観するのだ?なぜ、就職できないかも、美琴を養えないかもと否定的なんだ。それじゃあ、いかん。そんな考えの優斗くんには大事な美琴を預けることはできない。」


お祖父様はそう言い切った。


「お祖父様!優斗はまだ学生です。だから・・・。」


美琴姉さんが立ち上がってお祖父様に訴えかける。ただ、お祖父様の鋭い視線に射抜かれて言葉が尻すぼみになってしまう。


「お祖父様・・・。」


「・・・はぁ。何も私は反対しているわけではない。そこは誤解しないようにして欲しい。」


お祖父様は深いため息を一つつくと、そう言った。


オレと美琴姉さんはお祖父様の思ってもみなかった言葉に、ハッと息を飲む。反対されているのだと思った。だから、このタイミングで美琴姉さんと婚約者候補を引き合わせたのではないかと思っていたのだ。


だが、お祖父様の考えはそうではなかったようだ。


「私は、美琴にも優斗くんにも幸せになって欲しいと考えておる。まあ、結婚イコール幸せとは思ってはいないがな。幸せの形は人それぞれだ。だが、後悔をするような生き方だけはして欲しくない。それと、志は強く持て。出来ないかもしれないとは思うな。必ず出来ると思え。やりきると思え。自分には出来ないことは無いと思え。そう強く思っていれば必ず結果はついてくる。」


「お祖父様・・・。」


「お祖父様・・・。」


お祖父様の強い言葉にオレも美琴姉さんもただお祖父様を見つめるしかなかった。そうして、お祖父様はオレたちの視線に気づいてにっこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「必ず二人で幸せになる。そう思っているのであれば反対はしない。むしろ、そう思っていないのならば私は君たちの結婚には反対する。就職しているからとかしていないからとかではない。大切なのには、必ず幸せにするという意思だ。幸せにするためには就職が必要であるというならば、その強い意思があれば就職だって必ずできるだろう。強い意思を持て。」


「・・・はい。オレは必ず美琴姉さんを幸せにします。」


「・・・私も、優斗のことを幸せにします。」


お祖父様の強い眼差しに促されるようにオレは答えていた。きっと美琴姉さんのことを幸せにしてみせる、と。美琴姉さんも同じ気持ちのようで、強く確かに頷いていた。


「うむ。まあ、及第点かのぉ。では、この場は美琴と優斗くんの婚約の場とするかのぉ。」


お祖父様はそう言って朗らかに笑った。


だが、父さんがそれに待ったをかける。


「待ってください。そんなついでのように婚約の場としないでください。もっと華やかに盛大に美琴ちゃんと優斗くんの婚約の場を設けたいと思います。」


「ははっ。それもそうだな。ついでじゃ美琴と優斗くんが可哀想だものな。すまなかったな。美琴に優斗くん。ちゃんとした場を設けるから許しておくれ。」


「え・・・あの。いえ。もう、美琴姉さんとのことを許してくれるだけでオレは・・・。」


「お祖父様、ありがとうございますっ!!」


戸惑いを隠せないオレとは反対に美琴姉さんは嬉しそうに微笑んだ。


まあ、どうやらオレと美琴姉さんの関係はお祖父様に認められたようだ。なんだか、もっと反対されるかと思ったんだけど、やけにあっさりとしているなぁ。


まあ、いいんだけどね。


ただちょっと肩透かしをくらったというかなんというか・・・。


「ああ、高梨くん。すまなかったね。わざわざ来てもらったのに。だが、君も美琴とは結婚する気はなかったのだろう?」


「はい。今日は申し訳ないのですが、オレは、ここにいる彼女との結婚を考えておりますので・・・。」


お祖父様に聞かれた社長はそう言って、寧々子さんに視線を向けた。その視線を受けて、寧々子さんは嫌そうに顔をしかめるとそっぽを向いた。そんな寧々子さんを古賀さんは心配そうに見つめている。


どうやら、寧々子さんは社長さんとは結婚をしたくないようだ。まあ、前々から嫌がっていたもんなぁ。寧々子さん。


社長と結婚したくないから、オレと結婚するなんて言い出すんだもんなぁ。


「ほぉ。それは、そこにいる彼女の意思も確認したうえでそう言っておるのかね?」


寧々子さんのあからさまに嫌がるような態度にもちろんお祖父様が気づかないわけもなく。社長さんは一瞬グッと息を飲みこんだ。


「え、ええ。でなければ、彼女はここに来ていないと思いますよ。」


社長さんは強きに微笑んでお祖父様に答える。だが、社長さんの隣に座っている寧々子さんは首を大きく横に振った。


「・・・脅したんじゃない。一緒に来ないと会社を辞めさせるって。」


寧々子さんは社長さんを睨みつける。っていうか、寧々子さんもう会社辞めて社長さんから離れた方がいいのではないだろうか。それとも、やはりキャッティーニャオンラインに未練があるのだろうか。


「寧々子っ!それは言うなとあれほど!!」


社長さんは寧々子さんをギッと睨みつける。


「ほぉ。同意ではないようだの。私は家族以外のものの結婚に対して何も言う権利はないがな。だが、明らかに嫌がっているのは見過ごせぬ。」


「か、彼女はただ照れているだけです。決して結婚が嫌などと・・・。」


「あなたと結婚するくらいなら優斗くんと結婚した方が良いわよ。」


寧々子さんは社長さんにくらいつく。寧々子さんも負けてはいない。


ってか、そこでオレの名前を出さないでくれるかな。


「寧々子は嫌がっているじゃない。寧々子から手を引きなさいっ!!」


それまで黙って見守っていた古賀さんが、寧々子さんと社長さんの間に強引に割り込んできた。そうして、寧々子さんを背中に庇う。


「涼音さん・・・っ」


「君はなんだね?君に言われる筋合いはないと思うのだが・・・。」


社長さんが古賀さんを睨みつける。


古賀さんはいつもの淡々とした表情を捨て、社長さんを毅然と睨みつけた。


「私は寧々子の恋人よっ!!」


 


 


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